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16話 葵

16話 やっぱり今日投稿することにしました。

よろしくお願いいたします。

初対面の人に、あんたってかなりやばい。

脳のどこかで自分の天才的な部分が開花し、

あらゆる事象を鑑みて答えを出せたような爽快感がある。

「1000兆人目でしょう」

発言に一番驚いたのは葵自身だった。

この男の人と私は関係がある。

きっとフォルトゥーナのことも、

1000兆人目のことも知っている。

なぜ、そんな考えに至ったのだろうか。

言葉では説明できない。

男の人の目が戸惑いでひきつる。

「・・・あ」

逆上せあがった頭が、水をかけられたように鎮火していく。

「あなた、ちょっといらっしゃい」

年配の女性に手招きされた。反射的にそちらに向かうと、

女性は口元にゆとりのある笑みを浮かべて、

小さな声で耳打ちしてきた。

「はじめまして。私この方とお友達なの」

「え」

女性が柔和な笑顔を向けてくる。

「とっても良い人よ」

「あ・・・え・・・あの」

徐々に頬に熱が上がってきた。

「え、えっと、私ってば・・・」

女性が葵の手を握ってくれる。

皮が厚くて暖かい手。

「大丈夫。気にしないわ」

「私も明日行くから。クロエよ」

女性が可愛らしくウィンクをした。

「あ、ああ、葵です」

「そう。葵さん。いい名前ね。

めげずに明日もいらっしゃいね。あと」

最後まで聞かずに、葵は踵を返した。

恥ずかしい。恥ずかしい。

我慢の限界だった。

女性の言葉をその場に残し、葵は一目散に逃げ出す。

寸でのところで人にぶつかりそうになりながら、

躓いてこけそうになりながら、噴水公園を出て、

まだ止まらずにとにかく走った。

「ああ、もう、ちょっとわからない!」

「わぁぁ。わかんないわかんない」

人通りがなくなった場所で、切れ切れな呼吸とともに叫んだ。

「ああああ。恥ずかしい!」

叫んでいないと、体のどこかがはち切れそうだった。

「わかんない!わかんない。なんであんなこと言ったの?!

絶対ヤバイヤツだって思われた!!」

行きに寄った公園に到着すると、

葵は水道の蛇口をひねって、乱暴に顔にぶちまけた。

「ううううああああああ」

脳裏に、あの男の人の、びっくりした顏が浮かんでくる。

「だぁぁぁっぁ・・・・恥ずかしすぎるぅ」

葵は身体を抱いて身を捩った。

「しぬぅぅうううう。わからーん」

小さい子どもがこちらを見ているのに気付き、

葵は立ち上がった。

「いや、ちょっとわからない訳ではなくて、

わかっているんだけど、馬鹿野郎って感じよ・・・」

水道と近くの鉄棒の間を行き来する。

感情が爆発している。これ以上にない程に。

今まで、感情を表に出さないよう装いながら生きてきた。

両親が別れた時も、

持って行った水筒に変なものが浮かんでいた時も。

しかし、葵自身、本当に感情がなかったわけではない。

嫌がらせを受けた後、関心なさそうにあくびをして見せる時、

すずに本音を叩きつけられて歪んだ愛想笑いをしている時、

その皮一枚挟んだ下には、いつも自分でも恐ろしいくらい激しくて、

汚らしい何かが暴れていた。

それを出したら、何もかも終わってしまうような気がしていた。

だから、必死で抑えつけてきた。

それなのに。

初対面の男の人に対して、あんなことを言うなんて。

「なんで、あんなこと言ったんだろう」

なぜ出てきたのだ。

途方に暮れた葵は何度も頭を振った。


   ◇


真夜中に目を覚ました。

今日はこれで2度目だ。

首から上が腫れぼったくて、息苦しくて仕方がない。

冷蔵庫を開けると、氷を鷲掴みにしてそのまま顔に当てた。

氷はとても冷たかったが、

手と顔の火照りは無くならなかった。

また、あの男の人の引き攣った顔を思い出す。

「っ!」

羞恥心が胸をえぐってくる。

思わず、叫びだしたくなる。

「もう忘れようよ・・・」

すぐにまた暑苦しくなった気がして、氷を顔に押し付ける。

クロエに言われた通り、

あの男の人は来てくれるのだろうか。

死ぬほど恥ずかしいけど、

まずは急に変なことを言ったのを謝りたい。

謝りたいが、きちんとできるか自信はない。

「はぁ・・・」

あの人を前にすると、抑えつけていたものが飛び出していきそうになる。

話をするときは、いつも以上に落ち着いてしなければならない。

とにかく冷静になるんだ、と自分に念じてみる。

水滴が膝の上に落ちて濡れた。

冷たい。

自分の気持ちをもっと冷やして、

しまいには凍らしてしまって、抑えつけて、

絶対に出てこないようにしたい。

葵は結局一睡もできなかった。

朝方、母親がアパートを出たのを確認してから、

葵は遅々としてリビングに出た。

ようやく家事を終わらせ、学校に電話する。

「赤井さん?おはよう」

羽生の声がしたが、少し声の調子がおかしい。

「今日の調子はどう?」

答えても良いものか、逡巡する。

「眠れないんです」

面倒なことになるかもしれないのに、

素直に状況を説明してしまう自分に驚く。

睡眠不足でどうかしているのだろうか。

「そうなの」

「は、はい」

「何か、気になることがあるとか」

「はい・・・」

受話器を手で押さえる音がする。

葵は再度羽生の声が聞こえるのを待った。

「ごめんなさい。それで?」

「はい。す、少しの間だけ、外出して」

「うん」

学校に行っていないのに、

外出したなんて言って大丈夫だっただろうか。

「あ、あの」

「うん。それで?」

葵の話を聞きながらも、羽生が明らかに他に意識を配っている様子がある。

「あの。羽生さん・・・実は」

言おうとしたとき、羽生が葵を遮った。

「実は、今、担任の先生が近くにいるの。

話が終わったら、代わってほしいって」

突然呼吸が苦しくなるのが自分でもわかった。

「え・・・あ」

突然、握りしめたように心臓が痛くなる。

「大丈夫?」

「は、はい。あの・・・」

「私からもいろいろ言ったんだけど、

やっぱり先生も心配みたいで、声が聞きたいって。

ごめんなさい」

心配。あの先生は私のことなど心配していない。

そう思っても、嫌だとは言えなかった。

「はい。大丈夫です」

「よかった。ありがとう。

それで、何の話だっけ?」

羽生は親切にしてくれた。

それなのに、裏切られたような気持ちになるのを押さえられない。

「ううん。もういいです」

「先生と代わってもらっていいですか」

電話に出た担任は、「病気は良くなったのか」「何の病気なのか」

「クラスのみんなが心配している」という台詞を数回繰り返した。

みんなが心配している?

教室で殴られている葵を見て、

誰か心配してくれただろうか。

自分の身体がプラスチックみたいに冷たくなるのを感じながら、

葵はあらかじめ考えていた病名と症状を説明した。

何のためなのかわからないが、担任がメモを取っている音がする。

まだ書いている担任に、

数日中に学校に行くことを伝えようとした時、

羽生の声がした。

「ちょ、ちょっと困ります」と担任の声が聞こえる。

「ねぇ!・・・赤井さん」

突然羽生の声がする。

どうやら、無理やり羽生が担任から電話を奪ったようだ。

「羽生さん?」

「さっきの話、途中だったから」

葵は唖然とした。

「は、話って・・・さっきの?」

「そ、そうそう」

「なんで、そんなこと・・・」

「気になったの。私」

「で、でも、担任が怒るんじゃ・・・」

「そうそう。無茶しちゃった。あとで怒られるかも」

「なんでそんなこと・・・」

「赤井さん、私ね。前は学校の先生だったの」

羽生が早口で言った。最初は聞き間違えかと思った。

「え」

「今は事務員なんだけど」

「は、はい」

「また話してくれない?」

羽生の話は唐突で、支離滅裂で理解不能だった。

だが。

大の大人が、自分の立場を悪くする危険を冒してまで、

こころを尽くしてくれているのが、葵にはわかった。

胸に滞っていた何かが、流れていく。

「え・・・い、いいですけど、なんでそんなことしたんですか」

「ああ・・・私もちょっとわからなくなってきたわ。

でも、さっきのは絶対良くないって思ったの」

葵にはわかる。羽生が一生懸命なのが。

ただ、羽生がなぜ葵に一生懸命になってくれているのかわからない。

息を吸う。

「わかりました。

でも、まずは担任の先生に言いたいことがあるので、

代わってもらっていいですか?」


   ◇


噴水公園に行くと、昨日と同じ場所にクロエがいた。

「昨日はすみませんでした」

頭を下げると、ほほほと笑いながら肘の辺りに触れてくれる。

「いいのよ」

クロエは、クロエ チカというそうだ。

葵はフルネームを伝えるのが恥ずかしくて、

「葵です」とだけ伝えた。

クロエは葵の心中を察してか、ただ笑顔で頷いてくれた。

その様子に安堵する。

「葵さんは、好きなものある?」

ゆっくりとした口調でクロエが言った。

「え」

大人が子どもにする質問は、

大体勉強や友人、学校生活や部活のことだ。

だから、好きなものを訊かれ、

虚を突かれたように言葉が出なかった。

「本を読むことです」

「どんな本を読むの?」

「あの、物語とか」

「私も好き」

「クロエさんも読むんですか?」

「ええ。よく読みます」

クロエはそう言って、文庫本を一つ鞄から出した。

海外の作家が書いた訳本だ。読んだことがある。

「これ」

「葵さん知っているの?」

「はい」

クロエが感心したような、驚いたような表情をした。

「どうだった?」

「難しかったです。大人の話だったから。

私にはまだ早かったのかも」

目を見開いたクロエの肩から、湯気が上がっているのが見える。

これは湯気ではない。

生命力や意志の力とでもいうのだろうか、

それがオーラのように見えるのだ。

クロエのオーラは木の根っこのような薄い茶色で、

チリチリと静かに燃えている。

「葵さん」

「は、はい」

「私も同じ感想だったわ」

「え」

驚く葵を見ながら、クロエはおほほほと嬉しそうに笑った。

あまりにも愉快そうだったので、葵もつられて笑ってしまう。

だが、大人のクロエが、

葵と同じ感想を持ったなんて信じられない。

「でも、おかしいです。だって・・・」

葵が言うとクロエが頭を振った。

「大人もね、子どもなの。

ただ、子どもの延長にいるだけ。

思ってるほど、大人は大人ではないのです」

クロエがお茶目な様子でウィンクをした。

「あら」

クロエが葵の肩を叩いて、広場を指さした。

見覚えのあるオーラが見えた。

恐ろしい程遠くの闇に、一筋の雷が落ちたような、

細く鋭いオーラだ。

見ているだけで、葵は息をするのも忘れてしまいそうになる。

あの人が来た。

そこから視線を動かせなくなる。

激情が手を突き出してきて、胸や口から飛び出そうとする。

あの人は、自分の感情の持ち主なのかもしれない、とさえ思う。

胸を押さえて深呼吸した。

こちらから挨拶をすると決めていた。

「こ、こここ、こんにちは」

言うと、彼が張り付いたような笑顔を見せた。

葵は内心、絶叫していた。

仕方ない。仕方ない。

私が悪い。

昨日あんなことを言ってしまったのだから。

そう思いながらも、彼を見ていると、

なぜか腹の底から怒りが湧いてくる。

どうしてよ、と葵は自分自身に訴えかける。

クロエが気をきかせたつもりなのか、すぐに離れていく。

取り残された2人が声を上げて顔を見合わせた。

葵は恥ずかしくなって、すぐさま俯いた。

「・・・」

緊張のボルテージが高まっていく。

首から上が暑苦しくなってきて、焦りと苛立ちが増していく。


ああ暑い、氷が欲しい。

あなたは誰ですか?

お名前は何ていうのですか?

女神様に出会ったのですか?

あなたの肩から出ている光は何ですか?

これから、私たちはどうなるのでしょうか?


スカートの裾を強く握る。

「ここ、良いですよね。噴水」

男の人が後ろ頭を掻きながら言った。

瞬間、張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れた。

「あんたねぇ!!それどころじゃあないでしょうがぁ!」

葵は叫んでいた。 



あまりにも気まずかったのか、

男の人は飲み物を買いに行ってしまった。

自己紹介もまだなのに。

葵は頭を抱え込んだ。

「またやっちゃった・・・」

出会った時よりも、

さらに大きな声で叫んでしまったことが悔やまれる。

「うがぁー。なんで私はこうなんだ」

頭皮をガジガジと掻いていると、彼が戻って来た。

今更格好をつけても遅いような気もするが、

葵は髪の毛を整えて、姿勢を正した。

「あの、えっと・・・じ、自己紹介しませんか」

ありがたいことに、彼の方からそう切り出してくれる。

葵は神に感謝したい気持ちだった。

「サトウユキです」

サトウユキ。良い名前、優しい響き。

どう書くのか訊くと、

ユキはスマホに文字を打って見せてくれた。

佐藤 結希。

葵はいつもの癖で、彼の苗字に自分の名前を合せてみた。

佐藤葵。悪くない。

何考えているんだ。初対面だぞ。

葵は赤面しながら俯いた。

散らかり放題な自分のこころを落ち着けるために、

ゆっくりと深呼吸をする。

結希の肩を見ると、金色のオーラが輝いていた。

近くで見ると眩しいくらいだ。

この人はやっぱり特別だ。きっと、女神様と関係がある。

葵は覚悟を決めた。

昨日の晩から、自分が先に話すと決めていた。

「変な話だと思うかもしれませんけど、

聞いてくれますか?」

いじめに遭っていたこと、自ら命を絶ったこと、

フォルトゥーナに出会ったこと、

生き返った後は、ずっと引きこもっていたこと、

最近ようやく外に出て、キラリーランドと噴水公園に行ったこと、

葵は最近の出来事を全て話した。

「もしかしたら、意味わかんないかもしれないんですけどっ」

しばしの沈黙があった。

耐えきれなくなった葵が結希を見る。

狂った話をいきなりされたのに、

そこには驚きも、軽蔑もなかった。

「たくさん、いろんなことがあったんだね」と彼は言う。

「私のこと、おかしいって、思わないんですか?」

葵の目が熱くなる。

「思いません。だって・・・」

結希が葵の方に体を向けた。

葵の膝に彼のがすこし触れる。

「じゃあ、僕の番ね」

結希が話を始めた。

「僕、小さな頃から、両親とうまくいっていなかったんです」

自分と同じだ。葵はどきりとする。

「小さい頃から?」

「はい」

少しだけ、自分と結希は違っていた。

葵の場合は、仲の良かった家族がバラバラになったのだが、

結希の家庭は、出来た時からバラバラだったのだ。

最初からこころが離れている家族というのは、

どのような感じなのだろうか。

葵は寂しかった。

両親が離れ離れになるときは、自分の半身を失う思いだった。

結希は寂しかったのだろうか。

話している間でも、彼のオーラからは憎しみは感じない。

あるのは寂しさと、少しの悲しみ。

彼のオーラから何かを汲み取ろうと目を凝らす。

しかし、それより深く推し量るには至らない。

「高校からはアルバイトをして、お金を溜めて・・・」

「すごい」

素直な言葉だった。結希は恥ずかしそうに耳を赤くした。

「そんな大したことじゃないです。簡単なバイトだったし」

「いえバイトもそうですけど。自立しようってところも」

結希がほんの少しだけ笑った。

「わ」

白い画用紙に、尖った鉛筆で真っすぐな線を引く。

もっと描けるのに、たくさんの色もあるのに、

ただそれだけで終わり。

彼の笑顔は、そんな儚くて物足りなさを感じさせた。

もっと見たい。

真っ直ぐな線だけではなく、彼の書いたたくさんの線と、

いろんな色がついた笑顔を見たい。

冷たそうな頬に触れて、

自分の体温を半分分けて、ほかほかに温めてあげたくなる。

そこまで考えて、葵は猛烈に恥ずかしくなった。

「わ、私は思っていても何もできなかったから」

恥ずかしくて彼の顔が見られなくなる。

下を向いたまま大人しくしていると、結希はまた語り始めた。

大学を卒業して就職した結希は、その後すぐに亡くなり、

フォルトゥーナに出会った。

そこで、これから地球が変わっていく運命だと知る。

これは葵と一緒だ。

その後、生と力を与えられた結希はすぐに行動を始めた。

これは葵と違っていた。

先程とは違う恥ずかしさが葵に詰め寄る。

結希は激しいトレーニングで体を鍛え、

本を読んでたくさんの知識を得ていった。

その中で、フォルトゥーナからもらった2つの力である

『トールの雷』と『困難を与えられるほどに強くなる体』

がどういう能力なのか分かったという。

「びっくりしたんですけど、本に書いてあったんです」

「本?」

「古い英語の本です。図書館で借りることができて。

とても古い本でした」

『トールの雷』は雷を操る力。

『困難を与えられるほどに強くなる体』は、

体が傷ついたり、疲れたりした後に休んで回復すると、

以前よりも大幅に強くなれる力だという。

「どんどん体が強くなっていって、

その・・・信じられないかもしれないんですけど、

電気の力も強くなったんです」

「ちょ、ちょっとまってっ。

佐藤さん、本当に電気が使えるんですか?」

「はい。すごく危ないので、ここでは使えませんけど」

結希の仕草から、冗談を言っているようには見えない。

「ほ、ほんとなんだ・・・」

「いいんです。こんな話、なかなか信じられないでしょうし」

「信じますっ。信じるに決まってる。

私だって、自分が化け物になったかもって、すごく不安で。

フォルトゥーナ様に出会った時のことも、夢かもって。

だから、同じことを経験した佐藤さんに出会えて、嬉しいんです」

いつの間にか前のめりになって捲し立てていた。

「ごめんなさい」

葵は飛び跳ねるように結希から離れた。

結希は一人でも、いろいろなことを試して自分の力を知ろうとした。

対して葵はどうだろう。

葵は生き返ってからの数日間、無為に過ごしてはいなかったか。

挙句の果てに、フォルトゥーナからもらったリボンを落としてしまった。

「葵さんの力は何だと言われたんですか」

結希が興味津々な様子で言った。

「私は、『真実を見通す目』と、『四人の従者』

という力をもらいました。

何となく人の考えていることが解るっていうか、

何か見えるっていうか、よくわからないんですけど」

フォルトゥーナからもらった力を、

あまり理解できていない自分が恥ずかしい。

「そうですか」

葵が落ち込んでいると結希が、あの、と遠慮がちに言った。

「僕も、最初はわからなかったんです。

でも、ある人が自分のために探し物をしてくれて、

それで、神様にもらった力が何なのかわかったんです。

わかる時って、タイミングがあるんだなって思いました。

葵さんにもきっとありますよ」

結希の顔を見るて、自分が慰められたのだと気付く。

葵は結希がどんな人かをずっと捉えきれずにいた。

優しくて、動きはゆっくりで、

表面的にはぼんやりしているように見えるが、

繊細でよく気が付くところもある。

「ありがとうございます。そうですね」

帰る時間になって、葵は今日この時間が、

楽しかったのか、それとも苦しかったのか考えてみた。

答えは出ない。

だた、言いようのない興奮と、結希との離れ難さがあった。


   ◇


何かが割れる音がして葵は目が覚ます。

今度は何かを叩き落とす音だ。

葵は上半身をバネで押されたみたいに跳ね起きた。

誰がやっているかはすぐに分かった。

「おかあさんっ?!」

過度な緊張が葵を満たす。

リビングに行くと母親がいた。

足元には割れたガラスのかけらが散らばっている。

その他にも、雑誌やテレビのリモコンが頃だっていた。

母親は背中に黒い幻影を纏っていた。恐ろしくて目を背けたくなる。

ダメな日だ。

母親は葵を一瞥すると、冷蔵庫からお気に入りの缶チューハイを出した。

その様子を見て、身体が強張って動かなくなる。

1本を飲み込むと、母親は次の缶を手に取った。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

葵は声にならない声で、謝罪を唱えていた。

2本目を一気飲みした母親が目の前にやってくる。

極限まで緊張が高まり、

振り子のように景色が左右に揺れた気がした。

「連絡あったわ」

母親が言い終えると同時に、ぴしゃり、と葵の頬がはじけた。

視界が揺れる。平手打ちをされたのだ。

不思議と痛みはなく、寒気のようなものが背中に生じた。

「学校に行ってないなんて、どういうつもり?」

葵のこころに、下手な素人が鋸を引いた木材のように、

見るも無残な傷口ができる。

「お金、かかってるのよ」

酒が回ってきたのが顔を紅潮しつつある母親が、

葵の前髪を掴んで引っ張った。

「い、痛・・・」

顔に曖気を吹きかけてきた母親の目には全く迫力がない。

手にも思ったほど、力が入っていない。

それなのに、恐怖で葵は死んでしまいそうだった。

膝が震えて立っていられない。

「外に出歩いてるって?」

膝の力が完全に抜けた葵は尻餅をついた。

その拍子に、髪がひっぱられて数本抜ける。

もう自分は抜けた毛みたいにさらさらと地面に落ちて、

朽ちて無くなるしかない。

「もしかして、男?」

「男なんているわけないじゃん」

母親は、葵が学校に行かないから怒っているのではない。

葵が自分の知らないところで、

父親を連想させるような行動をとったことを怒っているのだ。

誓って不貞ではない。母親を裏切る気もない。

「どうしようもない子ね」

葵は母親の目から漏れる、青白い光を認めた。

「ぜんぶ、あんたのせいよ」

中身のない、空虚な涙が葵の頬を伝う。

「泣きたいのはこっち」

口に怒気が込められる。

母親も葵も、父親と別れた悲しみから未だに立ち直れていない。

「あの人と同じよ、あんたも」

まるで机の上に溜まった消しゴムのカスを、

手の甲で払い落すような言い方だった。

「しばらく家には帰らないから」

おぼつかない足取りで、母親が葵から離れていく。

「待って。行かないで」もちろん言えない。

それ以前に、息をすることができない。

おかあさん。そんなつもりじゃないの。

荷造りを終えた母親が玄関から外に出ていく。

私、学校でいじめられているの。

足音が遠ざかって、やがて聞こえなくなった。

つらくて、学校に行きたくないの。ねぇ。たすけて。

伝えたいことは、何一つ口からは出てこない。

学校に行かないと。

葵に残された道は、それしかなかった。

これ以上母親に迷惑をかけるわけにはいかない。

どうしても、行かなければならない。

葵は遅々と立ち上がって時計を見る。

学校にはまだ十分間に合う。呆然としながら制服の袖に手を通す。

鏡に映った葵の顔は涙で濡れていて、

やつれていてみすぼらしかった。

顔も洗わず乱れた髪も梳かさず、そのまま外に出る。

ふと顔を上げると、すべてが灰色で、

人もコンクリートも何もかも同じに見えた。

もし、結希が隣にいたなら、何か違っていただろうか。

約束をふいにしてしまったが、葵にはどうもすることができない。

やがて到着した学校は大きな監獄に見えた。

あれは葵という罪深き囚人を入れる箱だから、

どうしても逃げられないのだ。


   ◇


葵の通う学校は数年をかけて、

改築増築を繰り返して歪に拡大していた。

職員室の隣に教室があったり、美術室が校舎の中心部に位置したり、

廊下の先に教室があって、その教室を横切らないと

奥の音楽室に行けなかったりして、さながら迷路のようになっていた。

校門を潜るとすぐに運動場がある。

校舎に入るには大きな運動場を横切る必要がある。

運動場にはたくさんの部活が朝練をしているため、

横切っている間はみんなの注目を浴びているようで落ち着かない。

葵はここを通るのがいつも大嫌いだった。

無意識に両手で鞄を抱えたが、手の震えは止まらない。

バタバタと布が風に煽られる音がして、無意識に顔を上げる。

校舎の2階には、いくつかの部活が大会で優勝、または準優勝を

したことを示す横断幕がかかっていた。

『女子テニス部 地区優勝!!』と書いてあるのが目に入り、

葵は口を押さえた。

テニス部はいじめグループのリーダーである

平野と多くのいじめっ子が所属している部活だ。

「う、え・・・」

最近はずっと治まっていた胃の痙攣が始まる。

救急車のサイレンの音がする。

音は離れてしまってからも耳の中で響き続け、

やがて頭いっぱいに広がった。

これは警鐘だ。

逃げなければ死ぬと本能が叫んでいる。

引き返そうとした時、笑い声が聞こえた。

朝練を終えた女子の一団が、校舎に向かって歩いている。

その中の1人―――よりによって平野だった―――と目が合った。

目は一瞬だけ見開いたあと、獲物を見据えた肉食獣のように

細く醜くすぼまった。

「はぁ・・・はぁはぁ・・・」

葵は息が苦しくなって足を止めると、

普段は感じない太ももの重さをずっしりと感じた。

「はぁ、はー、はーはー、ひ」

呼吸音がおかしい。

おかしいのが分かっているのに、どうしてもうまくできない。

葵の呼吸はどんどん激しくなっていく。

「ひぃーひぃーひぃー」

悲鳴のような呼吸音が、他人事のように聞こえた。

膝をついて、胸を押さえた。

周りにどよめきが生まれて、葵の羞恥心が膨れ上がる。

遠くなっていく意識の中で、葵は思い出した。

父親と母親がまだ離婚しておらず、

年季の入った一軒家を借りて住んでいた頃、

キッチンの水道から水が漏れていることがあった。

水道にはネジとゴムパッキンが仕込まれていて、

それが圧力をかけられた水をしっかり止めてくれるのだと

父親は説明してくれた。

水道の水には圧力がかかっていて、

いつも外に出ようとしているのだが、

それを蛇口とパッキンが押さえ付けて、

ようやく水漏れが防げている。

ほんのわずかにでも隙間ができてしまったら、

水は吹き出して、あたり一面水浸しになってしまうだろう。

父親が説明をしてくれた言葉を反芻する。

「赤井さんっ!!」

声の後、誰かの手が肩に置かれた。

顔を上げようとしたが、うまくいかない。

「大丈夫。慌てないで。

あなた達は、大丈夫だから教室に行きなさい」

周りにあったたくさんの気配が離れていく。

背中に添えられた手が温かい。

息を吸おうと思って、上手く吸えない。

「いい?」

羽生がゆっくりと言った。

「今は吸うより、吐く方が大事なの」

わずかに顔を上げると、少しだけ目が合う。

女の人だった。

「ゆっくり吐いて」

こんなに息が苦しいのに吐けと言われても、

なかなか怖くてできない。

吸いたくなるのを我慢して、必死で息を吐く。

少しだけ出た。次第に呼吸が楽になっていく。

気が付けば、葵はいつも通りの呼吸に戻っていた。

女の人が大きなため息をついた。

「赤井さん。ああ~よかった」

手足がしびれている。軽い酸欠状態になっているのかもしれない。

立ち上がろうとしたが、うまくいかない。

焦る葵の隣に、女の人が座った。

「こうしてたら、恥ずかしくないでしょ」

登校する生徒が通り過ぎていく中、

葵と女の人は、しばらく黙ったまま座っていた。

「あ、あの。もしかして、羽生さん?」

女の人が頷く。

「今日は連絡が無かったから、なんとなく校庭に出ていたの。

そしたら、あなたが来たから」

羽生がそこまで言って口を噤む。

「ありがとうございます」

羽生がハンカチを貸してくれる。

自分の顔に触れると、顔が汗と涙でぐちゃぐちゃだった。

「うわ・・・私ったら」

「大丈夫。落ち着いたら、ちょっと保健室に行きましょう。

顔も洗った方が良いわ」

「はい」

担任は保健室で休んでいる時にやってきた。

養護教諭が無遠慮に入ってくるのを止めて、

そこにすかさず羽生が説明に向かってくれた。

結局葵は担任と話すことなく、そのまま保健室で過ごすことができた。

「ありがとうございます」

羽生が腰かけると、養護教諭が温かいお茶を出してくれた。

「この人。仲良しなの」

羽生が養護教諭に指さしていたずらっぽい笑顔になる。

養護教諭が咳払い一つして、羽生を肘でつついた。

「羽生先生は、私と同期なの。

赤井さんは全校集会の時に何回か見ているけど、

私のことはあんまり知らないでしょう?」

養護教諭が、植山です、と自己紹介をしてくれる。

「先生方、ありがとうございました」

葵が頭を下げると、2人は顔を見合わせて笑った。

「植山先生は先生だけど、私はただの事務員だから」

「で、でも、植山先生も、羽生先生って」

植山が笑った。

「羽生先生が、羽生先生だった頃の癖で、

つい言ってしまうみたい」

植山が掌をひらひらと振る。

「さっきの過呼吸、今までもなったことあるの?」

羽生が言った。

「い、いいえ。初めてなりました。苦しくて」

「過呼吸は、何か大きな悩みとか、

ストレスがかかると出てしまうの」

葵は息を呑んだ。

「そんなことありません」

思わず嘘をついてしまう。

「ねぇ、赤井さん、ちょっと聞いてくれる?

ちょっと語っちゃうかもだけど」

戸惑いと覚悟を滲ませた声だった。

葵は無意識にカップを握る手に力を込める。

「はい」

「初めて電話がかかってきた時、赤井さん良いなって思った。

赤井さんって、とても深く考えながら話すよね。

そういうところ。

本心を言うとさ、私あなたとまた話したかったの。

先生辞めたから、生徒と話せるのが嬉しかったのもあった。

また話せたときはすごく嬉しかった」

羽生が言い終えると、ふぅと息を吐いた。

羽生の肩や首から、細い糸のようなオーラが出ている。

それが葵に向かって伸びて来ようとしている。

葵は手を伸ばして触れてみる。

とても暖かくて、涙が出そうになる。

「赤井さん一昨日、担任の先生に、

私とは話しやすいって言ってくれたんだよね?

私に責任が行かないように」

「い、いえ」

「今まで影の薄かった事務員が、いきなり目立つことするもんだから、

噂になってるわよ」と植山がふざけた様子で割り込んでくる。

羽生が植山をにらむ。

「赤井さん私ね。もうすぐここを辞めるの。だから、気にしないでね」

「ど、どうして」

羽生が一口お茶を飲んでから窓の外を見た。

まだまだ暑いが、夏の終わりを示唆する風が吹いている。

「今回の件じゃなくて、もう何年も前から決めていたの。

でも、結局長引いてこんな時期になっちゃったけど」

植山が寂しそうな顔で羽生の横顔を見ている。

葵も会ったばかりの羽生がいなくなってしまうことが寂しかった。

「そうなんですか」

「そうそう。丁度よかったの。最後に格好つけられたし」

植山が吹き出して羽生の肩を叩く。

つられて笑った羽生が目の端に涙をひっつけたまま続けた。

「だから、ありがとう」

羽生が頭を下げる。葵の方こそお礼を言いたかった。

「い、いえ、私の方こそ・・・」

「羽生先生の自己満足なんだから、

お礼なんて言わなくていいのよ」

植山が言ったので、羽生が大きく肩を竦めて見せる。

「で、今度は赤井さんの番なんだけど」

上からでも下からでもなく、対等な視線を向けられる。

「え?」

「赤井さん、学校で何かあったんでしょう?」

憐れむのでもなく、心配するのでもなく、好奇心でもない、

ただ葵に向き合うために放たれた言葉だった。

「わ、わたし・・・」

2人が見ている。

それなのに言葉が出てこない。

「私が悪いんです」

何とか絞り出せたのは、そんな一言だけだった。

植山が長い息を吐いたのが分かり、葵は肩を震わせた。

また失敗したのかもしれない。

「赤井さん。聞いてくれる?」

「は、はい・・・」

「私思うんだけど、赤井さんは少数派の人だと思う」

話が掴めないでいるところ、植山がお茶を勧めてくれる。

一口飲むと体が温まって少し楽になる。

「人の気持ちを考えて話ができる人って、実は少数派なのよ。

人の気持ちを考えて行動を変えられる人は、さらに少ない。

悲しいけど、人はそんなに人のことを考えて生きているわけじゃない」

確信めいた言い方だった。

羽生の言っていることは、葵の考えもしなかったことだったので、

戸惑いが大きい。

そんな考え方があるのだ。

「人の気持ちを考えられる赤井さんは、少数派の人だと思う。

少数派の人は、自然と多数派の人に認めてもらえないことが多くなる」

額を青くしながら話す羽生の目には、覚悟の色が見える。

「でも、私は多数派だから正しくて、

少数派だから間違っているとは思わない。

大多数の人の意見が間違っていたことって、

歴史を遡ればたくさん出てくるのよ。

ただ、多数派の方に力が偏ってしまうだけ」

あなたは間違っていないと言ってもらえたような気がした。

すかさず植山が「羽生先生は社会の先生です」と茶化す。

みんなが同時に笑った。

葵は事実を話した。

両親が離婚して苗字が変わった辺りから、いじめが始まったこと。

唯一話してくれていた友人が、最近離れていったこと。

胃が痛くなって、このままだと死んでしまうと思ったので、

学校を休んだこと。

昨日学校から母親に連絡がいったことで、

今朝怒られて仕方なく学校にきたことなどを

フォルトゥーナや世界のことを伏せて説明する。

羽生が植山と目を見合わせてから頷いた。

「お母さんには、担任の先生から事情を伝えてもらうけど、いい?」

事実を話したら、きっと大人たちはそう言うと思っていた。

だが、どうしたらよいのだろう。

学校からの連絡で事実を知った母親は恥をかくことになるだろう。

そしてきっと、葵がきちんと伝えなかったことを怒る。

だが、今は自分の力では会うことすらできない母親に、

いじめのことを知ってもらいたい気持ちもある。

「どうしよう・・・」

「私は知ってもらっていた方が良いと思う」

担任の先生に言うということは、他の先生にも知られるということだ。

先生に知られるということは、生徒にも知られるということになる。

打ち明けた秘密は、必ず漏れていく。

葵はそれを小学生の時に参加した女子会で学んだ。

「怖いんです」

「仕返しされるかもって?」

察しの良い羽生の機微に思わず息が止まる。

止めたままゆっくりと頷いた。

「そう」と言って羽生が灰色のため息をつく。

「わかった。誰にも言わない」

「羽生先生」

植山の声には羽生を非難する色が含まれていた。

「仕方ないでしょ。こういうのは、こころの準備がいるんです。

外で待っている担任と学年主任には、

勉強のストレスとか適当に言っときましょう」

羽生が立ち上がり、外で待っていた学年主任と担任を招き入れた。

やや狼狽した表情だった植山は、

いつの間にか毅然とした表情になっており、

事情を話している羽生の言葉に頷いている。

「今日は帰りなさい。

お母さんにはもう少し休んでもらえるように言っておくから」

と一通りの話を聞いた学年主任が言った。

学年主任は葵を迎えに来てもらえるよう、

すぐ母親に連絡をしてくれたが、つながらなかった。

葵は少し休んでから徒歩で帰宅することになった。

裏門からこっそりと外に出た葵を、羽生が見送ってくれた。

羽生が神妙な面持ちで手を握ってきた。

「葵ちゃん」

呼び方が変わっていた。思わず顔を上げる。

「あなたは悪くない。また電話ちょうだい」

手の中には、羽生の連絡先が書かれたメモが入っていた。

幼い頃の母親と同じ、優しい瞳が葵を見つめている。

胸が苦しくなる。

目の前が歪んで何も見えなくなる。

今まで感じてきた苦痛とは全く違う苦しさが、胸に広がっていく。

すると、羽生の手が葵の頭をゆっくりと撫でてくれた。

ここ数年は叩かれてばかりだったので、頭に触れられるのは怖かった。

だが、撫でられているうちに、恐怖感が

言いようのない安らぎに変わっていく。

こんな良いことが自分に起こっても良いのだろうか。

明日、突然何もかも失われてしまわないだろうか。

葵は祈った。

羽生との繋がりが断ち切れないものであるように、

きっとこの先も続いて行きますようにと。

胸の辺りがとても温かい。

温かさは広がって光を放ち始める。

他の人には見えていない。

「あ、え・・・なにこれ」

光は収束して細い糸のように伸びていく。

やがて糸は遠くにある何かと繫がった。

「わ」

遠くに、葵と小さな2つのこころを感じる。

2つのこころと葵のこころが、

糸電話のような細い光によって繫がれたのだ。

糸を通して、2つのこころから鼓動が響いてくる。

どっどどっ・・・どっどど・・・。

胸を押さえると、鼓動が全部で3つになっていた。

ひとつは葵の分、そして残りのふたつは小さなこころの分だ。

自分以外の鼓動が近くにあるというのは、

奇妙だが、嫌ではない。

誰かに抱かれたような安心感に葵は包まれていく。

「赤井さん?」

羽生を見た。

羽生はまだ葵の頭を撫でてくれている。

こころから伸びている糸も光も、羽生には見えていない。

「ありがとうございます」

葵が素早く頭を下げると、羽生が「うおぉ」と声を出して仰け反った

「羽生先生のおかげで、元気が出ましたっ!」

羽生が変顔をしているのかというくらい、

目を見開いて口をひくひくさせている。

「うぇ、ああ、うん。それは良かった。あんまり無理しちゃだめよ」

「はい。また明日、連絡しますね」

手を振りながら羽生と別れる時、フォルトゥーナの声が聞こえた。

聞き間違えなどではない。葵が成長したことを告げる言葉だった。

葵は独りではない、孤独ではない。

今も聞こえてくる小さな2つの鼓動が教えてくれる。

このまま結希に会いに行こう。

すぐにでも、自分が成長したことを報告したい。

葵は結希の元へ走り出した。

私は「NARUTO」を愛読していました。

次話は、来週に投稿いたします。

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