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126話 キーラ 清十郎 葵 すず

ろくに狙いもつけていなかった主砲はロックを見事に貫いた。

しかし同時に、ムーンスティーラーの脚部が衝撃で折れ曲がり、

機体が真後ろに倒れ始める。

主砲の強さに機体がもたなかったのだ。

勢いよく倒れる機体の中で、キーラはソーニャの頭を抱いた。

「まったく。とんだ設計ミスだな・・・」

キーラが残念そうに言うと、

「ぃやああああ・・・それどころじゃないってぇぇえええ!」

すずが絶叫した。

轟音が響き渡ると、モニターがぷっつりと消えて、

コクピット内が真っ暗になる。

「い・・・いてて。

ソーニャ、大丈夫?」

「うんっ。だいじょーぶ!」元気な返事が聞こえてほっとする。

キーラは頭を押さえながら、

『賢者の真心の王国』を開き、ドローンから外の映像を表示した。

「まずいな」

バラバラになった黒豹の死体が蠢いて、また姿を変えつつあった。

キーラは『賢者の真心の王国』を開いて、

ムーンスティーラーの修理に取りかかった。

「みんな、大丈夫か?」

「はい・・・なんとか」

脚部と両翼は完全に壊れていたので、修理するよりも

アームを強化して歩行できるよう作り変えた方が早い。

キーラは主砲を含めた兵装全てを捨てた。

機体の重量を軽くしなくてはアームで歩行することは難しいからだ。

「スカウトさんは無事ですか?」

「うん・・・すやすや寝てる」

「ええ? こんなになっても・・・?」

突貫ではあるが、何とか歩行可能なゴーレムができる。

兵装以外にも、ボディのほとんどをそぎ落としたので、

全体の大きさはハンヴィー2台分といったところだろう。

ほとんどコックピットだけになった

ムーンスティーラーを立ち上がらせる。

「よし。何とか立ったな」

モニターとセンサーの修理が間に合いそうになかったので、

キーラはコックピット前面をパージさせた。

一気に外の空気が室内に飛び込んでくる。

焦げ臭い煙は戦いの匂いだ。

キーラはゆっくりと旋回して、ロックの身体を正面へ向けた。

粉々にちらばったロックの死体は

また何かを形作ろうとしていたようだったが、

力を失い黒い液体になって、地面に広がっていった。

「うおお・・・溶けてくぞ!」

「死んだんじゃないか?」

「油断しないで下さい」

「あ、あれっ見て・・・!!」

すずが広がった液体の中心部を指さした。

「何かいる」

キーラはムーンスティーラーを一歩ずつ進ませた。

「あ、葵だっ!!」

液体の上に浮かんでいるのは、紛れもなく葵だった。

だが、気絶しているのか、まったく動いていない。

「キーラくん急いで! 溺れたら大変っ」

ベルトを外したすずが、

今にも飛び出しそうな勢いでキーラの肩を掴んだ。

「わかってる!」

キーラは急いでムーンスティーラーを進めるが、

絡みつくような黒い液体のせいで関節が詰まってしまう。

「ちくしょう。動かないっ」

キーラは何とか引き抜いたアームを慎重に伸ばした。

アームを伝って行けば、何とか彼女の真上まで辿りつけそうだ。

キーラはベルトを外すと、コックピットから這い出た。

「キーラっ。無茶するな!」紫の怒声が聞こえる。

「みんなは待ってて!!」

後ろに向かって叫ぶと、葵の元へ走った。

途中で滑って転びそうになった時、後ろから伸びてきた手につかまれた。

「キーラ!」「キーラくん」すずとソーニャだった。

3人で協力しながらアームの上を渡っていくと、

何とか葵の真上まで到達する。

ぐらぐらと揺れるアームに寝そべって手を伸ばすが、

届きそうで届かない。

「ちょっと代わって」すずがキーラを退けて手を伸ばした。

その時だった。

「わ」

黒い液体から伸びてきた触手に囚われて、3人は落ちていった。


   ◇


「わー!! 落ちてったぞ!」

3人の様子を見守っていた紫が耳元で大声を上げた。

「早く助けにいかなきゃ!」

立ち上がろうとした伊都子がベルトに引っかかってうめき声を上げる。

その時、三毛と虎と銀がアームを伝って走っていくのが見えた。

「あ・・・ちょっと、三毛ちゃんと虎ちゃん。

それに、銀ちゃんまで!」

3匹がすず達を追うように、黒い液体に飛び込んでいった。

沈んだままいつまでも上がってこない。

「・・・おいおいおいっ。どうすんだコレ?」

清十郎は紫と伊都子と目を合わせた。

「俺達だけになっちまった」

「どうしましょう!?」

途方に暮れていた時、

「あーうるさいうるさい。

寝てるんだっての」

腕の中で眠っていたスカーが盛大に顔をしかめた。


   ◇


葵は一切抵抗しなかった。

天地がひっくり返るような衝撃とともに、落ちて沈んでいく。

夏の終わりのプールは少し冷たく、少し緑色に濁っていた。

いじめグループ子達が盛り上がっているのが、水中にいてもわかった。

もう、この光景をどれだけ繰り返しただろう。

このまま沈んでいたい。

だが、すぐに立ち上がって苦しい顏を見せないと

みんな満足しないだろう。

おずおずと水面から顔を出す。

するとみんながまるで青春の1ページのように笑った。

なんだか大切なことがあった気がするのに思い出せない。

ただ、目の前の悲しみでこころが一杯になっていく。

みんなが笑っている。

自分は今、そんなにおかしい顔をしているのだろうか。

「そんなに・・・」

みすぼらしいか。

おもしろいか。

みっともないか。

そこへ「どうしたのー?」という間の抜けた声が響いた。

葵にはそれが、山﨑君の声だとすぐに分かる。

あこがれの人。

反射的に顔を背ける。

何でこんなときに。

胃を丸々吐き出して雑巾にように絞ったら、このくらい痛いだろうか。

粘り気のある澱のようなものが、体中にへばりついてくる。

その中で、俯いたまま葵は身動きもできない。

山崎君が、プールの脇に立っている同じ弓道部の男子に声をかけている。

見ないで。

見られたくない。

そう思っているのに、どうしても視線は彼を追ってしまう。

目が合うのは、時間の問題だった。

彼が目を見開いた。

その目は、トイレ掃除の当番になった思春期の男子高校生が、

汚れを発見した時のような、落胆した目つきだった。

他の子達は、山﨑君がどんな反応をするのか見逃さないよう、

静かに様子を見守っている。

「じゃ、じゃあ、俺部活あるから」

引き攣った笑顔でみんなにあいさつをしてから、

山﨑君は離れていく。

一呼吸おいてから、全員の大爆笑が耳をつんざく。

こころに沈黙が訪れる。

好きだった。尊敬していた。

こんなこと、とても耐えられない。

小さなサイレンのような唸り声を出しながら泣いた。

あーあ、泣いた。きも。やば。

でたーガチ泣き。

これ、泣いたら許されると思ってるやつじゃん。

次々に溢れる涙を拭いながら、葵は水面と一緒にゆらゆら揺れた。

今日だけはこんな想像しても良いだろう。

それは、他の誘いを断ってでも助けに来てくれる、

シジュウカラのような友達が、自分を救い出してくれる想像だった。

当然のことだが、そんな奇跡は現実には起きない。

「ちょおっとまったぁああああ!!!」

声は唐突に響いた。

「あー・・・やっと見つけたわー!」

息を切らして、フェンスに手をかけたのは、汗まみれのすずだった。

「・・・すず、ちゃん?」

「待たせたわね」

すずはまるで、友人にするみたいに笑いかけてきた。

こんな奇跡が起こってもいいのだろうか。

「あおいー。いた!!」

すずの隣には、魔法のように可愛らしい女の子がいる。

両隣には2足歩行の不思議な猫。そして白銀の狼。

すずがフェンスを鷲掴みにして昇り始めた。

「・・・なんで、こんなところまで」

平野は心底驚いているようだった。

フェンスを乗り越えたすずは、平野達を押しのける。

「うっさい!!

友達だからに決まってるでしょうが!」

すずがプールに飛び込んでこちらに泳いできた。

夢にまでみた葵の隣へと。


  ◇


プールの真ん中で、氷のように冷たくなった体を抱きしめる。

「待たせてごめんね、葵」

黒い液体に飲み込まれた先にあったのは、

葵が経験した記憶の世界だった。

この世界は、飽きるほどの絶望を何度も繰り返していた。

両親の確執。劣悪な家庭環境。

そしていじめ―――すず自身もその一端を担っていた。

彼女は独り、運命に襲われ続けていた。

「こんなところで、ずっと1人で・・・」

彼女の孤独を思うと、胸が引き裂かれそうになる。

腕に力を込めると、びしょ濡れになった葵の瞳がゆれた。

「ずっとあんたに嫉妬してた」

「嫉妬・・・? すずちゃんが?」

記憶が混同しているのだろう。葵は訳がわからないようだった。

「ずっとさ、あんたの読む本が気になってた」

「本?」

「教えてよ。いつも放課後に、どこに行っていたのか」

「う、うん。

黙っていてごめんね」

すずは葵の手を取り、ゆっくりとプールサイドへと誘った。

自分が先に上に上がると、彼女の手を掴んだ。

「葵。

まだ、戦いは終わってないんだよ」

葵の目がまっすぐにこちらを見る。

目の力が戻ってくる。眩しいほどに。

「うんっ」一緒に立ち上がり、平野達に身体を向ける。

勇気を出すべき時だと思った。

正面から葵の味方をすることで、敵ができたとしてもかまわない。

「あなたたち、私の友達にこんなことはやめてっ」

すずの決意を受けて、平野達が煙のように消えていく。

ずっとこれがしたかった。鼻の奥がつんと痛くなる。

「私なんかでいいの・・・?」葵が泣き、

「わたしなんかで、よかったら」すずも泣いた。

濡れた顔で葵が笑う。彼女の頬に自分のをくっつけた。


   ◇


空が暗くなったと思ったら、真っ黒な犬が目の前に立っていた。

<葵を助けに来たの?>ロックの不気味な声が響く。

「そうだよ」ソーニャは葵とすずを庇うように前に出た。

「僕もいる」キーラがソーニャの隣に来てくれた。

がうがう。にゃーにゃー。

仲良しの三毛虎と銀もいるので心強い。

「もう、葵をいじめないで!!」

「そうだよっ! もうやめろよっ」

ソーニャとキーラがロックへ向かって叫ぶ。

<こんな子どもが、ここまで助けに来るなんてびっくりだ>

ロックは本に出てくる悪魔のように囁いた。

ソーニャはポケットの中に入れていたどんぐりを取り出した。

配送センターから連れてきたけど、

どこにも植えさせてくれなかった、変わり者のどんぐりだ。

「これ!!」

ソーニャがどんぐりを握った手を差し出す。

<えっと・・・それ。 どんぐりか>

ロックが後ろ足で首の辺りを搔いた。

「そうよ。どんぐりよ!

あなたにあげる!!」

ソーニャはロックに近づくと、手を思いきり伸ばした。

しかし、届かない。

ロックの口はずいぶん髙くにあるからだ。

「ちょっとだけ頭を下げて!」

<あきらめなよ。

てか、そのどんぐりが一体なんだっての?>

「ソーニャ。銀の背中に乗って」

キーラが銀を連れてきて背中に乗せてくれる。

これなら届きそうだ。

「もうちょっと、ロックのそばに行って」

銀はちょっと嫌そうな顔をしながらも、ロックの隣に立った。

<やだ>

ロックはいきなり首を伸ばしてキリンになった。

あまりの背の高さにあぜんとする。

「ずるいー!!」「ずるいぞ!!」2人で猛抗議する。

<ずるくないよ>

「食べてよー。おいしいよー」

なるべく怪しまれないように言ったが、ロックはだまされない。

<嘘だね。

それは毒だ。食べないよ>

ソーニャは銀の頭まで登ると手を伸ばした。

「うーん。うーん」全然届かない。

<涙ぐましい努力だね>

「三毛―。虎―。手伝ってよぅ」

三毛と虎が銀の頭まで登ると、ソーニャを抱えてくれた。

少しだけ背が高くなるが「うーん。とどかないー」

「葵ー。すずー手伝って―」

「わかった!」手を繋いだ葵とすずがやってきた。

2人は三毛虎の身体を支えると、「よいしょー」と持ち上げた。

もう少しだけ高くなる。

それでも全然キリンの口には届かない。

「うーん。とどかないー」

どうして自分は小さいのだろう。

結希や紫のような大きな体が欲しい。

「た・・・助けてよー・・・・誰か」

うなだれると、ロックがいじめっ子みたいに笑った。

無力なソーニャを笑っているのだ。

その時だった。

「ふがぁあああ~~」

大あくびをしているスカーの顔が、目の前に現れた。

「スカー?!」

「そうよ。わたしのお姫様」

スカーは柔らかい唇でソーニャにキスをしてくれた。

隣にいる清十郎も顔を出す。

「ソーニャ。つかまって」

「ジュ―ロー」

清十郎とスカーにつかまるとすぐに、

<ちょっとちょっと、反則じゃない?>

困り顔になったキリンの顔が目の前にくる。

「そんなことないわ」ソーニャはにっこりと笑った。

どんぐりを、ぽいっと口に放り込んだ。

ありがとうございました。

メリークリスマス。

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