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スマホのメッセージの返信もいちいち聞いていたくらいである。度が過ぎていた。毎回の相談に嫌気が差した友人には嫌われてしまい、その友人が所属していたグループの人間からは無視されるようになっていた。付き合っていた彼女とも別れてしまった。学校の先生からはなぜか他の生徒に釘を刺すためなのか見せしめになるようなことをされていた。学校の机に教科書を入れていたら、全て取り上げられた。他にもやっている生徒がいるにもかかわらずだ。目が細いからか、授業中に居眠りしていると勘違いをされて、教卓の横に正座をさせられていたりもした。天我はなんでそんな風にされるのか分からなかったが、とりあえず先生の命令に従うしかなかった。反抗精神などは持ち合わせていなかった。
家は中流家庭で、不自由なことはなく、一人っ子だった。身長は平均よりも低い小太りの少年だった。
席を外してからノートを開くとしねなどと書かれていることがある。胸の中が嫌な感じになり、鉛筆で書かれた文字を消しゴムで消していく。それから何食わぬ顔をして授業を受けるのだ。
泣きたくなってくる。
ホントに死んでやろうかと、そう思ったのが始まりだった。
フェンスを乗り越えて、そこに立つと意外と気持ちが良いものだった。一人タイタニックだとかふざけてみる。ローズとジャックの気分を一人で味わってるぜ。頭の中にあのテーマが流れる。ただ、下を見てはいけない。怖くなるに違いないからだ。もうそろそろ夕日が沈む。飛び降りる直前は泣くかなと思っていたけれど、そうでもなかった。とくに涙はでてくれないようだ。さよなら世界。また会う日まで。
屋上のドアが勢いよく開いた。
「ちょっとあなたなにやってんの!?」
女子生徒がなんだか怒った様子で大声をだしていた。
「わあ」
天我は予期せぬ訪問者に驚いた。いったい誰だろう。
楓はずしずしと距離を詰めていく。
「な、なに君」
「なにはこっちの台詞だよ! あなた何しようとしてるわけ!?」
「と、飛び降り」
天我はしどろもどろになりながら答える。
「やめなよ」
「と、止めないで。今から飛び降りるんだから」