表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/135

112話 フォルトゥーナ

<ミーミル>

女神は弟に声をかけた。

ここは何もかもが巨大である。

<姉さん>

見渡せる窓際から目を放すと、ミーミルがこちらを向いた。

緑色の瞳孔内には、流星のような輝きの残像があった。

見ているフォルトゥーナのこころが、振り子のように揺れる。

<何を、していたの?>

両親が遠くへと旅だってからというもの、

彼とはともに悠久の時を過ごしてきた。

長い時は互いの間に、真の恩愛を生み出していた。

ミーミルの目や吐息や仕草のひとつひとつから、自分へ向かう愛を感じる。

<見ていました。あの星を>

姉に語りかけられるのが嬉しい、とミーミルは目顏で語ってきた。

<あのね・・・ミーミル>

<はい。姉上>弟が瞑目して膝をついた。

両肩に触れて立ち上がらせると、フォルトゥーナは笑みを浮かべた。

笑みが彼の琴線に触れて、音を立てるのがわかる。

宇宙にある音の中でも、もっとも美しく気高い部類の音である。

フォルトゥーナは振り向くと、

部屋の隅で姉弟を見つめる従者達に暇を与えた。

1万の従者がいそいそと部屋から出て行く。

最後の従者が扉を閉めた時、フォルトゥーナは

ミーミルに頭を下げて許しを乞おうとした。

自分が至らないせいで、ミーミルに心配をかけてしまい、

結果として人間を巻き込んだ争いへと発展してしまったのだから。

<ミーミル・・・>

結希達がミーミルの尖兵である『3人』に負けることは、

戦力差からみてもあきらかだった。

フォルトゥーナは、もうこれ以上無用な争いをしたくはなかった。

もうあの星のことは忘れましょう。私も忘れますから。

喉から出かかった言葉を飲み込んだのは、

地球で必死に生きている結希と葵を思い出したからだ。

もう、フォルトゥーナもミーミルも、地球の人間達も、

後戻りできないところまできている。

1000年先を見通す姉弟は、互いを見つめ合う。

胸に抱いた痛みが宇宙創成の力を帯びた時、

ミーミルが手を握ってくれた。

<姉上。

すみません、僕はただ>

ミーミルが目を伏せた。こんな顔をさせたかった訳じゃない。

フォルトゥーナは逃げ出すように部屋から出た。

無限に続く回廊を抜け出すと、

空気のある星々に咲く花で作った庭園に出た。

庭園の中心にあるガゼボに入る。

ガゼポは宇宙の中心であり、

ここからは大小さまざまな種類の太陽が見える。

腰掛けると、テーブルの上に置いてある飲みかけのグラスに触れた。

グラスの縁についた一滴の中に、地球で死んだ人々の魂が籠められている。

居場所がなくなれば、この魂たちは輪廻から弾かれて

行き場を失ってしまうだろう。

フォルトゥーナは、目を閉じて大きく息を吸った。

人類に広い場所は必要ない。

あの小さな星で、ただ平和に過ごせばいいものを。

争いを忘れ、他者を敬い、土地を共有し、

ただ生を全うすればいいだけだろうに、なぜそれができない。

神たる自分がこんな感情を抱くことは、不合理そのものである。

だが、母から頂いた慈愛がそれを許さないのだ。

<結希・・・葵・・・>

彼らの顔が忘れられない。

あの2人は、自分にとって特別なのだ。

今や、結希と葵が素晴らしい生を全うできることこそが、

人類の存在が許される唯一の方法である。

託した魂がどんな最後を迎えるのか、この目で見てみたい。

グラスをテーブルの中央にそっと置くと、フォルトゥーナは立ち上がった。

区切りがよかったので、来週予定の1話を更新いたしました。

次話は来週末に更新をいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ