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「すいません先生! あいつにいじめられてて、命令されてこんなことをしてしまいました!」
指を差している。階段の上を。
(ええええええええええええええええ!!!!??)
黒川はあっけらかんとしている。天我は走って逃げていった。
「ねえ、聞いた? 昨日さあ――」
「ええ?! うっそ、それ本当なの?」
がやがやとする教室。いつもと変わらない日常だった。生徒たちの楽しそうな話し声。窓から入ってくる心地良い空気。太陽の光。明るい世界。
「ねえ、楓今日の放課後空いてる?」
「ああ、ごめん。予定あるから今日は無理」
友達の誘いは断らないようにしていた。今まで人と関わらないようにしていた分を取り戻したいと思って。積極的に人に関わらないといけないと思ったからだ。けれど今日は行く所があった。
ちーん
線香の煙。楓は手を合わせていた。律の家の仏壇の前に来ている。
ありがとうりっちゃん、私、りっちゃんの分も生きるから。あの日からりっちゃんを失って塞ぎ込んでしまったけど、あの世界でまたりっちゃんに会えて、話せて、今はなんだか生まれ変わって新しい自分になれたような気がしています。世の中ってこんなに楽しかったんだって気づくことができました。これも全部りっちゃんのおかげです。もっと、もっと、りっちゃんの分まで楽しく生きていこうと思います。
「楓ちゃんまた来てね」
「はい、お邪魔しました」
あともう一つ言っておかないとって、りっちゃんはもう知ってるか。今度、りっちゃんの妹が産まれるらしいです。会えるのがとっても楽しみです。