悪役令嬢ですが、私の幸せのために聖女にはボッチになってもらいます。
「……へ?」
美しい宮殿の庭。
咲き誇る薔薇。
手入れされた庭の中央にある東屋。
私──琴葉春は、自宅のベッドに寝転がっていたはずなのに、気づけばそんな場所にいた。
「え? え?」
混乱する。
夜中だったはずだ。
しかし現実問題、目の前で燦々と太陽が降り注ぎ、花と青葉、草木が美しく煌めている。
「どうかしたかい? ミーシア嬢」
「え?」
声をかけられ横を見ると、そこには信じられないほどの美形がいた。
二次元ばりだ。金髪碧眼。服装も白を基調として下品にならない程度に金糸で彩られている。
まさに王子様のようで……いや、この人王子様だ!?
「レ、レオンハルト様!?」
「……? そうだが……今さらどうしたんだミーシア嬢」
「え? なんで? 嘘?」
言いながら、私のオタクブレインがフル活動する。
待てよ。こんなシチュエーション最近よく見たな。いや、読んだな。
これ、アレか? アレだよね。
「転生……?」
そう、異世界転生だ。
とても有名。夢見るオタク(私)の憧れ。
めんどくさい現実から逃れ、夢のある異世界へとジャンプ。
私は今、異世界転生したんだ。
しかもしかも、私の大好きな乙女ゲーム「セイデン」の世界だ!
隣にいるレオンハルト様がその証拠だ。
「やっ…………ん?」
やった! と叫びかけたところであることに気づく。
「あの、レ、レオンハルト様? 私の名を、なんと?」
「ん? 君はミーシアだろう? ミーシア・アーシュ。我が王家と縁のあるアーシュ公爵家令嬢。なにか間違ってる?」
「アァアアアァアアッ……!?」
「ど、どうしたんだ?」
私は頭を抱えた。
ミーシア・アーシュ。
「セイデン」をやっている者はその名を最初に覚える。
どのルートでも絶対登場回数最多になるので一番頭にこびりつくキャラクター。
そう、彼女はいわゆる悪役令嬢だ。
主人公である聖女マリアノートが七人の攻略キャラの誰かとくっつけば強制的に断罪される。
島流しと北の修道院行きが一番マシ。
あとは斬首。全部首か胴体が飛んでいく。そんな女性だ。
物語上で彼女がやることはかなりえげつないし、それに伴いアーシュ公爵家も悪事に手を染めていくので同情の余地はないのだが、よりにもよって“その”ミーシア? 嘘でしょ?
「ミーシア、大丈夫か? 気分が優れないならすぐに従者を……」
「あ、ありがとうございます、レオンハルト様……」
私はレオンハルト様の顔をまともに見られないまま、紅茶とお菓子の載った白亜のテーブルを凝視した。
ー・-・ー・-・ー
転生に気づいた日の午後。
私は縦にも横にもアホほど広い公爵家に戻っていた。
心配するメイドのファフリンには水差しだけ持ってきてもらって、部屋にこもる。
すごい良さげな素材の机の前。
これまた腰とお尻が沈んで上手いことフィットする良さげな素材の椅子に、私は座っていた。
豪奢な部屋だ。
天蓋付きのベッドはおそらくキングサイズ。
私、というかミーシアの身体そんなにおっきくないよ。持て余しちゃうよ。
絨毯もふかふか。逆に歩きづらくない? こんなもの?
なんか服もドレスだし……。
うーん、首元ゆるゆるのTシャツとリラックスパンツが欲しい。
とまあ現実逃避をしても仕方がない。
私は水を一杯飲んだあと、状況を整理することにした。
ここは乙女ゲーム「セイントメイデン──七人の英雄と伝説の聖女──」の世界で間違いない。
穴が空くほど見たレオンハルト様の顔を間違えるわけがないし、嫌でも視界に入る悪役令嬢ミーシア、つまり私の顔は鏡で確認した。
こちらもびっくりするほど美形だった。
これが……私? って、思わずつぶやいちゃったもんね。
ただ、私が知っているものより少しだけ幼かった。
メイドのファフリンに聞いてみたら、私の年齢は13歳だった。
王国歴は266年。
ゲーム開始時点の王国歴が270年だったことは覚えているから、ゲームより四年前の世界ということになる。
さて、先ほども考えたようにここ「セイデン」の世界だ。
「セイデン」は復活する魔王を倒すため、運命によって導かれた七人の英雄と聖女が出会い、友情と愛を育むストーリーとなっている。
全員と結ばれるハーレムENDもあるが、テキストが薄いのであまり好まれてはいない。
その代わり、各キャラENDは濃厚なストーリーも相まってかなり好評だ。
その中でもレオンハルト様はダントツ人気。
例にもれず、私もレオンハルト様の夢女子のひとりだ。
そしてミーシアはダントツで嫌われている。
普通に攻略していくとまず間違いなく彼女の没落を見ることができる。
ざまぁっ、とスッキリするストーリーになっている。
私も言った。
まさか自分がその「ざまぁっ」と笑った相手に転生するとは思わなかったけれども。
このまま行けば、ゲームが開始した時点で私の運命は決まる。
聖女は間違いなくイベントをこなして英雄の誰かと結ばれるだろうし、そうなったら私の断罪は止められない。
そして正規ルートはレオンハルト様ルートだ。
このドラーデン国の第一王子であるレオンハルト様は、聖女マリアノートの気高さと、私の醜い嫉妬の行動を天秤にかけ、ある意味当然の選択をする。
聖女と英雄のひとりである第一王子が婚約し、私は見せしめとして斬首される。
……嫌だ。
せめて殺されるなら、レオンハルト様ルート以外がいい。
レオンハルト様に嫌われたまま生涯を終えるなんて、絶対に嫌だ。
数時間前に見た、実在? のレオンハルト様の美貌を思い出す。
たまらず頬を緩む。もちろん外見がカッコイイだけではない。
国のため、世界のため、魔王を討伐するために先陣を切るあの姿に惚れるなという方が無理だ。
そして聖女マリアノートにだけ見せる笑顔。
うぅ。無理だ。
考えたくないと思うほど、聖女とラブラブになるレオンハルト様の姿が浮かぶ。
だってレオンハルト様ルート100周はしてるんだもん。
どうすればいいの?
このままだと私は四年後に始まるストーリーで死ぬ。
どのルートかはわからない。
けれど、どうあがいてもレオンハルト様とはいられなくなる。
レオンハルト様の婚約者であるのに、せっかくそばにいられるのに!
レオンハルト様とのラブラブシーン。
ダメだ。ミーシアにそんなイベントスチルは用意されていなかった。
全部合わせて200周した私が言うんだから間違いない。
合ったら「セイデン」ファンとしてふざけんなって思っただろうし。
「うぅううっ! わかんないよー!」
私は立ち上がり、キングサイズのベッドに飛び込んだ。
バウンと身体が浮き上がって、柔らかい毛布に顔を埋める。
「いだっ!?」
毛布に何か硬いものがあった。
急いでめくるが、何も見つからない。
なんだったんだ? と不思議に思いながら、私は痛む鼻をさすった。
その瞬間だった。
自分が忘れていたルートに気づく。
「……ストイックルート」
口にした途端、記憶が堰を切ったようにあふれ出す。
「そうだ。そうだった。ひとつだけある。私が助かる方法……」
聖女マリアノートは気高い人物だ。
自分の使命をよく理解していて、ストイックに鍛錬に励む。
「セイデン」では特に英雄たちと交流せずともストーリーを進めることはできる。
ハーレムENDとは真逆の、誰とも恋仲にならないストイックルート。
そのルートなら、何人か英雄が出てこないまである。
単調で退屈な、ただ己を鍛えるだけのルート。
ゲーム体験としてはなかなかしんどいものがある。
だから私はストイックルートを一回しかクリアしていない。
特別なスチルを開けるためには一回で充分だったし。
ともあれ、そのルートならば私ことミーシアが嫉妬に駆られることもなく、レオンハルト様と無事に結ばれる。
「……これだ」
天啓だった。
ストイックルートに行くために必要なことが、私の頭の中で組み立てられていく。
この世界で、断罪される運命のミーシア・アーシュに光明が差す。
上手くいくかわからない。
いばらの道よりしんどいことになるのは確実だ。
だが、やるしかない。
死にたくない。死ぬわけにはいかない。
せっかくこの世界に転生したのだ。
レオンハルト様とラブラブになりたい。
あの人の視線を、独り占めしたい。
私は、覚悟を決めた。
そしてメイドのファフリンを呼んで、必要なものを取り寄せてもらうのだった。
ー・-・ー
あれから、四年の月日が流れた。
もうすぐゲームが開始する。
聖女が王立学園に現れるまで、あと一週間もない。
「うぉおりゃあああああ!」
私は、王国内で最上位冒険者にしか挑戦が許されていないダンジョン「屍洞窟」、その最下層にいた。
私の振り下ろした剣がダンジョンの隠しボス、死霊アナザーリッチを切り裂いた。
「オォオオォォォ……!」
三時間以上に渡る死闘の末、私はついに単独でアナザーリッチを倒すことに成功した。
聖魔法のかけられた伝説の剣「ファウスト」がなければ危ないところだった。
ドルルルゥンッ♪
アナザーリッチが消えると同時だった。
薄暗い洞窟の中に奇妙な音が響く。
私のレベルアップ音だった。
転生者にだけ許されているのであろう知識でステータスウィンドウを開き、自分のレベルを確認する。
「よし!」
表示されているレベルは99。
いわゆるカンストだった。
「セイデン」における魔王討伐の目安レベルは60。
70もあれば余裕だ。
だがそれは仲間が充実している場合の話だ。
私はソロであり、力はいくらあっても困らない。
これからのイベントのことを考えればなおさらだ。
レオンハルト様と結ばれると決めたあの日、私はファフリンに頼んで冒険者装備を用意してもらった。
そして素性を隠し、冒険者として己を鍛えることにしたのだ。
最初は当然レベル1。
平原で一番弱いスライムにすら苦戦した。
しかしそこはゲームの知識と公爵令嬢の財力で装備を整え、私は着実に強くなっていった。
レベルが上がると、見える世界が変わった。
力は2メートル110キロぐらいの男を片手で投げられるようになった。
速度は本気を出さずとも、ランニング程度で馬車より速くなった。
レベル90を超えると、まさかの聖女しか使えない聖魔法を獲得した。
初級の回復魔法だが、魔力がアホほど高くなった私が使うと最上級回復魔法ぐらいの威力になる。怖っ。
「……ふぅ」
私は剣を鞘に納めて、息を吐く。
レベル99。
人類の到達点だ。
やり込みゲーマーとしては頬がにやけるほど嬉しい。
ただ、私は忘れていない。
ここからだ。
本番は、ゲームがスタートする時間から。
レベル99で、やっとスタートラインだ。
そう、忘れてはならない。
私の使命は“聖女をボッチにすること”。
「よぉし! やるぞぉぉぉっ!」
弱いモンスターならそれだけで消し飛ぶほどの私の咆哮が、数多の冒険者の命を奪ってきた屍洞窟に響き渡るのだった。
ー・-・ー
そしてゲームがスタート。
私は王立学園に入学してくる聖女マリアノートの姿を確認した。
当然のように美しい容姿。
気品あふれるオーラ。
彼女はこれからどんなことだって叶えられる。
そんなポテンシャルを秘めている。
でもごめん。
私だって、幸せになりたいんだ。
そうして私は聖女マリアノートに心で謝りつつ、最初のイベント発生ポイントへと走るのだった。
ー・-・ー
「きゃん!」
学園内の中庭で、私はぶつかった。
相手はもちろんレオンハルト様だ。
「大丈夫かい? ミーシア」
「ごめんなさい、レオンハルト様」
尻もちをついた私にレオンハルト様が手を差し伸べてくれる。
ものすごく手加減をしてぶつかったので、倒れたのは私だけだ。
上手くいって良かった。
下手をしたらレオンハルト様が10メートルは吹っ飛ぶところだった。
「急いでたみたいだけど、どこへいくの?」
「ちょっと用事が」
これでマリアノートとレオンハルト様の中庭でぶつかり恋のスタートスチルはいただきだ。
次なる場所へ移動しようとした私はふと立ち止まり、振り返った。
「レオンハルト様」
「ん? どうした?」
柔らかで優しい笑み。
ああ、やっぱり私、この方のことが好き。
「私、必ず貴方と結婚します。貴方のことを、心から愛してますから」
「……え?」
「……それでは」
私は恥ずかしくなって走り出す。
残されたレオンハルト様の顔まで、赤くなってることに気づかぬまま。
ー・-・ー
そして私は、記憶にある限り、聖女と七人の英雄が出会うイベントをことごとく先回りした。
まずドラーデン国騎士団所属のグラハム。
強面だが筋骨隆々のイケメン。
彼はドラゴンとの戦いで瀕死になったところを聖女に助けられて、マリアノートを慕うようになる。
吊り橋効果に加えて命の恩人。そして美女。
わかるよ。好きになるなっていうほうが無理だよね。
だけどごめんグラハム。
今回、貴方は怪我しない。
だって──。
「ふりゃあっ!」
私のぶん投げた巨石がドラゴンのどてっ腹をぶち抜いた。
即死である。
「えぇ?」
強面のグラハムもさすがに困惑している。
「じゃね!」
そして謎の女冒険者、アシーミは華麗に去っていくぜ!
ー・-・ー
次はドラーデン国宰相の息子、エイジット。
キリっとした眼鏡イケメン。
次代の宰相になるべく研鑽する彼は才能まで備えている。
そんな彼が次期宰相になっては困る隣国の間者がエイジットを誘拐。
毒を飲まされ、瀕死のところに聖女が間一髪間に合い、その聖魔法で助ける。
うん、そりゃ好きになる。
だから私はエイジットがさらわれる場所に先回りし、間者たちをボコボコにした。
エイジットは無事。
はい、次!
ー・-・ー
続いてドラーデン国休憩魔術師のソノン。
理知的でちょっとつかみどころのないイケメン。
レオンハルト様と人気を二分すると言われてるけど、私は断然レオンハルト様派。
ソノンは敵の策略でその膨大な魔力を暴走させられる。
そこを聖女の聖魔法で相殺し、命と名誉を守られる。
うん、好きに(以下略)。
「ごめんね、ソノン」
「はい? あなたは確か公爵れ……バベッ!?」
魔力が暴走する前にビンタで気絶させ、敵の策略である暴走させるための魔法陣を足でザッザカと蹴って消す。
「貴様! なにも、ぶべぇっ!?」
ワラワラ出て来た敵も当然ぶっ飛ばして、警察的な役割の兵士たちのところへ投げ捨てておく。
うし! 次だ次!
ー・-・ー
五人目はルバハ。貧民街に巣食う犯罪組織の長だ。
彼に関しては特に何もしなくていい。
ルバハが関わるのはミーシアから聖女暗殺の依頼が来てからだ。
暗殺に失敗したあげく、ミーシアに裏切られ、仲間たちから全身を刺されて瀕死に。
そこを暗殺するはずの聖女に救われて改心。
聖女ラブ勢に。
というストーリーなので、関わらなければ良し。
次!
ー・-・ー
六人目はシーウィ。ドラーデン国の国軍に所属する参謀だ。
ゲームが進むにつれて最強の軍師と呼ばれるようになるが、現時点ではまだ未熟。
北での戦いにおいて連戦連勝し、驕ったところを敵の罠にハメられて絶体絶命に。
そこを聖女とグラハムたち騎士団に救われるというあらすじだ。
なので罠にハマるまでは静観しておいて、敵が出てきたのを見計らってボコボコにしておいた。
「た、助かった……あんた、名前は?」
「アタシ? アタシはアシーミ。ただの冒険者。じゃね!」
ということでここも離脱。
反省して良い軍師になれよシーウィ。
さて、いよいよ最後だ。
ー・-・ー
最後はドラーデン国に流れ着いた傭兵デズモンド。
様々な戦場の盤面をひっくり返した巨剣を振るう最強の剣士。
ただ、そんな彼をしても子ども扱いされる相手──悪魔。
ドラーデン国にほど近い山脈に突如として現れた悪魔に、デズモンドは苦戦を余儀なくされていた。
仲間たちが聖女、もしくは騎士団を連れてくるまで持ちこたえられるか。
ギリギリの戦いだった。
悪魔は聖魔法でしかトドメを刺せないので、ここだけはどうするか迷っていた。
だけど今の私は聖魔法が使える。
初級だけどたぶん大丈夫でしょう。
「女! なにをやっている! こいつは悪魔だ! 早く逃げろ!」
「大丈夫、大丈夫。えい」
私は聖魔法を放つ。
「ビャアアア!!」
変な鳴き声とともに悪魔が消滅する。
「……えぇ? せ、聖女様だったのか?」
勘違いが起こりそうだったので慌てて顔の前で手を振る。
「違う違う。本当の聖女は国で修行中だから。私はただの冒険者。OK?」
「いやぁ、でも……えぇ?」
混乱するデズモンドを置いて私はスタコラサッサと山を下りる。
よし! これで出会いイベント全潰し完了!
あとは──。
ー・-・ー
それからしばらく時が経ち──。
私の狙い通り、聖女マリアノートは七人の英雄と接点を持つことなく、せっせと己の鍛錬に励んでいた。
レオンハルト様と私の婚約が解消される気配もなし。
いける!
私は今、地底から突如出現する魔王城の前にいた。
凄まじい瘴気で普通の人間なら近づくだけで発狂するか最悪死ぬ。
でも大丈夫。
私レベル99だから。
「たのもー!!」
威勢のいい私の声で下っ端のモンスターが吹っ飛んでいった。
城に侵入して魔王がいる場所まで、最短距離でズンズン進んでいく。
「こんにちはー!」
「だ、誰だ貴様!?」
「悪役令嬢です!」
「……はぁ? 英雄とか聖女じゃないのか! ふざけるな、死ね!」
好戦的な魔王だ。
いきなり最大級の暗黒魔法を放ってきたので初級聖魔法で相殺する。
「わぁっ!? 嘘でしょ!? 死んどくべきでしょ!?」
慌てふためく魔王にズンズン近づいていく。
「せ、世界の半分、いや3/4あげる! ワシ1/4でいいから! ね! ね! だから助け……!」
「やー!」
「うわああああ!」
ザシュ。
決着はついた。
魔王が消えて黒雲が消え去り、魔王城は砂となってサラサラ朽ちていく。
ゲームクリアー!!
全スチル制覇、隠しダンジョン、ボス全攻略、レオンハルト様RTA世界一位のゲーマー舐めるなよぉ!
うぉおお!!
これにて完!
ではなく、もう少しだけ続きます。
ー・-・ー
さて、今、私はレオンハルト様とともに聖女マリアノートの前にいます。
私とレオンハルト様は白い豪奢な衣装に身を包み、マリアノートが紡ぐ言葉に互いに頷きました。
「では、誓いのキスを」
そう!
私は、ついに、やりました!
レオンハルト様と結婚END!
レオンハルト様が私を見つめる。
それから、こんな言葉を口にした。
「不思議だな。ずっと誰からも本当の愛など受け取ることなどできないと思っていた。だけどミーシア。君の言葉なら信じられる」
つぅ、と私の目から涙がこぼれる。
これはゲームですら聞いたことのない、レオンハルト様の本音と思われるセリフだった。
もう「セイデン」プレイヤーだったら、レオンハルト様派じゃなくても全員泣く。
絶対。無理無理。
レオンハルト様ルートやって。わかるから!
「……愛してます、レオンハルト様」
私の答えに、レオンハルト様が微笑み、そして私たちの唇が静かに重なった。
その後、ドラーデン国は栄華を極めた。
賢王レオンハルトが治める国は繁栄し、その横には幸せそうにデレデレとにやけている王妃の姿があったそうな。
そうそう。余談ですが。
ドラーデン国を攻めようなどと考える不届きな国は、開戦告知と共に謎の冒険者によって片っ端から滅ぼされたとかなんとか。
いったいどこの誰なんでしょうね。
その謎の冒険者は。
終わり。