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5話 結希

5話目です。

よろしくお願いします。

ニュースによれば、

太陽光を反射する月の面積が単純に2倍になったことで、

月夜が格段に明るくなったのだという。

伴って気温も2.3度上がるそうだ。

専門家によれば、月が2つになったことで

重力の変化から生じる海面上昇や、

地球の周回軌道の変化に伴う隕石衝突など、

大変な事態は生まれそうだという意見もあったが、

実際にはまだ何も起こっていない。

早朝から起き出してニュースを見ている結希は、

専門家が「嘘か真か、奇跡的な状態でバランスを取っている」

とテレビで捲し立てているのを熱心に聞いている。

人が生きるには過酷な世界になると、

女神フォルトゥーナは言っていた。

言葉通りなら、今起こっていることはただのきっかけに過ぎない。

大きな変化はこれから始まるのだろう。

不安が首をもたげてくる。

シャワーを浴びて朝食を摂ると、

結希は着替えて都内を歩き始めた。

散歩が目的ではない。

身の回りでいろんなことが起こり過ぎていて、

家で大人しくしてはいられなくなったのだ。

かといって、何をすればいいのかもわからず、

ただ無闇に歩き続ける。

スマホのアプリにラジオがあったことを思い出し、

聞きながら歩く。

雑踏溢れる街はいつもと変わらない。

変わらなさ過ぎて逆に不安になってくる。

しばらく歩いていると体が暖まり、

適度な汗が体を冷やす清々しさを感じるようになった。

のんびりと体を動かすのは、気持ちが良い。

いつのまにか入ってしまった散歩コースの緑に目が癒される。

天気も良くて暖かくて流れる汗も心地良い。

すこぶる快適だ。

歩いているのに慣れると、いろいろなことが頭に浮かんでくる。

最初は自分の過去だ。

自ら望んで家を出て、自分が選んだ大学に通い、

卒業後は自分で選んだ会社に就職した。

自ら望んで選んだ決断だった。

だが今では本当にそうだったのかわからなくなっている。

コーヒーが苦過ぎたせいかもしれない。

物思いに耽っていると、1時間が経過していた。

その時、一陣の風が結希を襲った。

同時に、頭蓋骨を震わせるような振動。

「どうわぁっ」

結希は体を竦ませたまま周囲を見渡す。

あれだけ酷い揺れだったのに、結希のように驚いた人はいない。

「え・・・あれ」

結希の様子を訝しんで通り過ぎていく人達の視線を受け、

耳を熱くしながら俯く。

すぐに電話がかかってきたようなふりをしながら、

逃げるように道の端まで走った。

木の陰に隠れて周りを見ると、

もう自分のことを気にしている人はいなくなる。

「なんだったんだろう・・・」

数度ため息をついて落ち着いた結希は、

フォルトゥーナの声を思い出す。

地上はやがて大きく変化して、人にとって過酷な状況になる。

ようやくそこまで理解が到達したところだったのに、

さらなる変化が結希を誘っているような気がする。

結希はパンク寸前の頭に空白を作る為、

大きくため息をついた。


   ◇


結希は学生の頃から、忙しい合間にRPGロールプレイングゲーム

をするのが好きだった。

魔物が蔓延る世界を救うために、勇者が仲間を集めながら、

世界中を旅する冒険ファンタジーなどは、

ひそかにあこがれる世界観だった。

幼い頃はRPGの主人公のように、勇者になってみたかった。

勇者になれば、理不尽な目に遭ったり悲しい人生だったりしても、

きっと乗り越えられるだろう。

そんな希望のかけらを、ゲームの世界は結希に与えてくれた。

とはいえ、何かのタイトルを最後までクリアしたことは一度もない。

結希は常にバイトや勉強で忙しかったが、そればかりが原因で、

ゲームが続かなかったわけではないだろう。

思い返しても、何が原因なのか結局わからなかった。

「・・・」

RPGの最後は、一体どうなるのだろう。

悪い魔王を倒して、平和に暮らせる世界が訪れるのだろうか。

それともうまくいかなくて、悲劇的な最後が訪れるのだろうか。

思考は螺旋を描きながら、少しずつ上へ登っていくものではない。

思考はコントロールしなければ、混沌に向かっていくものだ。

結希は必要な方向に舵を取り、思考をまとめる努力を続けた。

現実的な適応をしていかなくてはならない。

現実的な適応というのは、

突然頭の中に響いて来た声についていろいろ考えたりするのではなく、

仕事を探したり、お金の使い方について考えたりすることだ。

だが、それをやっている自分を想像すると、

薄暗い気持ちが大きくなってきて、

フォルトゥーナとの出会いの記憶が鮮明過ぎて、

どうしてもする気にはならない。

自分の感覚を信じて進むのが良いのか、

それとも今までのように現実的な生活をする方が良いのか。

頭の中で2つの考えが綱引きをしている。

綱引きは決着が着かず、公園のベンチから腰を上げた時には、

すでに夕方にさしかかっていた。

もうこんなに時間が経っていたのか。

緊張が高まり過ぎたのか、少し吐き気がする。

震える膝を押さえつけて立ち上がった。

「寿命図鑑 生き物から宇宙まで万物の寿命をあつめた図鑑」を参考に致しました。

この本は、以前から好きな本でもあります。


また来週、更新いたします。

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