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楽朗は口をへの字にして黙っている。
天我は立ちあがって、教室から出ていこうとしていた。
「ちょっと、どこに」
「トイレ!」
戸をぴしゃりと閉じて出ていった。
楓が楽朗を見ると、行ってやれとジェスチャーをしてそっぽを向いてしまった。
楓はなんで男子のトイレについていかないといけないんだと思いながらも、影が出たらと思いしぶしぶ天我のあとをついて行くことにした。
(しょうがないなあ)
「やればできんじゃねえかよ」
と楽朗は一人独語した。
「天我君待って」
「なに!」
天我は歩調を強めながら前を見ていた。
「そんな怒んなくても」
楓も合わせて歩調を速める。
「楽朗が怒れとか言ったんだよ、別に悪くないと思うけど!」
楓は閉口した。
(素直なんだか、強情なんだか)
トイレについた。
「待ってて」
「いや、入るつもりは毛頭ないよ?」
「呼んだら来てよ」
「ええ」
と言い残して天我はトイレに入っていった。
あんな奴嫌いだ。自分の言いたいことだけ言いやがって。
僕は怒るの好きじゃないのに。
久しぶりにこんな風に怒った気がする。
嫌になる。怒ってしまった自分が嫌になる。
いつぶりだろう、
覚えてないや。