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03.君へ贈る、最後の言葉

 ・[主視点]

☆→天真てんま さくら、【転生後】天光あまみつ るな

○→華一はないち 太陽たいよう

□→桜華おうか とも

 「まさか君の方から会いたいって言ってくれるなんて・・・。本当に嬉しいよ、さくら。」

 ・・・ごめんね・・たいよう。

 私はこれから君のことを捨てる。

 ・・・そのことを改めて考え直すと、いつも心が痛みだす。だけどそれと同時に、嬉しい気持ちも湧いてくる。ようやく解放されるんだって。ようやく解放してあげられるんだって。そう思えるから。

 今日の計画が上手くいけば、私と、君と、咲良さん。この三人がようやく、明日へ向かって一歩を踏み出せるんだ。だから迷うことはない。だから私は迷うことなく、君を捨てる。

 

 「ねぇ、たいよう。私は・・・誰?」

 「君は桜だよ。」

 「・・・そうだね。私は天光 月であり、そして天真 桜だ。」

 久しぶりに口にした、かつての本名。だけどこの人はもう死んでいる。これは死人の名前だ。だからいい加減、お別れしないとね。それがどんなに恐ろしいことであろうとも。

 「ああ。やっぱりそうだよね。僕の心に狂いはなかったよ。ああ・・・凄く・・・懐かしい気がする。でも今、僕の目の前には君がいる。ちゃんと君がいる。」

 「うん。ちゃんといるよ。」

 ・・・安堵。喜び。興奮。安らぎ。・・・君の想いは、私の心と繋がっている。

 「ねぇ、さくら。」

 「ん?」

 「ハグ、していい?」

 ・・・私にそれを・・止める権利はない。

 だから・・・両手を広げて君を待つ。

 「いいよ、おいで。」

 ・・・君から溢れ出す全てが、直に流れ込んでくる。・・・大丈夫。ちゃんと伝わってる。理解してる。私のモノ。君のモノ。

 たから・・・。

 「泣かないで・・・泣かないで・・私の太陽。ちゃんと私を照らしつけて。」

 「うん・・・。もう二度と・・・見失わない。」

 「そうじゃない。ちゃんと私を見て、私の言葉を聞いて。」

 「・・・わかった。」

 これで君はちゃんと聞く体勢に入ってね。

 「・・・私はね・・・一度死んだの。それは辛くて、悲しい出来事だった。痛くて、苦しい毎日だった。」

 「・・・ごめん。何もしてあげられなくてごめん。君を死なせちゃってごめん。」

 「それは仕方がなかったこと・・・それが私の運命だっただけ。だから太陽が気に病む必要はないよ。それに太陽は何もしてあげられてなくなんかないよ。あの世界で唯一、太陽だけが私に安らぎをくれた。喜びをくれた。癒しをくれた。楽しみをくれた。太陽は・・・あの世界の私にとっての全てになったんだよ。」

 「だけど君は死んでしまった。」

 「そうだね。死んでしまった。でも運命のイタズラか、神の気まぐれか。私はまたここに戻ってきた。」

 「なのに僕は彼女と結ばれてしまっていた。君をほったらかして、知らない女と・・・。」

 「それは違う。彼女は・・・今の君にとっての希望だったんでしょ?」

 「そうだったかもしれない。けど・・・でも君が戻ってきてくれた以上・・・。」

 「それも違う。」

 「・・・どういうこと?」

 「太陽。よく聞いて。私ね、もうほとんど記憶が残ってないんだ。君との出会いから、死ぬ直前まで。もうほとんど、思い出せない。」

 「・・・え?そんな・・・嘘・・・。」

 「嘘じゃないよ。天真 桜は、この世界から、本当の意味で、消えようとしているの。」

 「ありえない・・・ありえないよそんなの・・・。だってせっかく・・・帰ってきてくれたのに・・・なんで・・・。なんで今になって・・・。」  

 信じたくない事実。たけど私からの言葉という真実性。その二つが、彼の中でジレンマとなっている。

 私が嘘を付いても、君は愛故にそれを信じようとしてしまう。だからこそ、彼に残された選択は二つに一つ。私を信じるか、私を裏切るか。

 ・・・お願い・・・太陽。

 これが最後の、攻撃。失敗すれば、咲良さんの出番。

 「太陽・・・。ありがとう。私の心を救ってくれて。太陽・・・。ごめんね。君をひとりぼっちにさせてしまって。太陽・・・。許して。君を置いて先に消えてしまうこと。そして太陽。これは天真 桜からの最後のお願い。新しい私・・・今世の私である、天光 月ちゃんを、縛らないであげて。彼女のことを追いかけることなく、自由にしてあげて。」

 「無・・無理だよ!だって僕は弱いから!君がいてくれないと!僕は!」

 「太陽。よく見て。自分のことを、ちゃんと見て。そしたら思い出せるでしょ。君のそばにいるのは私だけじゃないって。君のそばにはもう一人。いるじゃない。君に希望を与えてくれた人が。君のことを想ってくれている人が。」

 「そんなの・・。」

 「太陽くん・・・。」

 彼が振り返る先には、咲良さんがいる。口を挟まず、隅っこでずっと待っていてくれた咲良さん。多少流れがごちゃ混ぜになりはしたけど、これで上手くいく。絶対に・・・。

 「太陽くん。私も・・・ここにいるよ。君のそばに・・ずっといるよ。」

 そう言いながら、彼女は両手を広げる。ハグの合図だ。

 さあ、お願い!太陽!天真 桜の呪縛から、君を自由にしてあげて!

 「ダメ・・・だよ。ダメなんだ・・・僕は・・・君じゃないと・・。」

 まだ足りないか。

 でも後一押しでいける・・・気がする。

 だから伝えるんだ。

 最後の言葉を。

 ・・・私の心が・・・全てを忘れて君を見ていたこの心が・・・叫んでいる・・・”私”の想いを。

 「スゥゥ・・・太陽!天真 桜は君が好き!君が大好き!君を愛してる!そんな私は救われた!君の愛に救われた!だけどごめん!私は君を救ってあげられない!じきに消えてしまう私じゃ君を救ってあげられない!だからお願い!縛られないで!天真 桜の呪縛で君自身を縛らないで!自由になって!私のことをちゃんと乗り越えて!私に心からのさよならを言わせて!」

 愛と別れを・・・ようやく伝えられた。”私”がずっと口にできなかった想いを、ようやく、伝えられた。

 本当にようやく・・・伝えられた・・・。

 ごめんね・・・ごめんね・・・。

 君をひとりにさせてしまって。

 君を縛り付けてしまって。

 君に何も伝えられなくて。

 でもようやく・・・これでようやく・・”私”は成仏できる。

 君の明日を見届けて、ようやく・・・。


 彼は・・・その場に崩れ落ちた。ただ一言、「ごめんね。」とだけ残して。ーーー・・・



 ・・・ーーー「咲良さん。彼とはいい感じに進んでますか?」

 「ええ。前よりも雰囲気が明るくなったの。今はすごく心地が良いわ。」

 「よかったです。」

 「ええ、本当にね・・・。本当によかった。」

 「・・・はい。今日はありがとうございました。美味しかったです。ケーキ。」

 「いいよいいよ、気にしないで。これはお礼だから。」

 「ありがとうございます。」

 

 「それじゃあね。バイバイ。」

 「はい。また。」ーーー・・・


 

 ・・・ーーー気づけばあっという間で、学年が一つ上がった。あれから彼と咲良さんは仲良くやっているらしい。そしてなんと!お目出度いことに新しく子供もできたみたい。生まれたら祝ってあげないとね・・・って言いたいけど、正直なところ彼とは会いにくい。どう接していいものかがまるでわからないから。

 ということでトモモに聞いてみた。

 「咲良さんとその婚約者さん。どうやって接すればいいかな?」

 「別に思うままでいいんじゃない。変に考えて接するのはお互いにとって良くないと思うし。」

 確かにその通りだ。けどできない。だって思うままに接するとそこに天真 桜の感情も入ってくるから。もし万が一にでも何かしらポロっと出てしまうと、厄介なことになる可能性がある。

 ・・・さて、どうしたものか。

 ・・・一応設定は作ってある。

 今の私に天真 桜の記憶はない。だから彼と初めて会ったのは宝石店。だけどそこから彼といろいろあった記憶は残ってる。でも彼に対する私の感情はとくになし。よって彼のことは、特に知らないけどちょっと気まずいおじさん、程度のものとなる。

 ・・・ま、実際会えば何とかなるか・・・って新しい子が生まれるまで会う予定ないけど。


 そういや彼と咲良さん・・・今は家族で旅行中だったか・・・。

 楽しんでるかな〜。

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