04.心の歪みが狂気を孕む
☆
彼の病室前・・・トモモと二人、手を繋ぎ・・・。
覚悟は決めた・・・。
「入るよ。」
「うん。」
トモモが戸に手をかける。
・・・私は恐らく・・・未だに彼を想っている。例えそれが天真 桜から受け継がれたものだとしても・・・私は彼を愛している。
歪められてしまったんだ・・・。私の心は・・・。天真 桜という存在に・・・。
・・・戸を開くと・・・よく知っている匂いがの奥に充満した。
・・・・・懐しい。
「来てくれた・・・。・・・ありがとう。」
彼の声・・・。
・・・この風景・・・そうか。
これは君が見ていたものか・・・。
そうやって呆けていると・・・私の前へ・・・私を守るように移動しながら・・・トモモが質問を始めた。
「咲良さん・・・本当に亡くなったんですか?」
「・・・うん。死んじゃった。」
「どこに行けば咲良さんに会えますか?」
「この病院の地下。でも君たちじゃ行けないよ。」
「・・・ありがとうございました。ルナナ。帰るよ。」
・・・二人の会話は・・・ほんの数秒で終わった。
「・・・うん。」
・・・去り際に見た彼の心からは・・・・・何も感じることができなかった。
彼はもう・・彼ではない。なのに、何故か嫌いになれない。これこそが、私にかけられた天真 桜の呪縛なのだろうか・・・。
・・・もっと早くに捨てるべきだった。彼のことを・・・。前世のことを・・・。・・・何度後悔しても・・・過去は変わらない。変えられない。そして既に私にかけられてしまった呪いは、私と君では解呪不可能となってしまった・・・。
でもきっとそれは・・彼も同じなのだろう。
○
ごめん。
・・・本当にごめん。
あれのせいで・・・君の居場所を失くしてしまって。
それが辛かったんだよね。
それのせいで余計な感情を抱かせてしまったんだよね。
でももう大丈夫。
君の居場所を奪った邪魔者は消えた。
この世界から消え去った。
だから次は・・・僕の居場所を取り戻す。
僕の居場所を奪い去ったやつから・・・君以外の全てを奪い去ってやる。
待ってて。
もうじき全てを解放してあげられるから。
そしたら二人で・・・式を挙げよう・・・。
θ
彼女たちの事態が、現実観点からすれば最悪の・・・しかし舞台観点からすると最高の方向へと進み始めた。
いや・・落ち始めたと言うべきか。
全ては最早止まることなく落ち続けているのだ。
故に次なる喇叭が吹かれた時が、この物語の終幕となるのだろうか。
それとも更に・・先を作るか・・・。
☆
中学二年生の夏休み終盤。トモモが1日だけ姿を消した。本人曰く家出らしい。なのにそれから1週間・・・全く会ってくれなかった。
絶対何かに遭った。その疑いが確信に変わったのは、ようやくトモモに会えた日のこと。
トモモは私に抱きつき泣き続けた。小さく・・・本当に小さく震えながら、何時間も泣き続けた。
私はそんなトモモを・・・・泣きつかれて眠ってしまうまで抱き続けた。「大丈夫・・・私がいるよ。」って・・・何度も声をかけながら。
次の日。私は彼に会いに行き、問いただした。確証があったわけじゃない。だけど・・なんとなく。
すると彼は・・・「君と僕・・二人の為。」と・・・そう答えた。
だから私は、何度も彼を殴った。殺してしまおうとも思った。そうすれば全て終わるって。でもできなかった。彼を狂わせてしまったのは私の責任だから。トモモをひとりにするわけにはいかないから。
「警察に行こう。」
トモモが何をされたかを知った私は、そう伝えた。だけどトモモは、それを断った。そして・・・
「こんなこと・・誰にも知られたくない・・・。」
恐怖と苦痛と不安を押し込めた表情でそう言った。
トモモは自分がどんな目にあったのか・・・それを両親に伝えずに、あれは家出だと言い続けているらしい。だから私も口にできない。トモモ自身が立ち直ってくれるまで・・・。
・・・私が支えになるしかない・・・。
・・・ーーーしかし思ったりも早く、トモモは立ち直った・・・のかな?今も一緒に学校に行ってる。ただ以前に比べて更にべったりひっつくようになった。
季節的にまだ暑いから汗が・・・でも「離れて。」なんて酷いことは言えない。
教室の席も、常に私の隣にしてもらった。不登校児が再登校するための条件として。
家も二人で一つずつ帰る。そして常にどちらかの家に寝泊まりして・・・三食すべて一緒に食べて・・・寝るときも一緒に寝た。
私とトモモは、完全に二人で一つの共同体になってしまった。
・・・変わったことと言えばもう一つある。
最後に犯罪者と会った日以降、毎日のように『愛してる。』とメールが届くようになった。
当然、すべてに対して『愛してない。消えろ犯罪者。』と送り返し続けている。
・・・私はまだ・・彼のことが好きなのだろうか・・・。
そんなはずはないと、信じているけれど・・・今までの経験から確信へ至ることはできていない。
・・・ーーー更に2ヶ月が経ち、季節が移り変わる頃・・・トモモの症状はだいぶ落ち着いてきたと思う。今ではべったりが減り、常に手を繋いだ状態だけが続いている。
ただ回復訓練をする度に、まだ全然戻ってないなとも思えてくる。
この手を離してしまうと、トモモは再び不安や恐怖に押し潰されてしまうから。この症状は・・・本当に治るのだろうか・・・。