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「大丈夫?」

「うーー」

 しばらく動けなさそうだった。

 とりあえず、りっちゃんと楽朗君と合流しようと楓は思った。二人はどこにいるんだろうか。学校の中にいてくれたらいいけど。

 彼を影から守りながら二人を探すのは骨が折れるだろうなと思ったが、しかたがないことだった。おいていくことはできない。

 やっと天我が落ち着いてきた頃に楓は声をかけた。

「ねえ」

「な……ああ……あああ!」

 楓は天我の顔が恐怖に引きつっていくのを見て、天我の視線の先を見た。大きな蜘蛛の影がフェンスの向こうから足をかけてこちら側に来ようとしていた。


 逃げた。戦う少女を置き去りにして自分でも不甲斐ないと思った。男の僕が女の子をおいて逃げるなんて、弱虫だ。けどしかたないじゃないか、彼女は戦えて、僕は戦うすべなんて持っていないんだから。そう自分に言い聞かせながら必死に廊下を走っていた。

 校内は薄気味悪かった。なにかが滲んでいるような、重い空気が動いていないような。

 通り過ぎていく教室に誰かがいるんじゃないかと思うような気配があった。べつに寒いわけではなかったが、天我は首筋がすっと冷えるのを常に感じていた。背後に意識を集中させる。いないと分かっていてもふり向いて後ろを見た。誰もいない廊下。誰もいない教室。非常灯の緑の光に照らされた空間はなんだか闇よりも不気味だった。むしろ見えないほうが安心するかもしれない。嫌な感覚がずっとついてくる。

 やっと玄関についた。一人の小さな女の子がうずくまっていた。

 しくしくと悲しそうに泣いている。

 天我は立ち止まり女の子を見た。

「ねえ、大丈夫?」

 女の子はなにかを呟いていていた。なにを呟いているかは聞きとれない。

「え? なんて言ってるの?」

 なにかをぶつぶつ言っている。

「ねえ、逃げよう、怪物が来るよ」

 女の子は先ほどよりも大きいが、か細い声で言った。

「ちょ――い」


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