表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

04.心の歪みが狂気を孕む

 彼の病室前・・・トモモと二人、手を繋ぎ・・・。

 覚悟は決めた・・・。

 「入るよ。」

 「うん。」

 トモモが戸に手をかける。


 ・・・私は恐らく・・・未だに彼を想っている。例えそれが天真 桜から受け継がれたものだとしても・・・私は彼を愛している。

 歪められてしまったんだ・・・。私の心は・・・。天真 桜という存在に・・・。

 

 ・・・戸を開くと・・・よく知っている匂いがの奥に充満した。

 ・・・・・懐しい。

 「来てくれた・・・。・・・ありがとう。」

 彼の声・・・。

 ・・・この風景・・・そうか。

 これは君が見ていたものか・・・。


 そうやって呆けていると・・・私の前へ・・・私を守るように移動しながら・・・トモモが質問を始めた。

 「咲良さん・・・本当に亡くなったんですか?」

 「・・・うん。死んじゃった。」

 「どこに行けば咲良さんに会えますか?」

 「この病院の地下。でも君たちじゃ行けないよ。」

 「・・・ありがとうございました。ルナナ。帰るよ。」

 ・・・二人の会話は・・・ほんの数秒で終わった。

 「・・・うん。」

 ・・・去り際に見た彼の心からは・・・・・何も感じることができなかった。

 彼はもう・・彼ではない。なのに、何故か嫌いになれない。これこそが、私にかけられた天真 桜の呪縛なのだろうか・・・。

 

 ・・・もっと早くに捨てるべきだった。彼のことを・・・。前世のことを・・・。・・・何度後悔しても・・・過去は変わらない。変えられない。そして既に私にかけられてしまった呪いは、私と君では解呪不可能となってしまった・・・。

 でもきっとそれは・・彼も同じなのだろう。


 ごめん。

 ・・・本当にごめん。

 あれのせいで・・・君の居場所を失くしてしまって。

 それが辛かったんだよね。

 それのせいで余計な感情を抱かせてしまったんだよね。

 でももう大丈夫。

 君の居場所を奪った邪魔者は消えた。

 この世界から消え去った。

 だから次は・・・僕の居場所を取り戻す。

 僕の居場所を奪い去ったやつから・・・君以外の全てを奪い去ってやる。

 待ってて。

 もうじき全てを解放してあげられるから。

 そしたら二人で・・・式を挙げよう・・・。


θ

 彼女たちの事態が、現実観点からすれば最悪の・・・しかし舞台観点からすると最高の方向へと進み始めた。

 いや・・落ち始めたと言うべきか。

 全ては最早止まることなく落ち続けているのだ。

 故に次なる喇叭が吹かれた時が、この物語の終幕となるのだろうか。

 それとも更に・・先を作るか・・・。


 中学二年生の夏休み終盤。トモモが1日だけ姿を消した。本人曰く家出らしい。なのにそれから1週間・・・全く会ってくれなかった。

 絶対何かに遭った。その疑いが確信に変わったのは、ようやくトモモに会えた日のこと。

 トモモは私に抱きつき泣き続けた。小さく・・・本当に小さく震えながら、何時間も泣き続けた。

 私はそんなトモモを・・・・泣きつかれて眠ってしまうまで抱き続けた。「大丈夫・・・私がいるよ。」って・・・何度も声をかけながら。


 次の日。私は彼に会いに行き、問いただした。確証があったわけじゃない。だけど・・なんとなく。

 すると彼は・・・「君と僕・・二人の為。」と・・・そう答えた。

 だから私は、何度も彼を殴った。殺してしまおうとも思った。そうすれば全て終わるって。でもできなかった。彼を狂わせてしまったのは私の責任だから。トモモをひとりにするわけにはいかないから。


 「警察に行こう。」

 トモモが何をされたかを知った私は、そう伝えた。だけどトモモは、それを断った。そして・・・

 「こんなこと・・誰にも知られたくない・・・。」

 恐怖と苦痛と不安を押し込めた表情でそう言った。


 トモモは自分がどんな目にあったのか・・・それを両親に伝えずに、あれは家出だと言い続けているらしい。だから私も口にできない。トモモ自身が立ち直ってくれるまで・・・。

 ・・・私が支えになるしかない・・・。



 ・・・ーーーしかし思ったりも早く、トモモは立ち直った・・・のかな?今も一緒に学校に行ってる。ただ以前に比べて更にべったりひっつくようになった。

 季節的にまだ暑いから汗が・・・でも「離れて。」なんて酷いことは言えない。

 教室の席も、常に私の隣にしてもらった。不登校児が再登校するための条件として。

 家も二人で一つずつ帰る。そして常にどちらかの家に寝泊まりして・・・三食すべて一緒に食べて・・・寝るときも一緒に寝た。

 私とトモモは、完全に二人で一つの共同体になってしまった。


 ・・・変わったことと言えばもう一つある。

 最後に犯罪者と会った日以降、毎日のように『愛してる。』とメールが届くようになった。

 当然、すべてに対して『愛してない。消えろ犯罪者。』と送り返し続けている。

 ・・・私はまだ・・彼のことが好きなのだろうか・・・。

 そんなはずはないと、信じているけれど・・・今までの経験から確信へ至ることはできていない。



 ・・・ーーー更に2ヶ月が経ち、季節が移り変わる頃・・・トモモの症状はだいぶ落ち着いてきたと思う。今ではべったりが減り、常に手を繋いだ状態だけが続いている。

 ただ回復訓練をする度に、まだ全然戻ってないなとも思えてくる。

 この手を離してしまうと、トモモは再び不安や恐怖に押し潰されてしまうから。この症状は・・・本当に治るのだろうか・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ