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「なんで来た」
楽朗は龍太郎の胸ぐらをグイと掴んだ。
「なんでって言われても」
血走った眼球が龍太郎を見る。
「死ぬのかお前」
龍太郎は目を逸らした。
「わからないよ」
「ここはしにてえやつが来るとこなんだよ」
「へー」
「生きる気ないなら、お前の代わりに俺が戻る、その命俺によこせ」
沈黙。
楽朗は手を離した。
「話はあとだ」
周りには影達がうようよと集まっていた。闇の中で蠢く音を持たないぼんやりとした影。
気配が響き渡るように周りを取り巻いている。
龍太郎の瞳が月のように輝いた。
「楽朗、動けるってなんて素敵なことなんだろうね、動けなくなって初めてわかったよ」
「そうだな」
影達は二人に襲いかかった。
ひとーつ、
ふたーつ、
みっつ、
よーつ、
と影は斬られていなくなる。
この影達は消えてしまったあと何処に行ってしまうのだろうか。この影が思念の塊、動く想念だとして、そこにあるものが突然影も形も消してしまうなんてことがあるのだろうか。考えても詮無い話だ。時折見えてくる、死んでも死にきれなかったこの影達の想いは何処へいくのだろうか。
まあ、どうでもいいや。