21話 葵
21話目です。
よろしくお願いします。
遠くで雷が鳴っている。こんなに晴れているのに不思議だ。
頭がぐらぐらと揺れる。
あれから30分は歩いただろうか。
落ちていた瓦礫に躓いて転びそうになる。
支えられた三毛に、熱があると言われて、
ようやく体調不良であることに気付いた。
洗ったばかりのキャミソールに、嫌な汗がしみ込んでいく。
当然といえば当然だった。
慣れない生活で疲労困憊だったのに、
昨日はプールで泳ぎすぎた。
「私は、ばかか・・・」
今は熱などで倒れている場合ではないのに、
体調管理もまともにできないとは情けない。
歩を進める度、熱はどんどん上がっていった。
それに伴って、肩口の紋章がヒリヒリと痛むようになった。
おかげで気怠さが倍になる。
「み、三毛。肩が痛い」
<いけにえの印ですか>
狼のことを意識したのか、猫達の毛が逆立つ。
虎が三毛の合図ですぐにお香を焚き始めた。
一行は移動により念入りな警戒をするようになった。
「来てるのかな?」
三毛は唸り、<その可能性が高いです>と言った。
「そっか」
汗なのか血なのかわからないが、背中をぞくっとするものが伝う。
<しかし、フォルトゥーナ様の噴水まで行けば、
主を含めて外敵は入ってこられません。急ぎましょう>
三毛励まされながら歩き、ようやく噴水広場に到着する。
敷地内に入ってようやく息がつけた気がする。
「ごめんね。2人とも」
虎が見回りに走ったが、噴水公園の周囲は静かなもので、
外敵の1体もいないようだった。
噴水の水で顔を洗い、そのまま飲み込むと少し楽になる。
<この周囲は安全です。お休みになってください>
座り込んで、三毛に寄りかかった。
猫達は人間のように迂遠するような言い方をしない。
三毛と虎の話し方は淀みがなくて、
直接的で聞いていて気持ちが良い。
その言葉に甘んじて、葵は休ませてもらうことにした。
どのくらい経ったのだろう。
葵は三毛が敷いてくれた絨毯の上にいた。
頭が痛い。
こめかみ近くで、頭痛達が押し競饅頭をしているみたいだ。
身体の節々に痛みがある。
本格的に風邪を引いたのかもしれない。
あちこちの痛みが、すこし落ち着くまで待ってから、
ゆっくりと顔をあげる。
隣に油断なく構えた三毛がいて、公園の外に虎が立っていた。
虎は立てた槍を斜めにして、右足の指で根元の方を、
左足の指で上の方を挟んで、手も使わずに槍一本の上に乗っていた。
「虎ってば・・・すごい」
素晴らしいバランス感覚と筋力だ。
そんな荒業をしながら、彼はのんきにあくびをしている。
外敵がいないことが分かり、葵はひとまず安心し、
止まっていた息を吐き出した。
身体を起こすと一瞬目の前が暗くなる。
無意識に伸ばした手を、肉球の大きな手ががっちりと掴んだ。
「あ、ありがとう」
三毛の水筒を借りて噴水の水を飲んだが、
すぐに胃が鳴って全部吐き出す。
<臓が疲れ切っています。
葵さま。まだ寝ていて下さい>
「ご、ごめん。そうする。でも、少しだけ」
三毛の手を借りながら、国道がまっすぐ見渡せる場所を目指す。
虎がいつの間に槍から降りて、こちらに来ていた。
最初に気付いたのは三毛だった。
<葵さま>
俯いた姿勢を正して前を見ると、視線の先に何かが見えた。
三毛が葵を庇うように差し出した手を握り締める。
「あ、あれは」
風が止まる。
ずいぶん遠くに小さな影があった。
影は雷を彷彿とさせる、白い光を空へ向かって放っている。
あのオーラには見覚えが。
「ああ・・・あ」
はっきり認識する前に、声が漏れていた。
夢も希望もない此処で、
自分が縋り続け、支え続けたものがあそこにある。
「ほ、ほんとうに」
滲む景色を手の甲で擦る。
見間違いではないか。
いや、間違えようがない。
「う・・・ううっ・・・!」
やっと会えた。
誰が止めてきたとしても、今度だけは絶対に進むのをやめない。
精神力で全身を叩くよう鼓舞して、葵は駆けだした。
ありがとうございました。
次話は来週に更新いたします。




