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95話 結希

95話です。

よろしくお願いいたします。

いつまでそうしていたのか。

「結希ぃー」

遠くで女の声がした。

声には聞き覚えがある。

「結希ぃ」

「おらっ。ゆきーてめえ早く来いよー」

声に呼ばれている。

こころと体が硬直していたものの、

呼ばれている方へ歩くことはできた。

月の満ち欠けのように、ゆっくりと歩む。

「ゆーきー」

その間、声はずっと自分を呼んでくれていた。

遅々と歩んだ結希は、ようやく座位のスカーを見下ろす位置まで来た。

「やっと来たな。

さっさと座れこのノロマが」

彼女の青い目を見て、フォルトゥーナを思い出す。

海のように、空のように慈愛に満ちている。

「聞こえてたよ。

散々ぶちかまされたなぁ。・・・可哀想に。

あー可哀想」

スカーはからからと笑った。

少しも可哀想だと思っていなさそうだった。

「これ」

座布団とテントを指さして、彼女はぱっと表情を輝かせた。

「いいだろ。コレ。

清十郎がしてくれたんだ」

その笑顔に引かれるように、結希はわずかに頷いた。

「そう、ですか・・・」

「ああ」

彼女は今も、『3人』を閉じ込めるために、力を尽くしている。

座る気になれず、結希は馬鹿みたいに突っ立ったままでいた。

「・・・」

頬をなぶる風が、行き戻りを繰り返す。

風には、ふとした瞬間に休憩時間があることを知る。

「ほら、座れって」

スカーがわざわざ立ち上がって手を引いたので、仕方なく腰を下ろす。

校舎の窓際を紫が走っているのが見えて、結希は身動ぎした。

それを見透かしたのかスカーが明確に言った。

「他の連中と比べるな」

ばん、と背中を叩かれる。

「あいつらは7日間、喪に服した後だから」

スカーはどこから持ってきたのか、煙草に火をつけてひと息吸い込んだ。

「あたしも含めてな」

煙とともに吹き出す言葉は、少しだけ慰めになった。

「・・・葵もそうさ。

時間が必要だよな」

透き通った彼女の声が、結希のこころに届いた。

もし世界から音が消えてしまったとしても、

彼女の声だけはどこまでも響いていくような気がする。

「責めてやるなよ。

あいつは・・・自分で自分を死ぬほど責めてんだから」

スカーの言う通りだと思う。

結希は素直に首肯した。

「葵に、ちゃんと言ってあげられませんでした。

出る言葉は全部、表面的なことばかりで。

けっきょく彼女を傷つけるだけに」

小さな拍手が聞こえた。

スカーはやつれた顔をほころばせていた。

「おまえはずいぶんマシだよ」

褒められるとは思わなかったので、結希はぽかんとした。

彼女がゆっくりと煙を吐く間、じっと待つ。

「あいつは帰ってくる。

最初に会った時、あいつは誰よりも度胸があったからな」

スカーはけらけらと笑った。

「その時までに、ちゃんと顏洗っとけよ」

笑っていた彼女が、喉をひっかけて咳き込んだ。

背中を擦ってやると、「年寄り扱いすんなボケっ」と怒られる。

「見ろ」

スカーが指さした先。

砂埃だけが舞う静かな地面にソーニャがいた。

「わかるか」

言葉を受け、ソーニャに向けた目を凝らす。

その立ち姿は哀惜と同時に、近寄り難さも備えていた。

「月並みだけどな・・・。

明日皆殺しに遭うとしても、あの子は今日、野菜を植える」

「ちょっと違う気が」

「そうだったっけ・・・。ま、細かいことはいいや」

スカーが痛みに敏感な患者のように慎重に息を吸った。

「あの子は、ここを楽園にする。

だから、あたしはここを動かないって決めたんだ」

スカーはニヤリと笑った。

「そして・・・7日。

あたしは、絶対にあいつらをここから出さない。

命に代えても、そうするから」

その時、結希の茫洋とした意識が、スカーの強い感情を受けて目覚めた。

やっと鮮明に彼女を見ることができるようになる。

「スカウトさん。

なんで、そんなこと」

自分はその時どんな表情をしていたのだろう、

スカーはこちらを見て、少し不思議そうな顔をした。

「はっきりしねぇし、ナヨナヨしてやがるし。

でも、何だかんだ言いながら、みんながおまえを好きなのがわかる」

スカーの額から汗が伝って落ちた。

「まぁ、もう少しぼうっとしとけよ。

人生には、休息も大事だっていうだろ?」

結希の目を見たスカーが、その逡巡を汲み取った。

「あたしのことは気にすんな。

自分の限界を試すってやつ?

全部、あたしの自己満足だから。

だから、あんたは・・・。

最後の7日を好きなように過ごしな」

「スカウトさん。

もしかして」

彼女は視線を逸らし、埃を払うように手を振った。

「はい。もう終わり。

もうしゃべりたくねぇ」

スカーは満足したように目を閉じ、

それ以降何も言わなかった。

読んでいただいてありがとうございました。

次話は来週末に更新いたします。

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