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93.ガイド佐倉城 兄弟天守を持った城

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 バスコンは佐倉県の最北端を後にして、国道16号バイパスを南東へ。

 そして東関東道の佐倉で下車。

 遠くから良く見える、丘の上の天守…もとい御三階櫓。

 ここも土塁手前の樹木が剪定されていて城内の造作がはっきり見える。

 その背後には…高層ビル街が立ち並ぶ。流石県庁所在地。


 しかし、佐倉城の周囲は何だか建物が無い。

「ここはお城が軍の基地なんだなー」

 道路の案内標識を見てスーが言う。

「高崎は城外だったけど」

 市街の北を走る国道の南側には、広大な駐屯地が。

 その正門ゲートの脇には、何と城の楼門、田町門が残されている。


 そして城見物の案内は基地を南東に迂回して、巨大な大手門と二層櫓が固める広小路の駐車場へ。


******


「でか!」

 威風堂々、楼門の大手門を潜った南北両側は佐倉県庁に市庁、そして軍の衛戍病院だった。

 武家屋敷のままの兵や長屋門と、レトロな洋館、そして今は枝だけになっている桜並木が並ぶ、不思議な空間だった。

 春は凄い事になるだろうなあ。

 一行はバスコンを降りて三之丸入口の三ノ門へ。


「佐倉城は江戸湾に面した千葉市を本拠とする千葉氏の支配下で、ここから少し離れた地に本佐倉城を構えていました。

 例によって家康領有の際、重臣土井勝利の手でこの地に近世城郭が築かれました。


 築城の20年後に、昨日訪れた古河へ加増され転封されました。

 古河城の御三階櫓の基本設計はこの佐倉城のものを使用しており、両者は兄弟天守、もとい御三階櫓と見られています」

「何と!」みんなビックリ。


「江戸城の天守と大坂城の天守も兄弟、ってか江戸城の二代目天守を移築したのが大坂城天守だったか。

 設計に共通性があるのは、掛川城と高知城、洲本城と大洲城、それに九州で見た佐賀城と津山城の天守とかかな?」

 記憶を辿って兄弟天守の例を探る。

「へー。天守にも兄弟があるんだネー」

 お、関心惹いたかな?


 三之丸は何も無い、元は家臣屋敷があった広場が公園となっている。

 暖かかったら親子連れが遊んでるんだろうなあ。

 今日は大晦日だから、それどころじゃない、子供も大人も大掃除だね。


 三之丸からチョロっと見える北側の駐屯地は、煉瓦造りの兵舎が口の字を書いていて、その周囲も小さい煉瓦建築が建ち並んでいる。

 90度左手の大手門から外側も、さっき来た道の両脇に工場が建ち並んでいる。

 北側にある国鉄と京成の佐倉駅周辺の、高層ビル群の建ち並ぶ姿と対照的だなあ。


「明治になって城の北の椎木曲輪は佐倉連隊の敷地となり、大手門内側の家臣屋敷は県庁、市庁等に使用され、今尚関東の要衝として活用されています」


 くねった道を進むと、二之丸入口の二ノ門。どれも立派な楼門だ。

 二之丸の右手、二之丸御殿は奥向きは解体されているが表向きの大広間、対面所は洋風に改築され、将校クラブとして活用され、『佐倉宮殿』と揶揄されたそうな。


「確かに、ちょっとした宮殿だよねー」

「まあ海外の武官の迎賓館にも使ったそうだし」

「軍隊サンのも外交はあるだろうしねえ」

 それだけじゃなくて、駐屯地が見える場所は封鎖しておきたいって思惑もあるんだろうね。

 三之丸の北側に通じる道は鉄格子で封鎖されているし。


 御殿の先には、本丸入口の一ノ門、その脇に初層が二重になってる隅櫓、その左手奥には台所門が連なり、二之丸との間にはかなり深い内堀が。

「これ堀っていうより谷じゃないかな?」

「降りて昇ったら死にそう」


******


 そして、例によって将軍家を招いた事もある本丸御殿。


 ここは二之丸の佐倉宮殿と一緒に迎賓館となっている。

 主に皇族、高級将校や海外の将校の宿泊所に充てられたそうで今では公開されている。

 それでも宿泊希望があった場合は連隊総出で閉鎖して宿泊準備するんだって。

 兵隊さん、お疲れ様です。

 

 その御殿南を迂回すると、御三階…

「四階だねえ」

「外からは三階に見えたよね」

「あ、土塁の分内側が一階増えてるんだ」

 飴ズの言う通り、土塁の内側に当たる部分は下見板張りで外から見えない様になっていた!


 この、妙に一層が高くなってるの…嗚呼。

 アレだ。水戸城御三階櫓だ。お次さんが得意そうに頭の上で腕をグルグル回してた説法を思い出す。

 外から見たらスゲーカッコ良かったのになあ。


 御三階櫓の内部は、印旛沼の開拓事業の説明が主だった。

 検見川と沼を繋げて水を抜き耕作地を増やす、同時に利根川から印旛沼、そして検見川を経て江戸湾に出る水利を確保する、という大工事の歴史だ。

 淀川に次いで利根川東遷を完了した土木能力を生かして17世紀中期には工事は完了した。


 眼下に鹿島川の崖を見下ろし…って高いなあ。道理で遠くから見えた筈だよ。

 そして遠くに印旛沼と両側に広がる今は枯れている農地、それに続くだろう検見川を眺めて、その工事の遠大さを思った。


 ただ、その大工事も19世紀に入ると各鉄道路線に利用客を奪われ、水運業は細々となり、今は主に水害防止の施設として活用されている。


「何と言うか、江戸期の治水に詳しくなったような気がするネ」

「城を見に来た筈なんだけどね」

「たのしーし勉強になったからイーンダヨ!ね、司ン」

「そうだな。日本がいかに流通、経済発展を重視して、団結して困難を克服したか。

 現地を廻って初めて実感できるってものもあるよね」

 飴ズが、とてもいい笑顔で頷いてくれる。

「大したもんだゾ、司ン」

「もう立派な先生ですね」「「ネー」」

 4姉妹も煽てるし。止めて。

「皆が楽しんでくれれば私は本望だよ、ってか城も見たじゃん!」


「あっちの櫓?面白いカッコだよ」

 お玉ちゃんが、半分閉じられた北側の窓を見て言う。

 来たと北東側の窓は閉鎖されてる。やっぱり駐屯地対策だよね。

 そこから見えるのは、銅瓦が緑色で、城内唯一下見板張り、しかも屋根が宝形造の銀閣みたいな櫓。

 櫓、というのもちょっと疑問な建物。


「ああ、お玉ちゃん、あの櫓は銅櫓。

 元は徳川家康が江戸に来る前、太田道灌って言う、江戸城を広げた中世の武士が建てた楼閣、清勝軒を移築したものなんだって」


 行ってみよう。

 普通の下見板張りの櫓で、内部非公開だった。残念。

 御殿と廊下で繋がってるから、中も居住性があったのかな?

 二階が普通に窓だし、高欄を開いてお月見、とかは無理だろうなあ。


 内部の展示には元の清勝軒の復元案が飾られていた。

 太田道灌、人気だなあ。私も小学校の頃習ったかな?


******


 車に戻った一行は、大晦日ながら開いていた蕎麦屋で鰻弁当を買った。

「成田名物!豪華!ウナギー!」

「ウナギー!」

 ランミキのテンション高いな。


「日本人なんでも食べるなあ」

 スーのツッコミに突っ込み返す。

「いや食の本家中国の方に言われても。燕の巣とか猿の脳とか」

「そらそうだ」

「「うまうま~」」

「イギリスには何でもウナギゼリーとかウナギパイとかあるそうですが」

「お延姉、それはタブーだ」

「あらそうですの?」


 昼も過ぎたので車内でお食事だ。時サンは運転しながらウナギにぎり。

 スミマセンねえ。


「あ!新幹線だー!」

 バスコンは印旛沼を渡る大橋から成田新幹線を並走する佐倉北高速へ、そのまま市川から東京外環道、そして東北道を上がって、この旅最後の目的地へ向かった。


******


※関東屈指の名城、佐倉城の中心部復元図は下記の通りです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/makoto-jin-rei/20180408/20180408201534_original.jpg


※劇中では例によって鉄道が市街の中心部を走っており、地元の反対運動なども無く、国鉄も京成線も城と駐屯地の北側を走っています。


※城内の椎木曲輪は史実でも陸軍第57連隊の駐屯地で、今でも煉瓦兵舎の破片や基礎が残っています。

 今では国立歴史民俗博物館の敷地となり、三之丸手前の馬出の土塁が発掘復元されています。


※昭和の頃は賄賂政治の田沼意次とセットで悪政と罵られた印旛沼干拓事業ですが、これは普通に善政で、成功していたら大変な功績になっていたでしょう。

 天明の浅間山爆発に伴い火山灰が川に溜まり水位を上げてしまい、これに大豪雨が重なって完成途中だった堤防や水門を破壊し尽くした、というのが実際です。

 今では田沼意次も改革的手腕の持ち主だった、只余りに運が悪かった、と再評価されている様です。


 この歴史では、江戸期早々に完成し防水と食料増産に成功し、関東圏を天保の飢饉から救いました。チートって、いいね。


※勿論この世界では計画が頓挫した成田新幹線も、いつまでたっても鎌ヶ谷の梨農園から西へ伸びない千葉北道路も20世紀半ばには開通済です。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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