98話 キーラ
キーラは散らばった残骸を集め、改良型ドローンを作った。
それらを使って、街の方々へ飛ばし資源を集める。
資源を集めたら、新しい種類のゴーレム作りを始めるつもりだった。
ソーニャのおかげで、ゴーレムの燃料となるオドは無限に湧いて来る。
資源も街にたくさんある。
だがキーラは迷っていた。
どんなゴーレムを作ればいいのか、それが問題だ。
ドローンで録画した『3人』の映像を何度か見返した。
おそらく『3人』には油断があった。
だからこそ、みんなどうにか生き延びることができたのだ。
次に会う時、相手に油断はない。
以前よりも、もっと厳しい戦いになるだろう。
「何とかしなきゃ」
過去、キーラは大切な人達を守ることができなかった。
ソーニャだけではなく、祖父も祖母も、アビィもヴェラも、
父も母も、義父も義母も、誰も守れなかった。
「そんなのは嫌だ」
しかしキーラは、ゴーレムを戦いに使うことに抵抗があった。
かつて人は、たくさんの技術を戦争に転用した。
技術を作り上げた学者達の意志は、全て無視されて。
ゴーレムを戦いに使えば、悲しい歴史を自分が追体験するのではないか、
という恐怖がキーラにはあった。
そしてもう一つ、葛藤がある。
ゴーレムを使うにはオドを利用することになる。
オドはソーニャと植物達の絆の証だ。
魂といってもいい。
それをキーラの一存で、戦いに使ってもいいのだろうか。
ソーニャの優しいオド達を、誰かを傷つけることに使って許されるのか。
「・・・うーん」
キーラには知識がある。知恵もある。
理屈も決意もちゃんとある。
だからこそ、迷ってしまう。
対して、あのダニエルという男には迷いがなかった。
彼が信じる強固な考え方や信念があるのだろう。
『賢者の真心の王国』が記す哲学者の理論によれば、
世の中には、正解や間違いは存在しないそうだ。
歴史上の偉人たちは、いつも自分が正しいと思うことを、
やっているだけなのだ。
後から歴史を紐解いて考えてみると、それが正しかったのか、
間違っているのか分かるような気がする。
だがそれも結果論に過ぎず、結果の判定自体も、
時代によってベクトルが変わるため、まったく定かではない。
どちらにせよ、正しいかどうかなど、
誰にもわかりはしないということだろう。
では、どうしたらいいか。
クロエの最後を思い出す。
痛みに溢れた最後の姿は、ただ満足そうであった。
終わり良ければすべてよし、という格言がある。
本当にそうだろうか。
最後だけではなく、彼女の生き方を思い出すべきではないか。
いつものクロエは、どんな様子だっただろう。
思い出すのは、自分を笑いの種にしてでも、
周りを喜ばせるような人だったということだ。
彼女はいつも自分を犠牲にする代わりに、
みんなが楽をする道を選んでいた。
大事なことは、選ぶということだ。
選ぶということは、選ばなかった選択肢を捨てるということだ。
何かを犠牲にして、自分の大切なものを
守るということといえるかもしれない。
「そっか」
何を迷っていたのだろう。
平和と保身を都合よく両方選ぼうとしているから、
前に進めなかったのだ。
一番大事なのは、みんなの命だ。
もし、オドを戦いに転用することでソーニャに嫌われたとしても、
深く傷つけたとしても、彼女を守れるならキーラは構わない。
ゴーレムを使って人殺しをしてしまったとしても、
明日大切な人達の笑顔が見られるなら、構わない。
苦しいけれど、これが生きるということなのだ。
キーラは、生き残るために力を使うことを選ぶ。
それが間違っているかどうかは関係ない。
状況によって選ばされたのだ、と言う人がいるかもしれない。
だが、それは違う。
どんなに追い詰められた状況であれ、
立ち向かうか、逃げるかは自分で選べるからだ。
あの日のソーニャのように、または、クロエのように。
そうだ。
自分が選んだのだから、全ての責任は自分で取る。
誰かのせいには決してしない。
キーラはここまで思い至ると、すぐに行動を始める。
生まれ変わった自分が、これからどう戦うのか楽しみだ。
ありがとうございました。
次回は来週末に更新いたします。
◇参考資料◇
「地元で神童と呼ばれ、京都大学に入学するも、
本当の天才に出会い、挫折し、人生の大半を苦しみに費やした友人」
彼はそれでも学問に身を寄せ続け、最後には大成しました。
彼が語ってくれた素晴らしい話の数々が、キーラのモデルとなりました。




