7話 結希
7話目です。
よろしくお願いします。
久々の読書熱は冷めず、借りた本は一晩で読み終わってしまった。
こうなると、また次が読みたくなる。
結希は昼食を摂ると、図書館に向かって歩いた。
電車に乗ればあっという間の距離だが、
歩くとなると結構な時間がかかるものだ。
少し歩いただけで、額が濡れてくる。
自販機で給水をしている時、
結希はまた頭部を揺らすような振動に襲われた。
驚いた拍子にドリンクが気管に入って、散々咳き込むはめになる。
涙目で周囲を見渡す。
無様な姿は誰にも見られていないので安心する。
この振動は一体何なのだろうか。
「もしかしたら、死へのカウントダウンとか」
考えていると、いつの間にか図書館前の駐車場についていた。
エントランスを過ぎて、並んでいる人の後ろにつく。
「返却はこちらへどうぞ」
係の誘導に顔を上げると、
結希が並んでいたのは貸出コーナーだったらしい。
恥ずかしさに顔が赤くなる。
しかし、結希が返却を使用としていたのがなぜ、
声の主には分かったのだろう。
すぐに合点がいった。
うっすらと笑顔をたたえた伊都子が立っていたからだ。
本の裏に貼りつけてあるバーコードを通しながら、
伊都子は言った。
「返却承りました。
あと、佐藤さんのお探しだった本、見つかりました。
お持ちしますので、奥の個人用ブースでお待ちください」
結希は目を見開く。
「ほ、ほんとうですか?」
伊都子嬉しそうに頷いた。
こころなしか、彼女の頬も赤く染まっている。
結希は会釈をしてから歩き出し、個人用ブースへ向かった。
社会学や民俗学などの本が陳列されている場所のさらに奥に、
個人用ブースは3つ並んであった。
図書館の最奥だということもあって、誰も使用していない。
だからこそ、伊都子はこの場所を指定したのかもしれない。
一度椅子に座ったが、落ち着かず再度立ち上がる。
幾度か繰り返したところで、伊都子がやってきた。
「お手間を取らせてすみません。
ありがとうございます」
「いいえ」
小さく返事した伊都子から手渡されたのは、
ハードカバーで少し薄めの古い本だった。
「保存状態が悪かったみたいで」
伊都子の小さな指を追うと、
結希は小口の部分に、結構な量のカビが生えているのを見つけた。
「汚れ取れなくて」
申し訳なさそうに伊都子が言う。
「古い本なんですか?」
「はい。かなり古いです。いつ刷ったのか記載されていないくらいです」
最近の本は印刷年月日が必ず記載されているが、
この本はそういう習慣が始まる前から存在したのだ。
ページに触れると、紙が崩れそうなほどの脆さが指に伝わってきた。
「す、すみません。大変だったんじゃ」
伊都子は両手をこちらに向けて、左右に小刻みに振った。
「いやいやっ。私本好きなので、全然大丈夫でした」
「そうですか。ありがとうございます。大切に読みます」
伊都子は結希をじっと見つめて、数度瞬きした。
「何かありましたか?」
問うと伊都子は前に出した両手を振った。
「い、いえっ。仕事なので。では失礼します」
感謝と本を腕に抱きながら、仕事に戻る伊都子を見送る。
ブースに入り、ややあってから、本の表紙を指先で撫でる。
周囲の景色が遠くなり、恐ろしいくらいの静寂が訪れた。
「・・・わ」
己の脈動が頭に響くほど大きくなり、勝手に体が傾いていく。
痙攣するようにページをめくった瞬間、意識は本に沈み込んでいった。
◇
ここは平和な神の国。
天の神と大地の神との間に生まれたトールは、
世界一高い丘から、神の国を見下ろしていた。
上空には雨雲が連なっている。
トールは両手を擦り両手から雷を生み出した。
雷の神であるトールの力だ。
雷は瞬く間に、神の国を覆っていた雨雲を切り裂く。
雨雲の間から、暖かい日光が顔を出す。
父である天の神にあいさつを交わすトール。
苛烈な雷の力を司るトールは、その力とは真逆の性格で、
父の下で日に当たりながらゆっくりと過ごすのが好きだった。
父が大地を温めることで、母が目を醒ました。
母にもあいさつをするトール。
だが、返事はもちろんない。
父も母も広大な神であるから、いつも一緒にいながら、
いつも離れ離れであることをトールは知っていた。
トールは飛ぶように落ちるように丘を駆け始めた。
トールは鳥よりも、雷よりも素早く走れる。
父と母より与えられた『困難を与えられるほどに強くなる肉体』が、
幼いころより走ることが好きだったトールをより速くしたのだ。
駆けている途中で、実り多い作物を育てる豊かな村が見えた。
トールは指先を軽く擦り合わせて、雷神の力を行使した。
『トールの雷』は雷鳴をとどろかせて天を突く。
すると、天に雨雲が生まれ、大地に恵みの雨をもたらした。
『トールの雷』の煌めきを含んだ雨には、大地を豊かにする力がある。
父と母から与えられた雷の力を使い、
トールは神々の住むこの国を豊かにしていた。
「おー。いつもありがとう」
農作業をしていた豊穣の神がトールに手を振ってくれる。
「うん。こちらこそ、いつもありがとう」
トールは手を振り返した。
この国では、小さな神も大きな神も皆健やかに暮らしている。
平和は那由他を千繰り返す間続いている。
だが、ある日を境に、平和だった生活は一変した。
神々の力に匹敵する存在、魔獣達が攻めてきたのだ。
7日のうちに神の国は火の海となった。
父と母の助力によりトールは難を逃れたが、
多くの神々は魔獣に喰われてしまう。
最後まで魔獣に抗っていた父と母も、魔獣によって殺された。
天は明るさを失い大地は荒廃した。
天涯孤独の身になったトールは、悲観に暮れる。
行き倒れたトールの胸に一筋の光が生まれる。
それは、異国にいる許嫁の存在だった。
魔獣達はすでに異国に狙いを定めている。
何としても、許嫁を救わなくてはならない。
トールは身体中に負った火傷に鞭打ち、
たった独りで異国への旅を始めた。
旅は長く厳しいものだった。
生き残ったトールには、度々追っ手の魔獣が差し向けられた。
戦いと逃亡の日々の中で、トールは『雷獣』の術を編み出した。
『雷獣』は身に雷を纏わせて、普段以上の力を発揮させる術だった。
トールは『雷獣』を使い、何とか魔獣を退けた。
しかし、この力は強大な代わりに自らを傷つけるものでもある。
傷ついたトールは太古の森に逃げた。
太古の森には、女神の泉があるという。
あの泉ならば、傷を癒してくれるだろう。
豊かな草花と女神が彫られた像の中心に池があり、
溢れ続ける水は神秘的な輝きに満ちていた。
トールは一目で女神の泉だとわかった。
傷口を泉で洗うと、痛みは霞のごとく消え去った。
しばしの休息を得たトールに、
泉に住まう精霊達がここを離れないようにと警告してきた。
トールが理由を尋ねると、精霊達は口々に言った。
「泉の近くは、魔獣達も来ることができない。
ここなら安心だから、未来永劫ここに住めばよい」
トールは旅を続けることを精霊達に伝えた。
「それなら、他の神に力を借りてはどうか」
精霊の中でも一番若いものが口を開いた。
トールは頭を振った。
他の神を自分の都合に巻き込みたくなかったのだ。
「他の戦神が言っている。トール神に力を貸すと」
その言を聞いて尚、トールは頭を振った。
精霊達は落胆した。
この世界から、天と大地の子を失いたくなかったからだ。
若い精霊が言った。
「今はただ死にゆけ。我は来世でトール神の役に立とう」
トールは最後の笑顔を作り、
それからまた、戦いの日々に身を投じたのだった。
指を擦り合わせるだけで無限に生み出される雷が、
トールの道を切り開く。
魔獣との戦いを繰り返す度にトールの体は傷ついたが、
傷を糧にして、その身は強靭になっていった。
しかし、強靭になっていく身とは逆に、
こころは次第に摩耗していった。
あまりの孤独にこころは砕けそうだった。
もしかしたら、あの精霊の言った通りだったのかもしれない。
倒れては走り、倒れては走るうち、
自分が何のために走っているのか、
わからなくなることもしばしばあった。
理由があるから走るのか、走っているから理由を得るのか。
腕と足が動かなくなっても、
トールは『雷獣』を使って無理矢理に走った。
トールの雷は真実を表すかのごとく、無垢な白色だったが、
戦いの日々を続けるうちに、赤く黒く染まっていく。
もうすぐ許嫁のいる国だ。
異国の象徴である塔が見えた時、
トールは罪もない村人を殺した魔獣と出会う。
魔獣は今まで会ったどの魔獣よりも強かった。
それもそのはず、その魔獣は神と同等の知恵を持った魔獣だったからだ。
魔獣は言った。
「女神の泉にいれば、生き残ることができたものを。
トール。なぜおまえは走るのだ」
トールは魔獣へ向かって、異国に許嫁がいるのだと言った。
「たとえ死んでも?」
頷くと、魔獣は鼻を膨らませて愉快そうに笑った。
トール激高した。
その怒りで、トールは『麒麟』の術に目覚める。
『麒麟』の術は、体内に麒麟を飼うことで、
トールの意志とは無関係に殺戮を生み出す力だった。
知恵を持つ魔獣は強かったが、
『麒麟』がトールの体を効率的に殺戮への道に導いていく。
トールは魔獣を追い詰め、天来の雷でとどめを刺した。
直撃を受け、今際の際にある魔獣が、最後の言葉を吐き出す。
「お前は火傷と我らの牙を喰らって強くなった。
だが、傷だらけで醜くなったお前に、果たして許嫁は気付けるだろうか」
トールは雷が生み出した風が雨を降らすのを待った。
雨が作ってくれた水たまりが、自らの姿を映してくれる。
映った姿は、以前の美しかったトールではなかった。
髪の毛も、耳も鼻も焼け落ち、片腕はもがれて、
見るも無残な姿になっていたのだ。
3日間、トールは絶叫した。
叫びはさも恐ろしく、異国を襲っていた魔獣達を怯えさせ、
散り散りにするほどだった。
トールの叫びが途絶えると、魔獣達は異国に再集結を始めた。
異国には魔獣と戦う力は残されていない。
その時だった。
黒い外套を纏った男が、魔獣達を蹴散らした。
異国の民衆達から歓声が上がる。
だが多勢に無勢。
次第に男は追い詰められ、傷つけられていった。
外套の男は最後の魔獣を始末した後、地面に伏す。
戦いが終わり、異国の民はおそるおそる男の外套を剥ぎ取った。
魔獣と恐ろしい戦いぶりをした、男の正体を知りたかったのだ。
傷だらけの姿を見た民は、口々に言った。
「なんと醜い」
「獣が獣と同士討ちをしたのだ」
「この男が国を襲わなくてよかった」
男の醜さからいえば、このような罵詈雑言は当然といえよう。
とはいえ、異国の民が発する言葉ほど罪深いものは、
この世界には存在しない。
なぜなら、外套の男が遠路遥々やってきた雷の神トールだったからだ。
やがて、息も絶え絶えとなったトールの元へ、許嫁がやってきた。
トールは瞼を閉じた。
これでいい。
長い旅の終わりに、大切な人に出会えたのだから。
愛しのシェリーが、震える唇でトールの名を呼んだ。
鼓動が途絶える最後の瞬間、胸が安らかな光で満ちる。
声にならない声で言う。最後の言葉を。
「他には何もいらない。ただ、家族と会いたかった」
シェリーはトールの名誉のため、
外套の男が誰なのかを秘密にしたまま、丁重に葬った。
やがてシェリーは那由他を千回繰り返してもなお続く、
平和で大きな国の王女となる。
世界で一番高い丘の頂上には、トールの墓がある。
墓は今でも、みんなを見守っている。
◇
結希のこころが、星々の間を縫って戻ってくる。
頭を揺らす強い振動が、結希を覚醒させる。
かすかに続く振動のせいか、結希の目から涙が零れる。
「あれ・・・ここは」
結希は図書館の個人用ブースに腰かけていた。
全身がむず痒いような、奇跡的な読了感が結希を満たしている。
結希は本を読んでいたのか、それとも体験していたのか。
目を仰がせると、灯りは半分以上が落とされ、
窓の外は暗くなっているのが見える。
スマホを見ると、すでに閉館時間を過ぎていた。
放心状態だった頭がやっと熱を帯びてくる。
「わっ!もうこんな時間」
結希は本を抱えると、足早にエントランスに向かった。
貸出コーナー前に出されたパイプ椅子に腰かけて、
伊都子が本を読んでいるのを見つける。
伊都子は結希に気付いて、立ち上がって頷いた。
「すみません。時間に気付かなくて」
謝罪した結希に、伊都子が穏やかな表情を向ける。
「いえ。私、いつも残っていますから。それよりも、読めましたか?」
「え、あの。あ、いえ。読めました」
言うと、伊都子が咲いた花のような笑顔になり、
両手を合わせた。
「すごい。古い英語の本なのに」
「え、英語の本?」
手にしていた本を開くと、中身はびっしりと英語で書かれていた。
気が付かなかった。
結希は高校レベルの英語ならできるが、
辞書を使わずに本を読むほど堪能ではない。
それなのに物語はしっかりと頭の中に残っていた。
「この本を見つけた時に、内容が気になったんですが、
私英語が苦手で」
伊都子が残念そうに言った。
「この本の内容、良かったら教えてください」
結希は茫然と伊都子を見つめた。
伊都子はすぐに瞼を瞬かせて
「ああ、無理にはいいません。ごめんなさい」
「あ、あの。僕でよければ。暇なので。
別に今日でも」
「え?!」伊都子が体を小さく浮かせた。
「え?!」結希も同じ動きになってしまう。
何だか間抜けな構図だな、と結希は思う。
しばしの沈黙のあと、2人は顔を合わせて笑った。
伊都子は眉を上げ「ちょっと待っていてください」と言って、
奥の方へ走って行ってしまった。何やら誰かと話している。
「おまたせしました」
コーヒーをカップに入れて戻ってきた伊都子が言う。
砂糖とミルクが必要か聞いてきたので、
両方とももらって、カップに注いだ。
「あ、あの。良いんですか?
もう遅いし」
「はい。警備の方がいるので大丈夫です。
ここだけの話なんですけど、私よく残って掃除したり、
本を読んだりしてるんで、怒られません」
結希は伊都子に見えるように隣に座り、本を開いた。
2ページ目にはインクが薄くなっているが、
繊細なタッチでのどかな田園風景が描かれていた。
これがトールの住む神の国なのだろうか、
神の国での平和な生活。
トールは自分の国を愛していた。
国には家族や友人、異国には許嫁がいた。
それが魔獣という神に匹敵する力を持つ獣に、
なにもかも台無しにされてしまう。
話しながら、結希は上司のことを思い出していた。
奥歯を噛むが、伊都子に迷惑をかけないよう、
話の順序立てを頭の中で整理していく。
たどたどしく話す結希の話を、伊都子は静かに聞いてくれた。
身体中に傷を負い、家族も友人も国も失ったトールは、
唯一残ったつながりである、許嫁のことを思い出す。
魔獣は世界のすべてを滅ぼすつもりでいる。
やがて離れた場所にいる許嫁の身にも危険が及ぶだろう。
許嫁のいる異国を目指しながら、トールは幾度も魔獣の攻撃を受けた。
『トールの雷』と『困難を与えられるほどに強くなる肉体』、
そして、『雷獣』の術と、『麒麟』の術が、
長い旅と戦いを支えてくれた。
物語の中でトールの持っていた2つの力は、
フォルトゥーナが結希に与えたと言っていた力と名前が一緒だ。
結希は深い感動を覚える。
それに他にも気になるところがある。
最初は大きな目的があったのにそれを見失い、
これからどう進んだら良いかわからなくなってしまった
トールの心境。
今の結希には感じ入るものがある。
困難を与えられ、孤独な戦いを続けたトールのように、
結希も両親から離れて、自分なりに生きようとしてきた。
しかし、最後には自分の意志であったのか
自分のしたい事が何なのか、よく分からなくなっていた。
もしかしたら、トールも同じだったのかもしれない。
物語が進むうちに、結希はトールと自分とを重ねていく。
フォルトゥーナは以前、結希と同じ似た神がいたと言っていた。
それはトールのことだったのかもしれない。
やがて、トールは傷つく度に強くなり、
魔獣を圧倒する程の力を手に入れた。
だが、こころには弱さをいつも抱えていた。
トールに一人でも仲間や理解者がいれば良かったのに。
結局トールはシェリーと会えたが、引き換えに命を失った。
話を終え、2人で余韻に浸っていると、
ゆっくりコーヒーに口をつけてから伊都子が言った。
「トールは旅の途中で、たくさんの魔獣と戦い、
たくさんの人を救ったのに、自分は独りのままだったんですね」
本の表紙に触れた伊都子の頬が青く染まっている。
結希は丁寧な手つきを眺めながら、息を吐いた。
「僕も、それを考えていました」
結希は顔を上げ、2人が顔を見合わせる。
「私だったら、精霊達の言う通り、
女神の泉で暮らしたかもしれません」
「・・・そうですね」
口では肯定しながらも、果たしてそうか、と結希は思った。
自分ならどちらを選ぶだろうか。
考えても、結局答えは出ない。
「不思議です」と結希が言う。
どこか切なそうに伊都子が眉を寄せる。
「この本をずっと探していたんです。
それを、見つけて読んでみて、改めてわかったというか」
緊張をたたえていた伊都子の口元が緩む。
「私も、本、たくさん読んでるので、
わかる気がします」
この本は、英語で書かれていた。
なぜ、英語の読めない結希に、内容が理解できたのだろうか。
読んでいる間、結希はトールとして生きていた。
本の内容が体験的に結希の中に生じたのだ。
これはきっと、普通の本ではない。
なぜこれが図書館に長い間存在したのだろうか。
そして、偶然見つけることができたのだろうか。
結希は何らかの超常的な力の流れを感じざるを得ない。
非現実的な体験が、身の回りにたくさん起こっている。
だが、それは結希自身が病気だとか、頭がおかしくなったとか、
そういうことだけでは説明のつかないことばかりだ。
結希は本を読み、トールの力が何なのかを知った。
トールの生き方を体験したことで、結希自身、
孤独で居続けたことに気付くことができた。
トールは孤独過ぎたが、結希も似たようなものだった。
最後にトールは報われたのかもしれない。許嫁に出会えたのだから。
だが、結希は報われなかった。死んでも、何も得られなかった。
それでも生き返ってからは、今までにない何かを、
毎日のように得ているような感覚がある。
こうして、伊都子のような親切な女性に出会うこともできたのだ。
今後は月が2つ増える以上の強烈な変化が、
これから地上に訪れる。
変化に対応するため、たくさんの準備をしないといけないだろう。
震える手を、止めようと、思わず握りしめた。
「佐藤さん」
呼ばれて短く返事をする。
目の前にいるこの人も、きっと巻き込まれる。
自分にできるだろうか。
でも、もし、出来るなら、ちゃんとしたい。
何も報われないで死ぬなんて、もう二度としたくない。
いや、無駄だったとしても、最後まで足掻くんだ。
時間は一時も無駄にはできない。
今の与えられた猶予を、しっかり活かしたい、そう思った。
頑張っていきます。次回は来週に更新いたします。