12 露出狂≪ジ・リベレイター≫
朝の訓練準備室はひんやりとした静けさに包まれていた。
ひと汗かき終え荷物をロッカーに入れようとしたところで、違和感に気付く。
ロッカーの扉が半開きになっていた。
「なるほど」
施錠していたはずの鍵は壊され、中はだいぶ荒らされているようだ。
訓練用の剣が鞘から半分抜け、刃がボロボロになっている。
制服や私物を入れていなかったのは不幸中の幸いか。
状況を確認していると、後ろから軽薄な笑い声が響いた。
「おいおいなんだよこりゃ。酷い有様だな」
振り返ると、そこには制服を着た生徒たち男女六人。
それぞれが不愉快な笑みを浮かべてこちらを見ている。
「自分でやったのか?」
「いや、お前達がやったんだよ」
俺は六人に手を向けて詠唱する。
「稲妻の波」
眩い雷が枝分かれに広がりその場にいた全員の身体を貫く。
「がっ!か、身体が、動かねえ」
「な、なにを、したの?」
「言うと思うか?喋れるようにはしておいてやるから質問に応えろ」
身動きがとれない彼らの顔をそれぞれ見ていく。
どれも俺を睨みつけている醜いものだ。
「主犯は……。お前だな」
「そ、そもそも俺達はなにもやってねえ」
「あまり俺を舐めるな。貴様らの魔力痕がそこら中に残っているぞ?実行犯は、男達だけのようだな。女共の痕は出入口で止まっている。2人が見張り、もう1人は笑って見ていたといったところか。鍵を解除したのは体脂肪率80%あるデブ。刀身を壁に叩きつけて傷つけたのは毛根が死んでるハゲ。汚したのは主犯であるお前。違うか?」
魔力痕は嘘を吐かない。
ここまで魔力を隠さず使ってしまえば過去の情景まで辿れる。
なにも知らない素人、学園の生徒ならその程度の知識しかないか。
「知らねえよ!お前なに言ってやがる!さっさと解放しろ!」
「いいだろう。解放してやる」
――パチン。と指を鳴らすと、主犯の制服が弾け飛んだ。
露になったのは程よく筋肉が付いた身体。
残っているのは下着と靴下だけ。
「キ、キャー!」
「こんな状況でいきなり脱がないでよ!変態!」
女子たちは顔を真っ赤にして男子を責める。
「俺が脱ぐわけねえだろうが!」
「大切なお仲間さんだろ?露出狂という性の癖まで愛してやったらどうだ?」
「て、てめえ!なにしやがった!」
「解放してくれと言ったのはお前だ。それに従い真相に眠る性の癖を解き放ったまで。つまり、お前は根っからの露出狂なんだよ。身体を他人に見せることで性を感じる異常者が」
「そんなわけねえだろ!」
「言い訳はいい露出狂。そより話しを進めを進めよう。でないとその身体を大衆に晒すことになるが、構わんか?」
外が少しずつ騒がしくなってきた。登校している生徒達の声だ。
もはやいつここに生徒が来てもおかしくない。
「だったら早く解放しやがれ!」
「では尋問を始める。言っておくが靴下と下着を残したのは慈悲ではない。嘘を吐くたびに1枚ずつ消し飛ばしていく。それを理解しておけよ?」
「ふざけ」
――パチン。と指を鳴らす。右靴下が弾け飛ぶ。
「余計な事を喋るな。余計な者も喋るな。これは忠告ではない。事実の説明だ」
ギロリと睨みつけると、六人はそれぞれ息をのむ。
そうそう。ギロリの効果はこうでないと。
「それと、俺の真実の目からは逃れられない。既に貴様らの運命はひとつの道に敷かれ、過去を記す書物に刻まれた。辛い過去を背負いたくなければ、正直に答えるんだな」
「……っち。わかったよ」
難しい表情を浮かべながらそう答える露出狂。
「ではまず確認だが。これをやったのはお前らだな?」
「……そうだ」
素直に答える。そこに嘘はないようだ。
「よろしい。では次に。これは自分達の意志で行ったのか。誰かと取引してやったのか。或いはやるよう命令されたのか」
露出狂の目が微かに泳ぐ。
「自分たちの意志でやった。お前が気に喰わなかったから。ムカつく口調で、腹がたったんだ」
「なるほどよろしい」
返事に、ホッと息を吐いたところで。
靴下が弾けとんだ。
「な、なんで!」
「言ったはずだ。真実の目からは逃れられない。それに、過去を記す書物に貴様らの行いは保管されている。そこに繋がるし視認することは容易だぜ?俺からしてみればな」
にやりと笑う。
残されたのは下着一枚、随分と涼しい恰好になったものだ。
「晒すかよ?てめえの性の癖をよ。言っておくが、俺にそんな趣味はない。目を汚させないで欲しいものだな」
ギロリと睨みつけると、主犯は声を震わせながら声をだす。
「取引をした。お前に嫌がらせすれば、金をやるって言われたから」
「それでこんなことを?」
「大金だったんだ。こんなことでもらえる金額じゃなかった。だから、金に釣られてやっちまった」
恐怖か、後悔か。どちらにしても主犯に先ほどまでの威勢はない。
「では最後の質問に移る。取引をした相手はご存知か?」
問いに、主犯はすぐには答えなかった。
これまでのやり取りで俺に嘘は通じないと理解したのか。
しかし、すぐに答えないのにはなにか理由があるのかも知れない。
「し、知らない。私達はなにも知らないの!いきなり黒いローブを被った男が現れて!それで」
――パチン。と指を鳴らす。
女子生徒の制服。上着が弾け飛ぶ。
「余計な者は喋るなと言ったはず。厚着をしていて救われたな。薄着であれば既に下着の状態だったぞ?
女子からしたら致命的な屈辱になっていただろう。
それは露出狂とは比にならない程に。
「標的をお前に移すか?その方が仲間意識をもって正直に喋ってくれそうだしな。こいつはもともと露出狂。これ以上脱がしたところで喜びを得るだけ」
「ちげえって!」
「それで、どうする?」
指を鳴らす仕草をしながら、上着を弾いた女子にそれを向けると。
「し、知らねえ!本当に知らねえんだ!昨日、街で遊んでたらいきなり声をかけられて。そんな取引を持ち掛けられて……。本当だ!本当に知らねえんだよ!」
「必死だな」
「頼む!信じてくれ!本当のことなんだ!もらった金ならお前に渡す!だから信じてくれ!」
ロッカーを荒らしてきた奴に信じろと言われて信じるバカはいないだろうが。
どうやら言っていることは真実らしい。
信じるわけではないが、それが事実ならしょうがない。
パン!と手を合わせる。
生徒達は一斉に身体の自由を取り戻したせいか、膝を付いた。
「次はない。もしあれば容赦はないぜ?闇に生きる存在に慈悲はない。封印機構殲滅戦の足音は、俺に近付けば近づくほど近付くからよ。俺に近付くな」
そう言って彼らとすれ違う。
「それと、もしまた取引を持ちかけられたり命令されたら俺に一言くれ。悪いようにはしない」
かっこよく決めてその場を後にする。
「ま、待ってくれ!」
露出狂に呼び止められた。
なんだよ。早くしないと困るのはお前だぞ。下着一枚なんだから。
それとも本当にそういう癖なのか?勘弁してくれ。
「お前はいったい何者なんだ。なんでクラウス王子の許嫁であるヴィオラと付き合ってる?なんでそんなに強い?なんでそんなに変な奴なんだ!」
いやよくこの状況で最後の質問してこれたな。
パンツ吹き飛ばして露出狂として目覚めさせてやろうか?
心底ムカつくが、早く解放してやらないとこいつが本当の変態な奴になってしまう。
変な奴と変態な奴。あまりにもややこしい。
この学園にその2人が共存するのはややこし過ぎる。
さっさと回答してやろう。
「言ったぜ?俺に近付けば近づくほど封印機構殲滅戦は歩み寄る。もし巻き込まれたら命が幾つあっても足りねえ。それでも欲するかよ?世界の終焉の結末を」
そう言ってその場を後にする。
「な、なに言ってるか全然わからねえ……」
震えた声でそう聞こえて来た。
そう、それでいい。
闇に生きる存在は常に孤独を欲しているのだから。




