57話 ダニエルと一緒にいるロック
57話です。よろしくお願いいたします。
あらゆる方向に視線を持つ体のせいで、
四方八方が緑と土に囲まれているのがわかる。
風と太陽の温かさを肌に感じる。
自然の香りが鼻腔をくすぐる。
自然が好きだ。
この趣向が新たに与えられた性質によるものなのか、
それとも生来のものなのかは、自分にはわからない。
ある時は背中であり、ある時は腹でもある部分に、何かが触れた。
触れられるのも好きだ。
今、自分の周りには、好きなものがいっぱいある。
世界で一番好きなものが、音を立てた。
世界で一番愛しているものも、後に続いて音を立てた。
自分も音を立ててみる。
すると、すぐに世界で一番好きなものが
綺麗な音を立てて返事をしてくれた。
何らかの道筋がなくとも、理由がなくとも、
今みんなといられるだけで、自分は満足だった。
生まれたばかりの雛に手を触れたような充足感に満たされていると、
「・・・?」
遠くにある自分の分身が死んだ。
脇と肩の境目から血が流れ出す。
痛みはそこまでなく、血もすぐに止まったが、喪失感が残った。
生まれて初めての喪失だった。
涙を流すと、愛するものが音を立てながら、
首でもあり、足でもある部分に触れてくれた。
好きなものも自分を心配して寄り添ってくれている。
喪失感を原因とした涙が、喜びを原因とした涙に変わる。
嬉しくて、愛おしい。
自分達には使命がある。
神から与えられた重要な使命が。
達成にはわずかな危険が伴う。
だが、世界一好きなものと、
世界一愛しているものがいれば何も怖くない。
涙が止まった時、感謝が生まれた。
だが、同時に少しだけ後ろめたくもあった。
愛しているものに対して、ひとつだけ秘密があったからだ。
もしかしたら、生来の経験が関わっているのかもしれない。
自分の分身が死んだ場所に、とても大切なものがある。
忘れ形見だ。
そのあたりには、いくつかの命の気配がある。
命の気配がたくさんある場所を教えるように、
自分は愛するものから言われているのに、黙っていた。
忘れ形見は自分にとって唯一無二の存在だ。
全てが壊れてしまう直前になるまで、会いたくなかった。
自分は愛するものを騙してでも、
楽しみを後に取っておく方を選んだのだ。
時間経てばすべてが終わる。
音が言葉に変わっていく。
自分の体も今の気持ちも、何もかもが変わっていきそうな予感がある。
あらがう必要は感じない。
もし、忘れ形見に出会った時、自分はどうするだろうか。
まだ迷っている。
今はただ、わずかでもみんなと長く過ごしたい
ありがとうございました。
次話はすぐに更新いたします。




