6
何かが、おかしかった。電灯はついているが、ついたり消えたりしている。人がいるはずのマンションや家の明かりはついていなかった。不気味だった。重苦しい空気を肌に感じた。
走りながら、マンションや家を過ぎていく。
「は、は、は」
心臓のドキドキが走っているからなのか、恐怖からなのか、はたまた別のなにかが原因なのか楓にはわからなかった。
「なんで誰もいないの?」
周りをキョロキョロと見回しながら道ばたで立ち止まった。
道の向こうを見た。体長二メートル三十はある巨大な影が歩いていた。
巨大な影はゆっくりと動いている。
「……」
嘘でしょ。
楓は手を口元にやった。音を立てないように後ずさる。
「逃げなきゃ」
独りごちてから、無我夢中で走った。
走って、走って、走り続けた。あの訳の分からないモノから一刻でも早く遠ざかりたかった。見つかりたくなかった。見つかってしまって、あれが追いかけてきたらなんて、そんなことは想像したくなかった。
体力の限界がきて楓は止まった。手を膝に置いた。ひどく汗をかいていると思った。
目を上げて町の様子を眺める。
「ここ、どこ……?」
町並みは変わらないはずなのに、雰囲気がいつもとまるで違っていた。知っている町のはずなのに、全く別の世界に来てしまった感覚に陥った。
息を整えながらふらふらとしばらく歩いた。
「たぶん、来ちゃいけないとこだ、ここ……」
どうしよう。
不安が胸に押し寄せてくる。黒い海が胸元までせり上がってきている。喉まですぐに到達してしまうだろう。あと少しで溺れてしまいそうだ。
前を見ると人がいた。影じゃなかった、顔もちゃんとある。間違いない、人だ。
その人は塀に背中をついて座っている。なんだか疲れているようだった。
「あの人、怪物じゃない」