第三話 街での暗い影
野宿を繰り返し、四日間。
ついに王国領に辿り着いた私達は、鉱山の街セラヌスにいた。
王国西端の街で、国内有数の鉱山地帯であり人も多い。
宿で野宿の疲れを癒やし一晩を過ごすと、私達は街を散策していた。
「街の人達の顔なんか暗いね」
「何か問題が起きてるのかもね」
話しながら歩いていると、一つの看板が目に留まる。
ジュルの酒場と書かれている隣に、クルーバードの焼串と書かれていた。
クルーバードと言えば凶暴な鳥で、狩猟も畜産も難しいと聞いた事がある。
「食べてみたいよ!」
「いいわよ。入りましょうか」
店の扉を開けると、奥にいるエプロンを付けた少女以外に一人もいない。
愛嬌のある笑顔をしているが、その顔はどこか暗い。
「旅の人ですかね。せっかく来てくれたのにごめんなさい。今クルーバードを切らしてて」
「そうなんだ。そしたらいつくらいに手に入るか分かる?」
「それは何とも。今は魔物が森を荒らしていて、クルーバードが取れないんです」
聞けば近くの森に強力な魔物が出たらしい。
この街には高ランクの冒険者や手練れの狩人はいなく、領主の討伐隊も森で行方不明となったらしい。
彼女の姉も狩人として森に入ってから帰ってこないらしく、早く魔物が討伐されるのを待っているそうだ。
私達は店をでる。
「シャーラ姉」
「分かってるわよ。魔物を討伐するのよね」
「それもだけど、あの娘のお姉さんも助けてあげなくちゃ」
「……それもそうね」
しばらく歩き、森が見えてくると騎士に引き止められた。
「ここから先は領主が許可した者か、冒険者か狩人でなければお通し出来ません」
「入る許可が分かるものをご提示を」
どうやら領主が通行を禁止しているらしい。
真っ当な判断といえた。
私達は仕方なく引き返すと、どうすれば入れるのかを考える。
「冒険者ギルドにいってみない」
「確かにそれが早そうね。冒険者なら森に入れるみたいだし」
この街の冒険者ギルドを探し歩き回っていると、それらしい建物を見つけた。
中に入ると案の定冒険者ギルドで、屈強な戦士や杖を持った魔法使いなど、いかにも冒険者という雰囲気の人がいた。
ブレットと私は受付嬢のところまで進む。
「冒険者として登録したいのだけれど」
「おいおい姉ちゃん。そんな貧相な姿で冒険者になる気かよ」
受付嬢が何かを言う前に、冒険者であろう粗暴な男が話しかけてきた。
受付嬢は慌てて止めようとしているが聞く気はないみたいだし、他の冒険者も面白がっているか興味がなく無視している冒険者がほとんどだ。
正直面倒くさい。
「そうだけど、何か?」
「そんな弱っちいガキと冒険者になるくらいなら俺達と組まねえか。俺達ならそんなガキより頼りになるし、姉ちゃんも安心だぜ?」
後ろから四人の仲間であろう男が出てくる。
下心が透けて見えていて気持ち悪い。
ただ何より苛つくのは……
「絡む相手、間違えたね」
「は、なに言って……」
私は素早い動きで男を床に組み伏せると、動き出した仲間を結晶の魔法で封じる。
男たちは何が起こったか分からない様子で、他の冒険者もこの光景に驚いている。
「手続き、してくれるかしら?」
「は、はい!でしたら簡単な試験を最初に――」
「その必要はないよ」
そう言って奥から現れたのは、眼鏡をかけた長身の男だった。
若い見た目とは裏腹に、老練な雰囲気を漂わせている。
他の受付嬢に連れられ、こちらに来ており、目の前の受付嬢は緊張で少し震えていた。
私に組み伏せられた男と、その仲間を一瞥する。
「受付嬢に迷惑をかけるどころか、酒に酔った勢いで少女に絡むとは」
「す、すいません!!酔った勢いでつい!!」
「そんな事をしている暇があるのなら森の魔物を討伐してきて欲しいですね」
男達を睨んだ後に、私達を見る。
少し身構えると、男は深く頭を下げてきた。
「うちの馬鹿どもが申し訳ない。みたところ相当な実力をお持ちのようだ」
「それはどうも」
「こちらの謝意としても、その魔法にしても、冒険者のライセンスを与えるには十分なようだ」
「ということは」
「その魔法に五人の冒険者を倒す実力を評価し、このギルドのマスターとして〝C級〟からのライセンスを与えよう」
その言葉に冒険者ギルドにいる全ての面々が驚いた。
まあ新人がいきなりの高待遇で驚いたのだろう。
「買い被りしれないよ?」
「それはないな。仮にも元A級冒険者なんだ。実力を見誤る事はない。それに、試験の都合上与えられなかったが、その魔法、もしかしたらA級クラスかもしれない」
「そう。けどそんな貴方は森にはいかないの?」
「一度行ったのだがな。森の魔物にたくさんの人間が人質に取られ、撤退を余儀なくされた。私では人質ごと焼き払ってしまうのでね」
「どんな魔物なの?」
疑問を男に投げかける。
魔物次第ではわたしが討伐しようと思っていたからだ。
「ライイーター。植物の魔物で、本体は小さな紫の花だ。近くにいる生物を蔓で捕らえ、生命力を時間をかけて吸っていく。今はまだ対処不能なほどではないが、もうそろそろ時間が無い」
「時間って?」
「最初の被害者が出てから二週間。後一週間もすれば命を吸い付くされるものも出てくるだろうし、魔物も一気に強力になる」
「ねえお兄さん」
「なんだい、少年?」
ブレットには何か案があるのか。
ギルドの全員がブレットに視線を向けると、彼は話し始める。
「後一週間ってことは、まだ全員助かるんだよね?」
「そうだ。だが、私では恐らく討伐時に犠牲者が出てしまう」
ブラットと男の目が同時に動いた。
なるほど、まあ少年の夢を叶える第一歩なら良いだろう。
「私と同じ考えのようだな」
「そうだね。シャーラ姉、魔物を一人も犠牲にせずに討伐できる?」
「火力の調整は可能だし、やり方次第ね」
それを聞いたギルドマスターは私にもう一度深く頭を下げる。
周りにいた受付嬢も頭を下げると、ギルドマスターが口を開いた。
「ライイーターの討伐を引き受けてくれないか。どうか、お願いだ」
「構わないわよ。その代わり報酬はクルーバードの焼串を望むわ」
「それで良いのなら、いくらでも渡そう」
私は満足気に頷くと、依頼を引き受ける。
ブラットは飛び跳ねるほど喜んでいる。
私達はライイーター討伐の為、ギルドマスターと作戦会議をすると、明日に備えて準備を進めるのだった。




