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「らくろう……くん」
「お前、この前のやつか? なんで来てんだよ」
楓は楽朗に介抱されている。
玉握ってろと言われて、言われた通りにした。それで玉を持っているとなんだか落ち着いた。訊くと傷ついた身体を癒やす力があるということだった。
「あいつ、上がったぞ?」
「上がった?」
どういう意味なのか分からなかった。
「上がったってなに?」
「もうこの世界にいねえってことだよ」
りっちゃんがいない?
「会えないってこと?」
「うん」
「じゃあ、りっちゃんはあの影との戦いから解放されたってこと?」
「そうだな、うらやましいよ、まったく」
楓は力が抜けたように後ろに倒れた。黒で塗りつぶされた暗い空が見える。
「そっか」 不思議だった。あんなに死にたいと思っていたのに、
今は生きて戻りたいと思っていた。
安心できる場所に戻りたい。
「帰りたい」
もしかしたらもう、僕はもう死んでいる?
そんな考えがふとよぎった。
あの渦に入ったときに、ほんとうは飛び降りていたのかもしれない。
頭を振る。
そんなことはないはずだ。大丈夫。生きてる。
背筋が急に冷えるのを感じた。
ガバと上体を起こす。向こうの方に動く何かが見えた。
「やだな」
小さい影がゆらゆらと近づいてくる。
天我はなんとか立ち上がった。
穴の空いた少女だ。