10 デート≪ホーリー・ミーティング≫
王都の中心部にある石造りの広場。
その中央で、噴水が水を噴き上げていた。
普段は賑やかな場所だが、朝のうちはまだ人もまばらだ。
「ほいで俺が先に来るんかい」
どうやらまだヴィオラは来ていないようだ。
いや別に楽しみにしてたから早く来ちゃったわけじゃないよ?
俺は紳士な男。常に10分前行動は当たり前。
これはデートに限ったことじゃない。
故に女の子とのデートが始めてで少し緊張したから寮にいるのが我慢できなくて早く来たわけでは決してないのだ。
そう、俺は10分前行動できる男というだけ。つまり最強。俺偉い。
暫くすると、制服姿のヴィオラが現れる。
目が合うと、少し照れたように微笑み手を軽く振ってきた。
「待たせた?」
「俺もいま来たところだ。問題ない」
素直に『早く来て待ってた』なんて言ったら『楽しみにしてたの?あんだけ嫌がってたのに?』とかからかわれるかも知れん。
ここはいま来たことにしておこう。
するとヴィオラは。
「ふふっ。優しいのね」
「なにが?」
「いいのよ。さ、行きましょう」
そう言って歩き出す。
えっ、待って?なんで今ので優しいってことになってるの?
嘘ついたら優しい判定になったんだけど、まったくもって意味わからん。
なにこのデート、開幕から不穏なんだけど。これ付いて行って大丈夫?
高い剣とか買わされたりしないよね?俺。
「なにボーっとしてるのよ。早く行くわよ、ほら!」
「ちょ、ちょっと待て!俺に触れると」
「今日はそういうのいいから!」
ヴィオラは俺の手を取り、いきなり走り出した。
どうやら俺の言い分を聞くつもりはないらしい。
「見てシュヴァ!ここの菓子屋、学園でも美味しいって有名なのよ!」
「そうなのか。でも朝飯食べて来たからお腹いっぱいなんだけど。むしろ朝飯抜いてきたの?それは健康的にどうなの?」
「私だって食べてきたわよ。甘いものはいくらでも食べられるってよく言うでしょ?」
「いや言わないけど」
「いいからいいから」
なにがいいのかさっぱりわからんが、今日のヴィオラはパワーモードのようだ。
この強引さを第三王子にも見せつけてやればいいのに。
なんで俺にだけこんな感じなんだよ。
俺だぞ、俺。闇に生きる存在だぞ?
一番恐れるべき人間だろうが。
「全部おいしそう。ねえ、どれがいいと思う?」
「全部頼めばいいだろ。ヴィオラはいくらでも食べられるらしいから」
「そんなことしたら太るでしょ!それともシュヴァは彼女に太って欲しいの?」
「多様性には配慮しないといけないからノーコメントで頼む」
「なによ急に、難しいこと言うのね。でも私は私が太っているところなんて見たくないの!」
そうですか。なら別にいいですけどね。
「うぅー……。ピーチタルトとブルーベリータルト。どっちがいいかしら」
「じゃあ俺がブルーベリー頼むから、ヴィオラはピーチ頼むか?」
「いいの?」
「見てたら食いたくなってきたから」
「じゃあそれで行きましょう!」
嬉しそうに注文するヴィオラと、笑顔で受け答えする店員さん。
本当は難しそうに悩んでるヴィオラを優しく見守っていた店員さんが、笑顔のまま俺の方を睨みつけて来たから気を利かせたわけだが。
まあ食べられなかったらいくらでも食べられるであろうヴィオラに食べてもらえばいいや。
受け取り、広場にベンチに座り。
「おいしい!」
タルトを口に運ぶヴィオラの頬が緩む。
俺もブルーベリータルトを1口。
ふむふむなるほど。これはこれは……。
「うまいな」
「でしょ!」
まるで自分が作りました!と言わんばかりに目を輝かせているヴィオラ。
「ブルーベリーも美味しそうね」
「はいはい。やるよ」
「ありがと。じゃあ、あーん」
そう言ってヴィオラは口を開いて動きを止めた。
えっ?なに?俺に口を開いてもなにもいいことないけど?
どういうこと?
「早くしてよ!私達付き合ってるんでしょ!」
「あぁ、はい。そうね。そうですね」
恥ずかしいから現実逃避していただけで、俺だってそんなことわかってる。
再び口を開けるヴィオラに、ブルーベリータルトを入れてやる。
もぐもぐと口を動かして。
「ん~、やっぱり美味しい!じゃあシュヴァ。はい、あ~ん」
そう言いながらスプーンにピーチを乗せて差し出してくる。
「拒否権は」
「あるわけないでしょ?私達、付き合ってるんだから」
「付き合ってるってそんな万能な言葉じゃないと思うが」
「いいから」
め、眼が据わってる。こんなことでそんな怒らなくてもいいのに……。
と口にピーチを入れて食べる。
「うん。普通にうまい」
「でしょ?あと半分食べたから、残りは交換しましょうよ」
「別にいいけど」
そんなこんなでタルトを食べると、すぐさまヴィオラが立ち上がる。
「さあ、行くわよ」
もはや当たり前のように俺の手を取り、王都を駆け回る。
貴族の娘とは思えないはしゃぎ様だが、そうじゃない。
むしろ、貴族もそこらの人と変わらない。
普通にはしゃぐものなのかも知れない。
ヴィオラを見ているとそう思う。
「なに?気になるお店でもあった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
俺の足取りが悪くなったの感じたか、ヴィオラが立ち止まり肩を並べる。
前にあるのは武器屋だ。
学園ではお目にかかれない様々な武器が店内に飾られている。
「入る?」
「いや、別に」
「そう……。じゃあ入りましょ」
言いながらヴィオラは迷わず武器屋に入る。
「私も騎士の端くれだもの。こういうものにも興味はあるわ」
「ならいいか」
と、ヴィオラの後に続いて店内へ。
間近で見る武器は、やはり恰好いい。
胸の奥に眠る何かが呼び覚まされそうになる。
やっぱ男と言えば武器だよな。剣ってだけでかっけえ……。
「シュヴァ、この黒鋼の短剣似合うと思う」
ヴィオラは煌めく短剣を逆手で構える。
「短剣はセレナの方が似合いそうだな。ヴィオラは……。この細剣がいいんじゃないか?」
「わかってるじゃない……。ちょっと、嬉しいかも」
言いながら、頬がうっすら紅を差した。
無邪気で、どこか誇らしげな笑み。
「この刀身に龍が巻き付いてる剣かっけぇ……。男だったら絶対好きなやつだろ。ヒルデにお土産で買っていこうかな」
「シュヴァ、なに見てるの?なにその剣。それがいいの?」
「いや別にいいってわけじゃないけどねたまたま目に入っただけだしこれがカッコいいとか別に思ってないし!」
「凄い早口で喋るのね……。別にいいと思うわよ?」
「ヴィオラお前まさかこの剣の良さが」
「シュヴァがいいと思うなら、ね」
あ、危ない危ない。
危うく同士を見つけて本音で良さを語らい合うところだったぜ。
別にヴィオラがこの剣の良さをわかったわけじゃなかった。
恥ずかしい……。
その後は通りを挟んだ向かいの服飾店へ。
今度は一転して、艶やかなドレスや制服風の服が並ぶ店内だ。
「ここ、王都の貴族令嬢たち御用達のお店なのよ」
「俺には居心地が悪いな」
「いいから、ちょっと付き合いなさいよ。せっかくのデートなんだから」
そう言うなり、ヴィオラは試着室に入っていった。
数分後、ひょいとカーテンが開かれる。
「じゃんっ!これどう?王都騎士団の制服風なんだけど」
白を基調にした上着、胸元には金の装飾。
腰のベルトに手を添える姿は、まるで騎士のようだ。
「どっかで見たと思ったらそういうことか。クラウスが着てたやつに似てるな」
「嫌なこと言わないでよ、せっかく可愛くアレンジされてたのに。勘弁してよね」
えぇ……。このひと凄いこと言ってない?
たぶんそこらの人に聞かれてたらすぐさま騎士団呼ばれて処刑だぞ?
気持ちはわかるがさすがに言い過ぎ言い過ぎ。
俺が思ってる以上にクラウスのこと嫌いなの?ヴィオラって。
「じゃあこの魔導士風は」
深い紺色に銀の刺繍が施された衣装。
長い袖口から伸びる白い指先、腰には軽やかに揺れるマント。
「意外と似合ってるな。動きやすそうでもある」
「じゃあ次!こっちの将校風は?」
肩章が光を受けてきらめき、引き締まった腰回り。
スカートの裾を軽くつまんでくるりと回った。
「ヴィオラにはそっちの方が似合ってるかもな。貴族だし、気品を感じる」
「じゃあ……。最後はこれ!」
次に出てきたのは、薄い水色のシンプルなワンピースだった。
これまでの服と違って、魔術式も装飾もない、ただの普段着。
「テーマは?」
「なんでもない日に好きな人と歩くならこういうのがいいって聞いたことがあって。だから、どうかなって?」
ヴィオラは少し視線を逸らしながら、小さく裾を摘んだ。
恥ずかしそうにこちらを窺い見る仕草に、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「今までの中ならそれが一番似合ってると思うぞ」
ぽつりと漏らすと、ヴィオラの頬がふわりと赤くなった。
「バカ。……ふふっ、ありがとう」
そういって試着室に戻るヴィオラ。
えっ?なんで俺いまバカって言われたの?
む、難しい。人付き合いって。恋人って難しい……。




