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83話 結希 葵 (大きな加筆・修正を行いました)

83話です。

大きな加筆・修正を行いました。


よろしくお願いいたします。

校舎の方で、映画のような火柱が上がった。

何か堅いものがぶつかり合う、殺伐とした音も響いてくる。

結希は湧き立つ焦りを抑え込みながら、

山﨑と校舎の方角を見比べた。

「お前の目的は何なんだ」

結希のかすれた声に、山崎は頬をじっと持ち上げた。

その表情は、ずっと聞きたかった台詞を言われたかのようだった。

<葵に会いに来たんだ。

結希はついで>

いかにもこちらを馬鹿にしたような仕草で、

山﨑が肩を竦めた。

目の前にいるのは、腫瘍持ちだった山﨑ではない。

姿形は同じでも、まったく別の存在へ変わってしまったようだ。

もう、彼はどこにもいない。

助けることは敵わない。

「どうするつもりなんだ。

おまえ」

結希は怒りを鋭く尖らせて、山崎に向けた。

怒りは意図せず雷電を宙に放つ。

<おまえじゃない。

ロックだよ>

山﨑の姿をしたロックという不気味な存在が、

ゆっくりと足幅を広げた

結希はその時、ロックの影が不自然に歪んだのに気付く。

よく見ると、影は後も大きくなったり小さくなったりと、

アメーバのように蠢いていていた。

こいつは、なんなんだ。

校舎の方でまた火が上がった。

それを見たロックが呟く。

<あ・・・まずいな>

ロックの体が折り畳み式の椅子のように小さくなり、

みるみる姿を変えていく。

最終的にカラスになると、ロックは校舎に向かって飛び立った。

「ま、まてっ」

風に乗ってみるみる離れて行くロックを追いかけた。

ロックの姿はいち早く校舎の脇を抜けて行く。

結希も少し遅れて校舎の脇を抜け、

見知らぬ誰かを抱きかかえている葵を見つけた。

一足飛びで駆け寄ると、葵の肩に触れる。

「葵っ!! 大丈夫?!」

呆然とした様子の葵からは返事はなかった。

結希は彼女の視線を素早く追い、

血を流して倒れている月子を発見した。

「月子さんっ」

月子の傍には、見知らぬ少女が立っていた。

結希の視線から月子を隠すように進んだ少女の手には、

返陽月よりもかなり長い刀が握られている。

「何・・・してるんだ」

裂けるような笑顔を浮かべて、少女がこちらを向いた。

姿勢の良さと、体重移動を腰から始める動きには、既視感があった。

「へぇあんたも月姉ぇのお友達ってわけ」

隙間のない不思議な話し方をする少女から、

ただならぬ雰囲気を感じた結希は、

『麒麟』の警戒を最大値まで引き上げた。

「私は月姉ぇの妹でーす

陽子っていいまーす姉がお世話になってまーす」

腰を振りながら、両手を顎に近づけた陽子の笑顔は狂気じみている。

「君が、月子さんの、妹さん・・・?」

「そう」

陽子が肩を震わせて笑い始めると、刀が大きな火を宿した。

「っ!」

逡巡している結希の間合いに、陽子が入るまで一呼吸。

まるで早送りをしているような速さで、彼女が迫ってきた。

葵に手を伸ばそうとした瞬間には、

業火とともに刀が振り上げられている。

『麒麟』が陽子の動きに反応して、半身になる。

月子との訓練で身につけた斬撃の躱し方だった。

紅い軌跡は結希の頬を掠めてから、円を描いて戻っていく。

躱すことはできたが、

そのせいで葵との距離がひらいてしまう。

踏み込んで再度伸ばした手を、陽子が蹴り上げる。

「だめー」

強い衝撃が、肘から先の感覚を奪い去った。

天を突くように振り上げられた陽子の足が、

今度は振り下ろされる。

結希は紙一重で躱すと、追撃を左右に身体を振りながら躱した。

「すごいすごいよく避けたねぇ」

陽子が血の付いた刀を脇に挟んで固定すると、

ぱちぱちと笑顔で拍手をした。

<陽子とまともに戦える人がいるんだねぇ>

愉快そうに言いながら、

ロックが陽子の肩へ舞い降りてくる。

「ロックあんたどこにいたの?」

陽子は親しい級友と話しているみたいに、目を細めた。

<結希と話していた>

「結希ってさー彼のこと?」

<そう。

彼は強いよ。雷を使う>

「へー」

陽子が視界を割るような眼光をこちらに向ける。

瞬間、見えない衝撃が結希の前髪を揺らした。

「見せて欲しいなそれ」

<じゃあこっちは葵と話してようかな>

陽子の肩からロックは飛び降りて、葵の膝に着地した。

言いようのない拒絶感が結希の顔面を強張らせる。

「彼女に触るな!!」

神速で踏み込んだ『雷獣』の鼻先へ、

陽子が切っ先を突きだした。

「くっ」

結希は歯噛みしながら、陽子の殺気に押されて後ろに下がる。

「本当に電気が出たっ!」

陽子は嬉々と甲高い声を上げ、狂気をさらに深くする。

「この子って愛されてるのね殺したいな」

陽子が葵の髪の毛を掴んで、乱暴に引っ張った。

「やめろっ!!」

結希はすでに『トールの雷竜』を手中にため込んでいたが、

葵との距離が近いためどうしても撃てなかった。

その時、陽子の手にロックが足をのせる。

<陽子。

葵は殺さないで>

陽子の手が暗がりに飲み込まれたように、霞んでいく。

「いやよ私はたくさん殺してきた殺したいからここにきたの」

陽子は虫にするみたいに振り払うと、

空中に発生した火が暗がりを一瞬で燃やし尽くした。

ロックは慌てた様子で羽ばたきながら着地する。

<勘弁してよ。

さっきも大切な兵隊を殺したじゃないか。

せっかく大きくて強いのができたのに>

陽子が両足を折って膝をつくと、

ロックの嘴をつまんで左右に振る。

「邪魔だったのよそれになんだか汚らしかった」

陽子は結希を一瞥すると立ち上がり、

長い刀を軽々と振り回したのち肩に置いた。

肩の布地から、細い白煙が上がっていく。

「あんた・・・ここのみんなを殺したのか?」

静かに言った結希に、

「ええ皆殺しにした」

陽子が嬉しそうに頷く。

「どうして?」

結希はさらなる疑問を投げかける。

それにむしゃぶりつくように、陽子が応じた。

「殺したいからよぉ」

矛盾のない陽子の狂気が、結希から戸惑いを払い、

戦うことを決意させる。

握り締めた拳を下から持ち上げると、雷を呼び起こした。


   ◇


結希の背後に猛獣のごときオーラが浮かび上がる。

彼は地面を蹴ると、目にも止まらぬ速さで陽子を蹴り飛ばした。

まともに生きてきたら生涯聞いたことのないだろう

強烈な打撃音とともに、陽子が目の前から姿を消した。

<うひゃあっ>

カラスの首を結希が鷲掴みにした時、

ようやく遅れて突風が砂埃を連れてきた。

彼が手中に強烈な雷を宿らせると、

収まっているカラスが何度も発光して丸焦げになった。

地面を蹴る音とともに、結希が姿を消した。

姿は見えなかったが、オーラの軌跡を追うことはできる。

彼は陽子が吹き飛ばされた反対側、倒れている月子の脇に膝をついていた。

速すぎる。人の出せるスピードではない。

紫の勧めで持って来ていた止血帯を施すと、彼は月子を抱きかかえた。

魔法のように一足飛びでこちらに戻った結希は、

葵の傍らに優しく月子を寝かせた。

「ゆ・・・ゆき」

結希の黄金のオーラが目映くて、葵は目を細める。

その時、学校の敷地外まで飛ばされていた陽子の、

火のように赤いオーラが狼煙のように空に上がった。

「っ!」

陽子はまだ健在だ。

すぐにこちらに来る。

結希もそれに気付いたのか、鈍い感じで口角を上げた。

「葵。

ごめん・・・僕は・・・」

謝る結希の内部に怒りのオーラが漲っている。

葵が弱いせいで、いつも結希は怒らなくてはならない。

「いや、今はいい。

ちょっとここで待っててね」

壊れそうな笑顔を見て、なぜだかわからないが、

結希と葵の間にあるわだかまりが大きくなるのを感じた。

「ゆ、結希。

私・・・みんなを助けられなくて・・・」

吐き出した言葉が、結希を雁字搦めしてしまうと

わかっていたのに、締めたはずの蛇口から出る水滴のように、

言葉があふれてしまう。

「絶対に守るから」と彼は強く言った。

葵が返事をする前に、結希が地面と平行に吹き飛ばされた。

結希は校舎の裏口にある分厚いガラスにぶち当たり、

建物内部に突っ込んで姿を消した。

「ゆきっ」

叫んだ葵の視界いっぱいに、紅蓮の炎が渦を巻く。

その中から、陽子が姿を現した。

「JKを足蹴にするなんてどういう神経してんのよ」

凶悪な赤いオーラを身に纏った陽子が、歯を剥き出しにした。

結希への怒りで倦んだ肺から吐き出した息が、

小さな火玉となって中空に生じる。

火を吐くほどに熱された陽子の唇から、血が一筋滴り落ちた。

へたり込んだままの葵と倒れた月子など視界に入らないのか、

陽子は結希へと向かっていく。

「殺してやる男は全員」

一歩踏みしめる度、陽子のオーラが紅を増していく。

その時、校舎の中から結希が姿を現した。

頭から血を流しているものの、

彼の表情には些かも臆するような気配はない。

むしろ、彼も一歩進む度に、力を増しているように見えた。

後方へ烈風を巻き起こしながら、結希が奔った。

瞬時に陽子の懐に入ると、勢いよく腕を突き出す。

腕には雷が含まれていないが、凄まじい重みがある。

陽子は腕で防御し、自身の後方へ勢いを流した。

彼女を取り巻く火炎が、風圧に靡くように後方へ流れていく。

葵は結希の額に浮かんだ汗と、肩口からの出血を見て戦慄した。

いつ斬られたのか。

葵の焦燥は花火が広がるように胸を満たしていき、

一気に許容量を超えた。

月子によく似た陽子の顔が歪み、狂気の表情へ移行する。

陽子の禍々しいオーラは、

結希だけでなく葵や月子にも伸びてきていた。

彼女は全員を嬲り殺すつもりなのだ。

<結希は本気を出さないと、陽子に殺されちゃうね>

葵が声の出所に目を向けると、あのカラスがいた。

カラスはついついと跳ねると、葵の膝の上で大きな欠伸をした。

カラスには凄まじい求心力があり、

なぜだかわからないが、葵はその欠伸に見惚れてしまう。


「あなたは、なに?」

修羅場にも関わらず、聞いていた。

<ロックだ。

葵に会いに来たんだよ>

カラスの声が、葵の焦燥感を終息させてしまう。

あまりの出来事に、吐き気と寒気がこみ上げてくる。

「どうして・・・」

<会いたかったんだ>

その言葉は葵の琴線に触れた。

まるで、こころの根本をすくって持っていかれたような気分だった。

彼は得体のしれないカラス。

「なぜ、しゃべれるの?」

ロックが葵の足を嘴でつついた。

その行為に安らぎを感じてしまった自分に、

絶望して叫びだしたくなる。

もうすっかり混乱してしまっていた。

<虎や三毛と一緒だよ。

さ、噂をすれば>

ロックが裏門の方へくちばしを向けた。

そこから、従者達の気配がする。

<殺したくないなぁ・・・>

今にも割れそうな風船に優しく触れるみたいに、ロックが呟く。

声には切実なものがあった。

「っ」

噛みしめた頬の内側から、疼痛が生じる。

直情的にロックの羽に触れたい気持ちと逆に、

葵の手は凄まじい力で抑え込まれている。

泣き出したくなるような気持ちに引き摺られないよう努力する。

しかし、決別の時はすぐに来た。

ありがとうございました。

次回は来週末に更新いたします。

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