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03. 大好き大好き大好き大好き!

 ・[主視点]

☆→天真てんま さくら、【転生後】天光あまみつ るな

○→華一はないち 太陽たいよう

□→桜華おうか とも

 「ともは賢いね~。早熟なんだね〜。」

 ママがそう言った。だからトモはかしこいんだって知った。周りの奴らとは違うんだって感じるようになった。・・・そしたら学年が上がるにつれて周りの奴らみんながバカに見えて、プライドだけがどんどん高くなっていった。


 小学三年生になった頃、一人の女の子を家で預かるようになった。親の都合らしい。ちょっと嬉しかった。友達になれるかもって思ったから。

 

 その子はとても活発で、学校ではみんなから愛されている存在だった。だからそんな子と仲良くなっていいものかと・・ちょっと恐れてしまった・・・。けどそんな感情はさじにすぎなくて、気づけば学校でもよく話して遊ぶようになっていた。


 そうやって過ごしているうちに他の子たちもトモの周りに群がるようになって・・・。それが鬱陶しくて。

 「こんなバカな子たちほっといて私と遊ぼうよ!」

 そう言った。


 名前はルナ。月と書いてルナと呼ぶらしい。トモにできた初めての友達。だから二人で遊びたかった。他の子達に邪魔して欲しくなかった。そんな思いから漏れ出た軽率な一言。


 「ちょっと待って・・・・・・・はい。」


 渡されたのは三角の図が描かれた紙。


 「バカじゃないんだったら求められるよね?この三角形の面積。」

 「え・・・あ・・・。」

 

 まだ習ったこともない問題。解けるわけがなかった。


 「みんな今日は外で遊ぼ。」

 ルナちゃんがそう言うとみんな離れていって・・・私は一人、教室で頭を抱え続けた。


 次の休日。ルナちゃんをまた預かることになった。

 

 「解けた?問題?」


 何も言えなかった。


 「・・・ば〜か。」


 煽られた。だから言い返した。


 「習ってない問題なんだから解けるわけないじゃん!」

 「それじゃあ結局みんなと同じってことじゃん。」

 「んああ!じゃあ解いてみてよ!」


 そう言い返すとルナちゃんはスラスラと書いていって・・・。


 「はい。答えはネットで調べてみたら?」


 正解だった。


 「・・・だけどトモ!みんなより覚えるの速いもん!」

 「それは記憶力が良いだけのバカ。かしこいわけじゃないよ。」

 「んああ!みんなより大人だもん!」

 「早熟なんだね。で?ルナのほうが大人だよ?ルナからしてみればトモちゃんなんてただのクソガキだよ?」

 「同い年じゃん!」

 「そうだね。おんなじこどもだ。」

 「・・・んあぁああぁ!」


 泣かされた。煽られて、罵られて、否定されて、見下されて、嬲られて。トモのプライドは、ズタズタに引き裂かれた。


 結局その後は何もできないまま、時間だけが過ぎていった。トモは・・・また一人になった。


 一人になってしばらく経った頃、いじめが始まった。最後尾の私にプリントが来なかったり、すれ違いざまに罵倒されたり、上履きがなくなったりと・・・。

 でもそんな些細な事は正直痛くも痒くもなく、ただただ面倒なだけだった。

 トモの心は、そんなくだらないことが気にならないくらいに引き裂かれていたから。


 ・・・そんないじめも数日経つとぱったりと止み、トモのことをいじめてた子達が謝りに来た。

 それで・・気づいた。


 トモ・・・最低だ・・・。

 みんなにバカって言ったこと・・・謝ってない。

 ルナちゃんにすら・・謝れてない・・・・。

 「ハハハ・・・。笑っちゃう・・・。ホントに・・・。」

 それを自覚してようやく、トモはズタズタに引き裂かれたプライドを捨てることができた。

 

 「ルナちゃん・・・・・・・・本当に・・ごめんなさい。」


 二人だけの空間に漂う重い空気を押しのけて、トモはようやく謝ることができた。そしてその言葉に反応するように、ルナちゃんがトモの目を見て・・・そっぽを向いて・・・。


 「ルナも・・・・ごめんね。言い過ぎちゃって。」

 「うん。」

 「・・・実際・・・トモちゃんはかしこいよ。周りの子に比べて記憶力も理解力もあるから。ルナも話しやすい。」

 「ありがと。・・・・・でも上から目線。同い年なのに・・・。」


 ルナちゃんはここでようやく、トモに正面姿を見せてくれた。


 「だってルナの方がかしこいからぁ~。」

 「そんなのわからないよぉ~だ。」

 「わかるよぉ~だ。だってルナはみんなの二倍生きてるも~ん。」

 「なにそれ~、意味わかんなぁ~い。」

 「なぁ~い?」

 「なぁ~い。」

 「「ハハハハハハハハ・・・・。」」

 「・・・・ねえ、ルナちゃん。ハグ、していい?」

 「・・・いいよ。」


 そして抱き合ったその瞬間・・・・その瞬間に感じた心を締め付けるような温かさそのものを、トモは恋だと自覚した。


 「明日、バカって言っちゃった子たちにも謝る。」

 「うん。」

 「謝って、今度こそ本当の友達になってもらう。」

 「うん。」

 「友達・・・なれるかな・・・?」

 「大丈夫。ルナがいるから。」

 「手、握っててくれる?」

 「もちろん。」

 「ありがとぉ・・・・ルナちゃん・・・・。」

 「うん・・・うん・・・いいよ・・・泣いていいよ。」

 「・・・んあぁああぁ・・・・ホントは怖かったの・・・辛かったの。ひとりでいるの寂しくて・・・。」

 「大丈夫。もうひとりじゃないよ。ルナはずぅ〜ッと”一緒”だから。」

 


 ーーー・・・あの言葉をくれた日からずっと、ルナナはトモのそばにいてくれた。


 「『ルナはずぅ〜ッと一緒だから。ルナはずぅ〜ッと一緒だから。ルナはずぅ〜ッと一緒だから。・・・・大好き。大好き。大好き。大好き。』」

 「ンフ・・・ンフフフ。ずっと一緒・・・ずっと一緒。トモとルナナはずっと一緒。トモも大好き。」


 両の手で掴み高く掲げる携帯から、少女の声は繰り返される。彼女によって厳選された数十の録画音声を何度も何度も繰り返し繰り返し・・・彼女はひとり聴き続ける。


『2月15日 

 

 ルナナと恋人になった記念日!

 ルナナと初キス記念日!

 声をかけてくれた女の人にマジ感謝!

 

 大好きボイスの録音完了!      』


 「大収穫ぅ〜。・・・・あああ!でも昨日がチョコチョコ日じゃ〜ん。もうあげちゃったよぉ〜。でっかいハート作ればよかったぁ〜・・・。あああ!あの宝石買ってもらってない!・・・ってこれだとトモはドンヨクなオンナってやつになっちゃう?自分で買いに行くかぁ〜・・・。けど1個しかなかったしもぅなくなっちゃってるかなぁ~。・・・・・・・ママァ!ママァ!ママァ!」

 「どしたのぉ?」

 「明日もっかいあのお店行きたい!」

 「明日も?欲しいもの買い忘れでもしたの?」

 「うん!」

 「ん〜・・じゃあ朝早めの内に行こっか。」

 「ありがとぉ!ママン!」

 「どういたしまして。」


 い〜よし。

 これで車は確保完了。

 次にお金を確保する。

 「・・・パパァ・・・はい〜るよぉ〜?」

 「おお、いいぞ?どうした。」

 「その〜実は〜欲しいものが〜あるんですけど〜お金が〜ちょっとですね〜足りなくてですね〜。」

 「ママからもらったお小遣い使っちゃったのか?」

 「うん・・・ちょっと豪遊しちゃって〜。」

 「仕方ないなトモさんや。千円で足りるかい?」

 「足りる!パパ!大好き!」

 「いよ〜しよしよしよし。だけどトモ、この事、ママには内緒だぞ?」

 「もちろん!ありがと!パパ!」

 「はい。」

 「やった!」


 お金、確保完了。

 フッ・・・トモの手にかかれば・・・楽勝だぜ。

 

 ーーー・・・次の日、トモが求めた宝石はなくなっていた。ちょっとだけ落ち込んだ。でもそのおかげで、別の宝石が目についた。というより心が吸い込まれた。


 「綺麗・・・。」


 澄んだ青夜空、そこに輝く金の星屑。パパとママとで見に行ったことがある。本物の夜空だ。・・・ある晴れた日、人が存在しない景色の中で見た夜空。いつの記憶だったかは覚えてないのに、ずっと焼き付いて消えない宝物。


 「これ・・・欲しい!!」

 「どれだ?」

 「パパ!これ!」


 両の手の平に乗せた二欠片の石をパパに見せた。


 「・・・星降る夜空のイヤリング・・・。ラピスラズリの模倣品か・・・。でもいいのか?これ割れた石を使ってるぞ?ほら、こっちはちゃんとひとつづつの石で作られてる。しかも同じ値段だ。」

 「こっちでいい。」

 「・・・そうか。」

 「いいねいいね!やっぱこっちの方がロマンチックだよね!」

 「ウォッ・・・店員さん・・・。」

 「お客さんも気づいちゃった?この二つ、綺麗にぴったりくっつくんだよ!」

 「もちろん!だから、これがぁ・・イイ!」

 「だよねぇ~!」

 「だとしても同値段はありえなくないですか?」

 「おやおやお父さん。ワテクシの想い、わかってくれませんか?・・・一体何故!一つが割れて二つになった石と!元から二つある石の値段が同じなのか?!」

 「重さが一緒なんですか?」

 「いえ重さはちゃんと半減してますよ。」

 「だとしたらやっぱりおかしくないですか?」

 「パパ・・・ダメだね。まるでわかってない。」

 「トモはわかるのか?」

 「もちろん。パパ・・トモはね。例え割れた方のが高くなっててもこっちを買ったよ。」

 「どうしてだ?言ってしまえば、これは不良品だろう?」

 「ノー!例えそれが不良品であろうと!そこにロマンを感じたのならば!元の品より価値は増す!」

 「イエース!その通りだよお客さん!ワッテがロマンを感じた不良品を!こっちの方が安いからという理由で買われるなんて言語道断!そんな合理的思考がワッテは大っ嫌いだ!だから絶対に売値は下げない!何なら上げてもいいくらいだ!」

 「それはさすがに・・・・。」

 「あんん???」

 「・・・納得はできませんが・・まあいいでしょう。そもそもこれを買うのは僕でなくこの子ですので。余計な口ははさみません。」

 「よし!お嬢ちゃんさん。レジに行こうか。」

 「サー!」

 

 「お客さん。ラッピングは片方だけ?もう片方はここでつけてく?」

 「もちろん!」

 「ああ・・そういう用途で・・・。」

 「おやおや。パパさんも納得されました?」

 「ええまま。確かに、ロマンチックですね。お揃いなんかよりもよっぽど。」


 「このイヤリングは磁石だから穴を開ける必要はないけど、それは逆に落としやすいってことだから気を付けてね。」

 「はい!」

 「うん・・似合ってる。そこに鏡あるから自分でも確認してみて。」


 少しの不安がありながらも、トモは自分の姿を見た。そしたら不安なんて一気に吹き飛んで、たくさんの嬉しいが溢れてきた。

 家に帰ってもルンルンな気持ちがまったく消えなくて、トモは急いでルナナの家に向かった。ルナナに会うとトモが付けてたイヤリングに気づいてくれて、いっぱい褒めてくれてすっごい羨ましがってくれた。

 だからトモはルナナに目隠しして、もう片方のイヤリングをルナナにつけてあげることにした。ただそのせいでせっかくのラッピングが無駄になっちゃったことには、後で気づいた。ごめんね、お店の人。

 イヤリングをつけるためにルナナの左耳周りをさわさわしてると、すっごくこそばゆいって笑いながらプルプルしてたのがとっても可愛かった!

 目隠しを取ってあげると、ルナナは自分の耳を触って、鏡を見て、トモに抱きついてきた。

 嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!って何回も叫ぶからしっかりと録音しておいた。またお気に入りが増えちゃった。

 ホワワンとした時間がひとしきり過ぎると、ルナナは言った。

 「ルナからも、プレゼントがあるの。」

 「プレゼント?」

 なんだろ?わからない。でも嬉しい!なんでも嬉しい!そう思った。

 「目、瞑って。」

 「目?・・・はッ!?」

 キスだ!そう思った。お返しのキス。よくあるやつ、ね?

 でも違った。ちょっとショック・・・。

 ルナナはトモの手の中に何か置いた。

 「いいよ。目、開けて。見て。」

 目を開けて手のひらを見てみると、そこにはさくらが入ったピンク色の宝石が置いてあった。

 「昨日のやつ!」

 それがトモの第一声だった。


 今思えばこれは間違えだったな。トモはここで嬉しさのあまりルナナを押し倒してキスするべきだった。そしたらそのまま流れに乗れたのに。この波を逃したせいで結局・・・。これはちゃんと次に活かさないと。


 トモの第一声に反応するように、ルナナは答えた。

 「そう。昨日家に帰った後に忘れてたの思い出して、ママに車出してもらったの。」

 「そこまでしなくても・・・・ううん。ありがと。ちょー嬉しい。これ、絶対に一生の宝物にする。」

 「うん。大事にしてね。それをルナだと思って。」

 「ちょーわかった!もちろんわかった!」

 ・・・そういや忘れてた。

 「このイヤリングね!二つ綺麗に合わせるとくっついて一つになるんだよ!」

 「ほんと!やってみて!はい!」

 「はい!ほら!」

 「うぉぉぉ!めちゃすごい!あッ!これ!もしかして世界に一つしかないイヤリング?」

 「そう!ルナナとトモ!二人で一つ!トモたちがずっと一緒である証だよ!」

 「すごい!これこそがルナたち二人の永遠の誓い!その証になるんだね!」

 「そうだよ!だからずぅ〜ッと持っていようね!ずぅ〜ッと一緒にいようね!」

 「うん!大好き!」

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