03.大っ嫌い
・[主視点]
☆→天真 桜、【転生後】天光 月
○→華一 太陽
□→桜華 友
□
・・・ある日を境に、知らない男がルナナの周辺にちらつくようになった。いわゆる変質者というやつだろうか。そのことをルナナに話したら、ルナナはトモが気づくよりも前から知っていたぽかった。しかもその男が誰なのかまで。
その男はさくらさんの婚約者らしい。
さくらさんとは、初めて会った日以降も偶然の接触を繰り返して仲良くなった。何度か家にも寄らせてもらったけど、どの日もさくらさん一人だけで婚約者はいなかった。だからトモはその変質者がさくらさんの婚約者だったなんて知らなかった。だけどそんなこと関係ない。変質者は変質者。どんな理由があれ許されるべきじゃない。
「なんでもっと早くに教えてくれなかったの。すぐに警察行こ。」
トモは、そう言った。なのにルナナは断った。話し合えばわかるかもしれないからとか意味のわからないことを言って。
「相手は犯罪者だよ?話し合いの余地なんてないでしょ。」
そう言い返しても、曖昧な返事をしてくるばかり。
トモは・・・ルナナのことがちょっとわからなくなった。
その後もあの男はちらつく。腹が立った。トモが警察に言ってやろうとも思った。でも、ルナナは何故かそれを望んでない。だからその一歩を踏み出せなかった。
ストレスが溜まる。男の存在に。ルナナの曖昧さに。ルナナを想う気持ちに。
数日経って、さくらさんと話すことになった。安堵した。これで少しは解決に向かうんじゃないかって、そう思ったから。
その日の話し合いは、確かに解決に近づいた。けど結局話を進めたのはルナナじゃなくてさくらさんだった。
トモはルナナのこと、トモよりも大人びてるって思ってる。それは普段の生活からも感じ取れるものだったから。でも今のルナナは、子どもだ。うだうだ悩んで自分からは全く動けない子ども。その状態に何度も腹が立った。
だから、聞いた。聞きたくもなかったこと。信じたくもなかったこと。あの男が関わるとなぜ、ルナナは子どもみたいになるのか。そうなる原因。トモの中にずっとあった、最低な疑問。
ルナナは、あの男のことが好きなの?って。
否定してくれると信じていた。そんなバカな話あるわけないって。だってそうでしょ?そもそも好きになる要素なんかないでしょ?あの男はたまたま会ったさくらさんの婚約者で、ルナナのこと付け回すストーカーで、それ以外にはなにもないのに。
仮にトモがいない場所で何かしら話してたとしても、ルナナがあんな男を好きになるわけがない。絶対にない。
そううだよね、ルナナはあの男に脅されてただけなんでしょ?って。トモにそう信じさせて欲しかった。
ルナナから返ってきたから質問に、トモは自分を抑えられなくなった。家に帰ってもその感情は抑えられなくて、次の日になっても消えることはないだろうって確信した。だから決めた。ルナナを赦す条件。ルナナがあの男のこと放り捨てるまで、絶対にルナナとは目も合わせないって。数年前、ルナナがトモにやったみたいに。
もちろん、それでひとりになる覚悟はしている。もしかしたらずっと離れ離れになるかもしれない覚悟もしている。だけどそれと同時に、そんな覚悟なんてルナナが無駄にしてくれることも信じていた。だってルナナはトモのものだから。
「ルナナ・・・・。トモも・・会いたい・・・。だから・・早く・・・そんなやつ捨ててね。・・・待ってるから。」
子どもなりの意地であり決意。だけどルナナなら最後には必ずって。そう信じていた。
トモはルナナのことが好き。だからずっと見ていた。ルナナのこと、誰よりもずっと深くまで知ってるって思ってた。でも違った。トモはルナナのこと、全然知らなかった。まさかルナナがあんなにも脆かったなんて。それで気づいた。トモが知ってたのはルナナのずっとずっと外側だったんだって。トモが見ていたルナナは、ルナナ自身にとって見られてもよかった部分だけだったんだって。ルナナの本当の部分。ルナナが見られたくなかった部分。ルナナ自身が隠して仕舞い込んでた部分。ルナナの心の奥深くの部分。トモはそこの隠されたたくさんのルナナを、何も知らなかった。
☆
たくさん走って、気分悪くなって、吐きそうになって。気付いたら、病院にいた。
目が覚めて、しばらく呆然としてたら、私の手首をガッチリ握りしめながら眠っているトモモに気づいた。そしたらたくさんの想いが急にこみ上げてきて、溢れた。
□
赤ん坊の泣き声がした。大きな・・大きな・・泣き声。その声は・・トモの声じゃない。でも・・抱きしめられてるのは・・トモ。
「なんで?!」
飛び起きた。そしたらゴンッ・・て。トモの後頭部に何かがぶつかった。
「うぇッなに?!髪の毛びしょ濡れなんだけど?!」
☆
突然鼻に頭突きが来たせいで、「ぐうぇッ・・・。」って変な声を出しながら後ろに倒れた。そしたら鼻血が出てきた感じがして、それを指で触って確認して、「ああ・・・鼻血でた・・・。」なんて呟きながら呆けた顔で天井を眺めていたら、そこにトモモが覆いかぶさって来た。
「・・・・その・・・おはよう?」
私は・・今できる最大限の笑顔で、そう言った。
□
ルナナが声を発した。涙の後を隠し切れない顔で・・・笑いながら。
「大っ嫌い!大っ嫌い!大っ嫌い!大っ嫌い!」
それはトモ自身に向かって言った言葉であると同時に、今まで心の奥底を一切見せてくれなかったルナナに言った言葉でもある。
「・・・ごめん・・・ごめんね。トモのせいで・・・ルナナをひとりにさせちゃって。」
「・・・ごめん。私・・なんにもできてない・・・。」
「いいよ。もう気にしなくて。さくらさんが警察に言ってくれたから。」
「・・・・・そう・・なんだ。・・・じゃあ、ありがとうって言っておかないとね・・・。」
「またここに来るって言ってたから。その時でいいよ。」
「・・・うん。わかった。」
☆
・・・私は、路上に倒れてたらしい。それを見つけた人が救急車を呼んでくれた。その後病院で色々検査したけど特に異常は見つからず・・・。私が倒れた原因は精神的ストレスによる可能性が高いだろうと言われ、一度精神科に行ってみることをおすすめされた。
精神的ストレス・・・。
私にはそれがここ数日の出来事で溜まったものなのか・・・それとも長い間をかけて積み重なってきたものなのかがわからない。だけどどちらにしろ、私は自分でも気づかない内に相当追い込まれていたらしい。
数日後、警察の人が来て少しだけ話した。彼には警告だけしたそう。
まあ当然かな。
そもそも被害者である私が動いてないし、実際に被害に遭っている証拠を掲示できていないし。
そのことにちょっとだけホッとした。だけどそれと同時に、なんにも解決してないことを改めて自覚させられた。
でも・・それでいい。
彼と私との間にある絡まりは、他の誰かがほどけるような生優しい代物じゃない。これは私が、私のやり方でほどいてあげないとなんにも意味がない。
だって私だけが、彼の心を解放してあげられる存在なのだから。