03.明日へ進む為の計画案。
・[主視点]
☆→天真 桜、【転生後】天光 月
○→華一 太陽
□→桜華 友
△→八重津 咲良、【結婚後】華一 咲良
☆
入学式が終わってからはや四ヶ月。その間、私は特に何もできないままの時間を過ごし続けていた。
仕方がない。どれだけ考えたって答えは出てこなかったから。だからいい加減行動に移さないと。この長期休暇中に少しでも進展があることを願って。
まずは・・・さくらさんに会おう。なんとしても。・・・あれから結局、一度も会えてなかったから・・・。
・・・彼とさくらさんは、まだ離婚していない。それはつまり、あんな事があったとしてもさくらさんはまだ彼のことを愛しているってことなんだ。これは使える。私が彼を捨てたあとの、緩和材として。この二人には、なんとしても今の状態を維持してもらわないと。
「その・・・お久しぶりです。」
「そうね。でもいいのよ。そんなにかしこまらなくて。」
私とさくらさんは、二人で喫茶店に来ていた。席は隅っこ。そしてこの時間帯なら極端に人が少ないから、周囲に話を聞かれることもない。
「あの・・さくらさんは・・・。」
「その前に。」
さくらさんは手のひらを私の顔に持ってきて、話を遮ってきた。
「謝らせて。あの日のこと。」
あの日・・・。
私が、彼に別れを告げ日のことだよね・・・。
「あの時の私は流石に感情的になりすぎてた。あとになって冷静さを取り戻して、それでもう一度考え直してみたんだけど、やっぱり転生なんて非科学的な話はありえない。」
やっぱりそうなるよね、普通の人は。
「太陽くんもきっとそれはわかってる。でも太陽くんは未だに過去から抜け出せてないから。」
確かにその通りだ。
だからこそ私とさくらさんの手で・・・。
「そのせいでルナちゃんに、私の知らない桜さんを重ねてた。そしてそれは私にも。・・・そのことを私は太陽くんと出会ったときから知っていたことなのに。・・・本当にごめんね。」
「あ・・ああと・・・・。」
・・・正面切って真面目に謝罪されたときって、実際どう対応すればいいのかわからないんだよね・・・。
「・・・私も・・上手く言い返せなくてすいませんでした。だからお互い様ということで・・・。」
「そうね。それが一番かも。」
「はい・・・。」
「はぁ〜あ。ちょっとスッキリしたよ。今日はありがとうねルナちゃん。さて、この後はどうする?何か頼む?もちろんお姉さんの奢りだよ。」
「あ、いやまだ私の話が・・・。」
「あッ・・・本当だ・・・。今日誘ってくれたのはルナちゃんだったのに・・ごめん!私だけ言いたいこと言ってスッキリしちゃった。」
「いえ。」
「・・・その前に、やっぱり小腹空かない?ジュースだけじゃなくて何か頼んでおく?ここのケーキ、オススメしたいのたくさんあるんだ。」
「あ・・じゃあその・・・実は気になってるのが・・・。」
「どれどれ?」
「・・これです。」
私は、メニューにあるシャインマスカットだらけのケーキを指差した。
「お!いいね!それじゃあ私は・・・モモ沢山のほうにしようかな。頼むのはそれだけでいい?」
「はい。今のところは。」
「よし。それじゃこの二つで。」
「かしこまりました〜。」
「・・・それでえっとぉ〜・・・どうしよ。食べてからにする?ルナちゃんのお話。」
「・・・そうしまします。」
「なんかごめんね。」
「いえ。美味しいもの食べさせてくれるのでいいです。」
「あはは。ありがとう。」
「ルナちゃんはケーキのてっぺん、最後まで置いとく派なんだね。」
「うん。締めくくりは大事だから。」
「・・・その通りだ。」
ケーキを食べ終わり、ちょっと考えてから・・・。
「・・・やっぱり家に来ませんか?」
そう提案した。
人が増えて話しにくく感じたから。
「お邪魔にならない?」
「大丈夫です。今日は両親ともお仕事中ですので。」
「それは逆に・・・。いえ、了解。わかったわ。」
家に着いて・・・リビングに上がりお水を用意・・・。それが終わったから対面に座って話しを始める。
「それで話っていうのは・・・さくらさん。今、彼との生活はどんな状態なんですか?」
「あはは・・・いきなり・・・。・・・そうね、前みたいに戻ったって言えばそうなんだけど・・・やっぱりあんなことがあっちゃったせいか・・・太陽くん、私のことあんまり見てくれてないんだなって・・・そう感じちゃうからどうしても前の生活とは言いづらいかな・・・。うん。前よりもちょっと心の距離が離れてるかも。だからそうね。どんな状態かって聞かれると・・・夫婦としてはあんまり良くない生活が続いてる状態・・・これが正しいかも。」
「そう・・ですか・・。」
「ルナちゃんが落ち込む必要はないのよ。」
「・・・いえ。そうなった原因は私の責任でもありますから。」
「それは違う。」
「違いません。彼が私を誰かと勘違いしているのは事実ですから。」
「・・・・だからといっても、あんまり自分を責めすぎないでね?」
「もちろんです。今日話そうと思ったのも、そのことに決着を付けようと思ったからですから。」
「・・・わかった。私も一緒頑張るから。ちゃんとお姉さんを頼ってね。」
「わかってます。それでですね、私、もう一度、彼と、二人で、話してみようと思います。」
「二人で?」
「はい。」
「・・・ダメ。危ない。」
「大丈夫です。」
「何を根拠に?」
「彼の異常性。」
「異常性?」
「つまり彼が私に向ける好意のことです。」
「なるほど。」
「彼は私のことを誰かと勘違いしていますが、そのおかげで彼は私の言う事の大半はちゃんと聞いてくれます。」
「全部じゃない時点でまだ許可できない。その好意故にルナちゃんに手を出してしまう可能性は充分にあるから。」
「そんな事ありません!・・・お願いします。」
「ダメ。危険がある以上それだけは許可できない。だからちゃんと私もそこに含むこと。それなら許可できる。」
「・・・ダメです。まずは二人で話したいんです。」
彼と話す以上、転生のことは必ずでてくるし、私からも話すつもり。
だから万が一にでもそこを聞かれると・・・・。
「どうして?何か私がいることで邪魔になる会話内容なんてあるの?」
「・・・それは。」
そうだ。
いっそのこと彼との会話内容を先に伝えとけば誤解もなくなる。
「ないです。わかりました。さくらさんも混じってください。」
「ありがとう。それで、どうやって太陽くんの勘違いを解くかは決めているの?」
「はい。とりあえず彼の話に乗ってみようと思ってます。」
「つまり、ルナちゃんが桜さんの転生者になりきるってこと?」
「はい。そうすれば彼はより私の話を聞いてくれそうですし。」
「・・・確かに、そうね。桜さんに対する太陽くんの愛情はちょっと行き過ぎてるから。」
「・・・なんかちょっと変な感じですね。さくらさんの前でおんなじ名前の知らない桜さんって名前を言うの。」
「私は慣れてるのかな。太陽くん。私の名前である咲良じゃなくて、その知らない誰かの桜って名前で私のことを呼んでいたのかもしれないから。あははは・・・・。」
「そんなことはないですよ。」
・・・だって生きることを諦めていた彼を再び現世に引っ張り戻してくれたのは咲良さんだから・・・。
そして咲良さんは彼に生きる希望すら与えた。間違いなく彼の中に咲良さんは存在している。だからこそ私も、咲良さんに後を託すことができる。
「そうだと・・いいな・・・。」
「・・・・だから絶対に諦めないでくださいね。彼のこと。私、咲良さんの想いを応援してますから。」
「ありがとう。ルナちゃん。」
「はい。」
「ごめんね。話の続きしよっか。」
「わかりました。・・・とりあえず私が転生者になりきって、彼の説得を試みます。」
「どれから説得するの?」
「まず・・・過去の桜さんは死んだと。」
「それは太陽くん自身も既に理解してることじゃ?転生って言葉使ってたし。」
「はい。でも”私”が改めて言うことでより強く印象付けるかもしれませんので。それにそこにはもう一つの意味も含まれています。」
「・・・・それは?」
「転生した私の中にいる桜さんが、既に消えかかっていると。」
「・・・なるほど。だけどそれだけじゃ足りないと思う。」
「わかってます。だから次に、過去の桜さんが残すであろう最後の言葉を彼に伝えます。」
「それはもう考えてるの?」
「はい。彼には、感謝と謝罪と、愛と別れと。そして願いを伝えます。私・・・天光 月を自由にしてほしいと。」
「・・・すごいわね、ルナちゃん。この時点でもなんかいけそうな気がする。」
「だと・・・いいですよね。」
「まだ何か不安が?」
「はい。その・・・彼の異常性がもとに戻ってくれるかどうかが・・・。」
「ああ確かに。仮に桜さんがいなくなったとしてもその転生元であるルナちゃんのことを諦めるとは限らないものね。」
「・・・はい。」
「そうなった場合は・・・どうしようか。」
「私もある程度叱咤はしますが、ここからは咲良さん・・・あなたの出番だと思います。」
「私の?」
「はい。この時点で過去の桜さん、つまり私は既に彼のことを突き放していますから、そこに入り込むように今の咲良さんが動けば・・・。」
「彼の異常性を私のもとへ移せる・・・と。つまり愛の告白か!」
「そんな感じです。」
「わかった。・・・・ふぅ・・・。ルナちゃんの策が上手くいかなければ私次第・・・か。」
「絶対に大丈夫です。さくらさんは、本物ですから。」
「・・・・・フフフ。ありがとう、ルナちゃん。わかった。私も頑張る。だけど万が一失敗したら、その後のことは考えてる?」
「いえ・・・今のところは何も。」
「そうかぁ〜。ん〜・・・仮に私の告白も失敗したら、太陽くんはどう動くと思う?」
「そうですね・・・。ん〜〜〜・・・・そこは私よりも咲良さんのほうが想像しやすくないですか?」
「確かに。そうね〜・・・。あはは・・・私殴られちゃうかも。」
「暴力・・・。」
確かに・・・あり得る。
この前も咲良さんに対して怒声を発してた。
そんな・・今の彼なら・・・充分・・・。
「やっぱりやめましょう。暴力は絶対にダメです。」
「ああごめんね、心配させちゃって。でも大丈夫。私だってそれくらいは覚悟してるし、今ある心の傷に比べれば痛くも痒くもないから。それにもし成功すれば逆に心の傷が回復するから。私にとっては充分、価値のある賭け事だよ。」
「・・・・・わかりました。でももしそんなことになれば、私は止めに入りますから!」
「だーめ。ルナちゃんが入ってくると本当に危険になっちゃう。・・・大丈夫。大人の対応は大人に任せて。私、お父さんから武術を教えられた身だから。」
・・・強い?ってこと?
まあそれなら・・・。
「・・・・わかりました。」
「・・・それじゃあ・・今日はもう終わりにしようか。私もいろいろ考えておきたいし。」
「・・・同意です。今日はこのへんで。」
「続きは・・・電話でもいい?それとも実際に会って話す?ただ会って話す場合だと私が空いてる日限定になっちゃうけど・・・。」
「両方でお願いします。」
「了解。確かにそれが一番だね。」
「・・うん。今日は・・・ありがとう。ございました。」
「こちらこそ。それじゃあバイバイ。ルナちゃん。」
「・・・・ばいば〜い・・・・。」
・・・とりあえず、うまくいきそう。
今のところは・・・だけど。