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42話 月子

42話できたので、

予定よりも早いですが更新いたします。

月子が専門学校に進んで3か月が経過した。

学校では友人の1人もできないまま、

相変わらず剣術中心の生活を送っている。

普段は多くを語らない父が、

専門学校のことを聞いてきたのをあしらって、

月子は逃げるように家を出た。

学校へは電車で1時間かかる。

月子はシートに腰かけるなり、イヤホンを耳に突っ込んだ。

流れてくる曲は、スカウト・グッドダイバーの

『over my dead』だ。

この曲はアップテンポで明るい調子なのに、

どん底に落とされたような詩が特徴的だ。

好きな曲なので、何度もリピートで聞きながら、

月子は鞄から擦り切れた『剣道通信』を出した。

5ページ目には、陽子の写真が掲載されている。

だが、その陽子に笑顔はない。

陽子は最近、公式試合で初めて負けた。

悔しそうに泣いている陽子の姿は、切なくも美しかった。

『死んだ後に騒ぐのはやめて。

ただ静かに思い出すだけでいい』

月子はスカウトの詩に頷く。

「そう・・・。

陽子ちゃんを、みんなそっとしてほしい」

月子はたまらなくなって、『剣道通信』を鞄に仕舞った。

上を向かないと、涙が出てきそうだ。

「でも、陽子ちゃんなら。

きっとまた勝てる」

もし負けても、陽子はまた勝つと、そう思っていた。


   ◇


事件の始まりは、一本の電話からだった。

この電話以降、産土家の全ては変わってしまった。

父と母は仕事で家におらず、電話に出たのは道場の

掃除をしていた祖父だった。

最近祖母を癌で亡くし、少し元気のなくなった祖父は、

独りでその話を聞いた。

どんな気持ちだったのだろうか。

月子には想像も出来ない。

祖父はすぐに父と母に電話をしてから車に乗ると、

月子のいる専門学校に向かった。

なぜ祖父は陽子ではなく、自分の元へ向かって来たのだろう。

月子は次の講義までの休憩時間で、

何度も読んだ筈の剣道通信を読んでいた。

「また読んでるの?」

「佐倉さん」

後ろから声をかけられて振り返ると、

同じ学年の佐倉がいた。

彼女は友人ということでも、見知らぬ他人ということでもない、

時折声をかけてくる子だ。

「剣道好きだよね」

月子は思わず雑誌を閉じた。

雑誌にはカバーをかけていたが、

いつも読んでいるので、月子がみんなに

「剣道女」と噂されるようになるのは、

そんなに時間がかからなかった気がする。

「産土さんってさ、剣道やってるの?」

「ううん」

首を振ると、佐倉が笑って後ろの友人達に言った。

「やってないんだって。

やっぱり」

友人達は興味あるのかないのか、曖昧な返事をした。

「じゃあさ、なんでこんなもの見てるの?」

どう返事をしたら良いものか、月子がまごついていると、

「まぁ、いいけどさ」

苦笑いをしながら佐倉は離れて行った。

せっかく声をかけてもらったのに、うまく話せなかった。

月子が肩を落としているとき、鞄の中でスマホが振動した。

普段なら気付くはずが、

月子は佐倉とのやりとりに気を取られて気付かなかった。

もっと早く気付いていれば、何か変わっただろうか。

次の講義が終わり、気付いた月子が折り返すと父が出た。

「月子ちゃん。

陽子ちゃんが怪我をした」

父の声が震えていた。

大きな怪我なのか、箇所はどこか。

いや、父がわざわざ月子に電話をしてきたのだ。

軽症ということはないだろう。

剣道は続けられるのか。

声に出そうとしてやめた。

言ってしまうと、それが現実になるような気がしたのだ。

普段は鈍い頭が、正念場とばかりに激しく回転し、頭痛が生じる。

講義が終わったとはいえ、まだ教室には他の学生がたくさんいる。

月子は落ち着いた声を出すために、一度息を吸った。

「・・・どこを・・・怪我したの?」

父が言葉を濁した時、月子は恐れていたことが

起こっているのかもしれないと思った。

「そっちには、おじいちゃんが迎えに行ってるから、

月子ちゃんは学校で待っててね」

質問とは違う答えが返って来たことで、尚更恐怖が増す。

月子はかっとなった。

「違う!

訊きたいのはそれじゃないっ!!」

教室内に月子の声がわっと広がった。

頭に血が上っているので、周囲の視線に気付けない。

「陽子ちゃんは・・・どこを怪我したの?」

空気の全く含まない声を絞り出す。

「・・・わからないんだ。

でも、重症だって。

元に戻るかわからないって」

それを聞いた瞬間、手先が冷たく痺れるのを感じた。

「陽子ちゃんと話したいっ」

「話せる状態じゃない。あの子は、襲われたんだ」

父の声が、嗚咽に変わった。

意識が体から離れていくような気がした。

「襲われたって・・・なに?」

その時、自分の体に異変を感じた。

あれ。

ちょっとおかしい。

倒れる。

意識を失う。

受け身とらないと。

スマホ置かないと、鞄も落ちる。

なにもできないまま、月子の目蓋は引き落とされた。

ありがとうございました。

辛い内容が続くため、文章が少なめになってしまいました。

何卒ご容赦下さい。


次回は来週に更新いたします。

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