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「……」
ねじくれた闇の底を見つめた。
「ちょうだい」
くぐもった低い声。
天我はポケットから玉を取りだした。
ほのかな光。
「僕だってやるときはやるんだよぉ!」
玉がまばゆく光だし黄色い剣になった。
剣をそこにいるモノに突き刺した。
顔の無い影の胸に剣が深々と刺さる。
「倒せた……!」
いや、
闇は笑っていた。ヒステリックに自嘲的にニヒルに不気味に。
天我は恐れを感じたが勇気を振り絞り声を張りあげた。
「なにが、なにが可笑しいんだよ!」
闇がアメーバのように膨らんだ。
「う、あ」
天我を飲み込んだ。
少年の割れるような叫びが聞こえた。
トイレの外で待っていた楓は顔を上げた。
「なに?!」
楓は扉を開ける。
「どうしたの!?」
見ると、天我の身体に影が巻きつき、渦巻き、今にも飲み込まれようとしていた。いや、もう飲み込まれたあとだ。目が闇色に染まり、呻き声と嗚咽を漏らしていた。それから笑い声を出した。幼い女の子の声だ。嬉しそうな、歓喜に震えるような。その声はだんだんと低くなって、くぐもった声になった。
「ああ、生きてる。生きてる。ははははは」
楓は後ずさった。どうしていいのかわからない。