勇者
陽光差し込む森の中、女は奥へ奥へと進んでいく。彼女が歩くのに合わせて、パリパリと葉が割れる音がする。彼女はそれが心地よいのか、鼻唄を歌い始める。それにつられてか、鳥たちの鳴き声もあたりに聞こえ始める。
そうしてある一種の音楽的な何かが出来上がり始めた頃、女は少し開けた場所に出た。彼女の目線の先には、陽の光を溢れんばかりに浴びながら鎮座する、大きなゴツゴツした岩があった。
女は一瞬立ち止まってそれをじっと見つめたあと、その岩の前まで近づき、座った。そして、そのまましばらくの間岩を見つめ続けたのち、彼女はゆっくりと口を開く。
「遅くなってごめんね。ちょっと色々忙しくって。まぁ…あなたのことだから、早すぎる!とか、言うのかもしれないけどね。」
女はふふっと笑う。
「ライアンはハンター協会総監督、ファインは王直属近衛兵団長になったわ。全部、あなたの言う通りになったわね。」
女の顔に少し翳が差す。
「でも信じてほしい。私達は当時はパーティメンバーとして、本気であなたを支えようとしてたわ。」
そう言うと、女は少しの間目を閉じて黙り込む。彼女の目の奥には、どうやら"あなた"との思い出が映っているらしかった。そうして目を閉じたまま、彼女は言う。
「あなたはあの夜、私達に向かってこんなことを言ったわよね。『僕は真に勇者なのか?』って。」
女は悲しそうな笑顔をその口に浮かべる。
「私は今でもあんなことを言うあなたは変だったと思っているわ。私達は全員、いえ、あなた以外の誰もが私達を勇者だと確信していたわ。あなたがそんなことを言うまで、疑問に思ったこともないくらいに…」
そう呟いた後、女は目を開け、岩に両手を触れる。その目には、薄っすらと涙が溜まっていた。
しばらくの間、女はそのまま押し黙った後、またゆっくりと口を開く。
「やっぱりあなたは聡すぎた。もうちょっと私達みたいに、馬鹿だったら…どれほど…」
後に言葉は続かなかった。
◇◇◇