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38話 結希

38話です。

予定よりも早く投稿いたしました。

よろしくお願い致します。

薄暗い店内で息を潜めている。

物陰から、外敵の気配がして覗いた時、

結希はこころの中で舌打ちをした。

欲しいものが丁度あるところに、5体ものセベクが居たからだ。

「・・・」

仕留めてしまうか。

いや、他に外敵がいるかもしれない。

逃げ場のない場所で目立つ行動は禁物だ。

結希は迂回して店内に他の外敵がいないか、入念に見回りをした。

小鬼と鬼のペアが奥まった場所で食事をしているのを見つけた。

何を食べているのかと思ったら、犬だった。

飼い主がいなくなって、野生化した犬が鬼に捕まったのだ。

「う・・・」

結希は気分が悪くなって口を押さえた。

こういう時は何も見ないようにして、

さっさと済ませてしまうのが最善だろう。

気配を悟られないギリギリの範囲まで近付くと、

『雷獣』を纏って駆けた。

仲良く食事をしていた小鬼と鬼は、

強烈な雷撃を受けるまで気付くことができない。

痙攣を繰り返して、鬼達はあっという間に沈んだ。

その後も、結希は油断なく周囲の物音に耳を澄ませる。

離れた場所にいるセベク達が気付いた様子はない。

「・・・ふぅ」

鬼達の遺体がしっかりと消えたのを確認すると、

セベク達の元へ戻ることにする。

繰り返し体験した修羅場のおかげで、

結希はかなり戦い慣れてきている。

戦うことへの恐怖が減ったことで、自分のやるべきことに

集中できるようになったのかもしれない。

物陰から、セベク達を覗き見た。

相手がペアなら両手を使って同時に倒すことができるが、

5体とあればうまく不意打ちが出来たとしても、

数匹とは向かい合って戦わなくてはならない

狭い店内を利用して各個撃破するのも良いが、

今回の結希には考えがあった。

結希は静かに近付き、セベクの背に触れて2体を仕留めた。

すぐに他のセベク達が起き上がり、

こちらを見つけて向かってくる。

だが、ここからだ。

結希は左手で目をかばいながら、右手を差し出す。

手には剝き出しの電球が握られている。

次の瞬間、店内が明るく照らされた。

結希の雷が電球のフィラメントを焼いて

激しい発光をしたのだ。

結希でも視界が白んで辺りが見えにくいほどの発光だったので、

直視したセベク達はたまったものではなかっただろう。

後は簡単な作業だった。

結希は目を押さえて苦しんでいるセベクに

1体ずつ電流を流していく。

戦いはあっという間に終わった。

フィラメントが焼き切れてしまい、

使えなくなった電球を棚に置く。

「まるで電気うなぎだな。僕は」

店内の外敵はすべて排除したので、

後はゆっくりと必要なものをリュックに入れていく作業だ。

途中で気になるものが見つかったので、ポケットに忍ばせる。

あの子達は、喜んでくれるだろうか。

自然と顏が綻んだ。

帰り道に外敵はいなかった。

配送センター前の橋にさしかかった時、遠くから声が聞こえた。

「おーい」

声の方を見ると、葵が外に出ており、こちらに手を振っていた。

結希は手を振り返すと、嬉しくて思わず走り出していた。

「帰って来たー。

おーい」

葵がジャンプしながら大きく手を振る。

橋の真ん中あたりに来ると、

葵、キーラ、ソーニャ、三毛虎に銀が見えた。

全員出てくれていたのか。

いつもの癖で周囲を改めようとしたが、

銀が大きく欠伸をしているのでやめた。

彼がリラックスしているとき、周囲に外敵はいない。

ソーニャがこちらに向かって走り出した。

葵が慌てて後を追う。

三毛と虎が走り出し、すぐにソーニャに追いついて両側についた。

「ユキ―」

「ソーニャっ」

結希はソーニャを受け止めると、脇に手を入れて持ち上げた。

「ユキー。ウフフフ」

ソーニャの首に巻き付いていた白蛇が、結希の耳を甘噛みしてくる。

「ソーニャ。

お利口にしてたか?」

「シテタヨー」

「ソーニャったら」

息を切らした葵が咎める口調で言ったが、

眉の端は下がっていた。

「結希。おかえり」

「ただいま」

愛しさが額の辺りを熱くさせる。

「ユキ―。オカエリー!」

耳元でソーニャが叫んだ。

ソーニャは結希の頬にキスをすると、首に腕を回した。

「ソーニャ。

日本語覚えるの早くないですか?」

葵は両手を後ろに回して恥ずかしそうに

「はい。

実は、私がちょっとだけ教えました」と言った。

「キーラも?」

顔を上げると、キーラは橋の手前で

銀の毛を握ったままこちらを見ていた。

「キーラはちゃんと聞いてはいるんですが、

声には出してくれなくて」

葵は不満そうに口を尖らせた。

「頭の良い子だから、きっと覚えていますよ」

結希はソーニャを抱えたまま、銀とキーラの元へ歩き始めた。

「そういえば、なんで外に出てたんですか?」

「ごめんなさい・・・私」

彼女は沈んだ表情を俯かせて、自分の腕を掴んだ。

「いや、そんなに落ち込まなくても」

「だって、私。

しっかりできなくて」

大事なことであれば大声で反論する葵も、

こういう時は弱々しい仕草が多い。

「いえ。いいんです。

銀さん達もいるんだから、リスクマネジメントは出来ています」

結希はまるで気にしていない風を装うために、視線を逸らした。

隣でほっと息を吐く気配がする。

「一応、三毛と虎が外を見て回ってくれたんです」

「それなら大丈夫そうですね」

「ソーニャが、結希のお出迎えをするってきかなかったんです。

ホールで待つように言ったんですが、

怪獣みたいに泣いて。本当に、普通の泣き方じゃなくて」

ソーニャに手を焼く葵の姿が思い浮ぶ。

結希も同じ立場だったら、同じことをしたかもしれない。

「・・・ねぇソーニャ」

間近くにあるソーニャの灰色の瞳が、結希をまっすぐに見た。

「ナニー?」

口からミルクのような甘い匂いがする。

「外は危ないんだよ」

なんとなく意味がわかるのか、ソーニャの顔が歪む。

さっきまで泣いていたらしいので、涙腺が緩そうだった。

だが、こころを鬼にして伝えないといけないこともある。

「僕は、絶対に戻って来る。

絶対に、大丈夫だから」

「□△□△?」

「そう。絶対に大丈夫だから、部屋で待ってるんだよ?」

ソーニャは少し黙っていたが、やがて頷いた。

「この子はすごく賢いから、

なんとなくニュアンスは伝わっていると思います」葵が言った。

「また、困ったことがあったら言ってください」

「はい」

銀の所まで来ると、毛を掴んだままのキーラが「ユキ」と言った

「キーラ。ただいま」

「ユキ」

キーラは何度か「ユキ」と言ってから、すぐにそっぽを向いて

銀の後ろに隠れてしまった。

「恥ずかしいみたい」葵が笑う。

「せっかく外に出たんだから、ちょっとだけ」

結希の提案で、一行は配送センターの前に並んで腰かけた。

もうすぐ冬が来る時期だというのに、ずいぶんな陽気だ。

結希はジャケットを脱いでTシャツになった。

「暖かいね」

「うん」

ソーニャが青色の小さな花をつけた植物を、指で撫ぜている。

キーラがそれを引き抜くと、彼女は怒り始めた。

喧嘩が始まる寸前で、

結希と葵はそれぞれ双子を引き離して自分の脇に座らせた。

「大変な世界になったって思ったけど、

こうしていると、平和ですね」

「うん。

ある意味、今の方が平和かも」

葵は一瞬だけ琥珀色の瞳を見開いて、

それから感じ入ったような表情をした。

「そういえば、葵さんの目って、綺麗な色ですよね」

「え・・・そ、そう?」

葵が自分の頬に触れて、恥ずかしそうに俯いた。

「会った時から・・・思っていました」

「う・・・そ、そんなことないよっ。

お母さんの方がずっと綺麗だった」

「お母さん?」

「うん。

すごい美人なの。すごいモテて。頭も良くって。

恋人もいっぱいいて」

「そうなんだ」

「・・・うん」

彼女は複雑そうにはにかむと、水筒を差し出してきた。

受け取って飲み始めると、2人の間に沈黙が訪れる。

「あっ!

すみません。全部飲んじゃった」

「いいんです。全部結希のだし」

結希が背伸びをして後ろに倒れると、ソーニャが真似をした。

いつの間にかキーラも同じようにしている。

「そうだ。

これ」

結希がポケットから3つキーホルダーを出した。

艶々したリンゴはソーニャへ、

のんびりした表情のクマさんはキーラへ、

可愛いパンダは葵へ渡す。

「わ~かわいい!」

なんの変哲もない、どこにでもあるキーホルダーだが、

みんなとても喜んでくれた。

「そういえば、子ども達の洋服も素敵ですね」

結希は照れ隠しに言った。

双子は葵の選んだ、可愛らしい洋服に着替えていた。

「カワイイデショー」

ソーニャが足をバタバタさせてスカートが

見えそうになったので、葵が手で裾を軽く引っ張る。

よく見ると、キーラの羽織ったカーディガンと、

ソーニャのスカートが両方ともグレーで、色を揃えてあった。

「昔あったニコイチってやつです。

可愛いでしょ」

「すごく似合っています」

嬉しそうに微笑むと、葵は風に逆らうように髪を耳にかけた。

注目を浴びたソーニャは無邪気に喜んだが、

キーラは少し恥ずかしそうにする。

ソーニャが川べりにいた虎にちょっかいをかけると、

キーラと三毛も交えての追いかけっこが始まった。

「すっかりお友達ですね」

「三毛虎は人懐っこいから」

「そういえば、キーラは銀さんとずっと一緒で、

怖くないのかな」

「銀ちゃんはあんまり構わないから、

居心地がいいんだと思う」

鬼ごっこはその内ごちゃごちゃし始め、

誰が鬼なのか全くわからなくなって、

互いにタッチをし合う遊びに代わってしまう。

「あはは。

すごいすごい」

隣で葵が指をさして笑っている。

葵は先程、今の方が平和かもと言った。

結希は、そうかもね、とこころの中で返事をする。

身体を起こして、葵に向き合う。

少し距離が近いかもしれない。

「あの、あ、あおい」

「・・・え?」

葵の顔がみるみる朱に染まる。

「あおいってさ・・・」

きっと結希も同じように、赤くなっているに違いない。

「は、はい」

自分を守るように、葵の両手が胸の前で強く結ばれている。

「い、いやー。そっちも結希って。

だから、いいかなって」

葵が「でも、前からもう言ってるかも」と言った。

「え。そうだっけ?」

「はい。

たまにだけど、葵って呼んでくれて」

「ごめん」

「いいんですよ。

・・・その方がずっと嬉しい」

恥ずかしいので少しだけ俯きながら、

彼女の手にそっと触れた。

ありがとうございました。

参考文献

『心に残る、子ども服 増補改訂版作ってあげたい、女の子のお洋服』

『小さな子どもの褒められ服』


次回は今週末に更新いたします。

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