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天我は再び自転車を全力で漕いだ。
脚のしんどさなどは何処かにいっていた。
道ばたで天我はくたばっていた。
もう脚が限界だった。
自転車のタイヤがくるくる回る音。
うつ伏せからゴロリと仰向けになる。
見えるのは一面の暗黒、ほんとうに無限に続くような、底なしの闇だ。
怖い。
ここは死後の世界なのだろうか。
こんな所いたくない。
帰りたい。
元の明るい世界に。
死んだらこんな所にずっといないといけないのだろうか。
嫌だ。
ついさっきまで命を絶とうと思っていた。
けれど、死んだ先がこんな世界なら、死にたくない。
不思議だった。あんなに死にたいと思っていたのに、
今は生きて戻りたいと思っていた。
安心できる場所に戻りたい。
「帰りたい」
もしかしたらもう、僕はもう死んでいる?
そんな考えがふとよぎった。
あの渦に入ったときに、ほんとうは飛び降りていたのかもしれない。
頭を振る。
そんなことはないはずだ。大丈夫。生きてる。
背筋が急に冷えるのを感じた。
ガバと上体を起こす。向こうの方に動く何かが見えた。
「やだな」
小さい影がゆらゆらと近づいてくる。
天我はなんとか立ち上がった。
穴の空いた少女だ。
自転車を起こす。