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本当のことだから怒ってしまったんだろうか。
自分でも分かっていることだから怒ってしまったんだろうか。
よく分からない。
けど、なんだか少しすっきりしたのは間違いない。
それに今流れている涙が本物なのは間違いない。
僕だって誰かをぶん殴ってやれるならと思う。
無視するなって怒鳴ってやりたい。
無視されたら、辛いんだぞ分かってんのか? って言ってやりたい。
やりたくてもやれる勇気が無くて苦しんでるんだ。
諦めてるんだ。無駄だって分かってるからやらないんだ。やるだけ無駄。
でも、やろうとしてない自分は、
うじうじしてるだけの自分は、
もっと嫌いだ。
弱いくせに耐えてるだけで、
耐えられなくて、
相手にやり返す勇気もなくて、
くそ、くそ、くそ!
頭をトイレの壁にドン! と打ちつけた。
痛いけど、
スッキリした。
手を洗っている。
と、首筋に悪寒を感じた。なんだろう。
いやいやながら目だけを上げて鏡を見た。
映っているのはあの少女。
顔の無い、あの――
それを見た瞬間、背後から喉をしめつけられた。澱の底から浮かびあがるような恐怖によって。
闇。
底の無い闇だ。
天我はふり向いた。胸の鼓動が早鐘を打つ。
「ちょうだい」
少女の声。