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楓はもがいた。もがいた。もがいた。パニックで頭がおかしくなりそうだ。
「嫌あああああああああああああああああああああ!」
ミシミシと音がした。なんの音? 剣に亀裂が入っていた。嘘だ。
潰されて、赤い刃が砕けた。落下する切っ先。
「いや……」
楓はズルズルと腰砕けになり床にへたり込んだ。
天我は可笑しそうにしながら手の赤い欠片で弄んでいる。
床にバラバラに散らばった赤い欠片。
楓は怯えた瞳で天我を見た。
恍惚とした表情。
殺される。
やだ。
やだ。
やだ。
そんなのやだよ。
愉悦の表情に満ちた歪んだ顔が二つに割れた。悲鳴。
天我は倒れる。
楽朗が天我を斬ったのだ。
「あ、」
助かった。死ななくてすんだ。
でも、
楓は倒れている天我を見た。
それから泣きそうな目で楽朗を見た。
「天我君、死んじゃったの?」
震える声が問いかけた。
「この剣は影しか斬んねえから大丈夫だよ」
「ん」
楓は涙をぬぐった。
(よかった)
楽朗は小さな革の袋を楓に投げると、砕けた欠片拾っておけと言った。
「よいしょ」
それから天我の足を掴み、引きずっていった。