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89.ガイド水戸城 個性派御三階櫓

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 バスコンは北関道を東へ。


「次は水戸城、水戸黄門の故地だ」

「ミトコーモンって?」

 キョトンとランが聞く。

「水戸藩主、水戸中納言徳川光圀。中納言の別称黄門を取って水戸黄門。

 御供の助さん、格さんを連れて身分を隠して全国を旅し、悪代官たちを懲らしめて人々を救う時代劇よ」

「日本だと誰でも知ってる勧善懲悪の物語だぞ」と次さん。

「この紋所が目に入らぬか―!」「ハハーッ!」なんかグラ玉が寸劇始めるし。

 あ、ウケてる。


 川の様に東西に長い千波湖を渡る橋の向こうには国鉄の線路と駅。

 その更に後ろに小高い土塁が見える。そして白壁と、三層の天守、いや御三階櫓も。

「あーお城だー」これは街の入口に聳えて水戸のシンボルとして映えるなあ。


 道は線路を超えて空堀脇の道へ。曲がった先には堂々たる水戸県庁が。

「高崎県庁や宇都宮県庁より立派だなあ」

「でもどれもオシャレでクラシックだったネ」

「北関東レトロ県庁でツアー組んでるみたいだね。流石に神奈川と佐倉は遠いんでツアーにはならないけど」

「近代建築ツアーなんてのもあるんだねー」

 日本の近代も、もうそんな振り返る時代になったのかな?


「そっちも極めて見るかい?」

 時サン、ニヤリとしやがった!この人古い物なら何でも好きそうだな!

「先ずはお城が先、ってかそれで手一杯よ。戦国武将に因んだお寺とかも勉強するの大変だし。

 東照宮は結構詰め込んだんだよ」

「立派だったよ、四本龍寺まで説明出来てたし」

「でも鎌倉将軍までは解んなかったよー!」


******


 県庁の裏に、武家屋敷の様な御殿の様な建物が広がる。


「ここが水戸城三之丸にある、藩の学校、弘道館です。

 水戸藩は江戸初期から日本の歴史を体系的に整理した大著「大日本史」を編纂し、天皇を中心にした歴史こそ日本の歴史とした水戸学をここで藩士に教育しました。

 折角家康や家光が徳川家を神格化したのに台無しですね。

 なお編纂にはかなりの予算が掛かったみたいで、藩内で反乱や逃亡が何度も起きています」

「ダメじゃん!」

「そーなのよ。だから徳川幕府からストップがかかって大日本史は未完のままです」

 お蔭で時サンの歴史みたいに変な内乱も起きずに済んだけどね。


 そして、弘道館の向かい、巨大な空堀に架かる橋の先には、壮大な大手門の楼門。

「水戸城は小田原征伐で秀吉に従軍した佐竹氏の居城となり、家康の関東入封によって徳川一門の城となりました。

 現在の城はこの両者によって近世化されたものですが、石垣や天守を伴わない、東国風の城となりました。

 水戸藩は徳川家の血を絶やさないため将軍家継承権を持つ御三家として、和歌山藩、名古屋藩に並ぶ存在となりましたが、この質素な城にも水戸藩の特色がみられるのかも知れません」


******


 大手門を鈎の手に進むと左右を壁に挟まれた一直線の道。

 ず~~っとこの道を進んだ右手に、中門が開いている。ここが二之丸御殿の入口。


 広大な二之丸御殿の表向きは檜皮葺の格調高い大屋根。

 巨大な表御殿は今尚水戸徳川家の公式行事に使われているので拝観は外からだ。

 外国人を招く事もあるとか。

「皮肉だね、本当の歴史では水戸学は天皇を貴ぶ余り幕末に外国人追放を唱えて各地でテロを起こしてたのに」

 時サンがコソコソ話しかけてきた。

「でもコッチの歴史の方が平穏でいいじゃない」

「そうなる様色々工作したんだよ」

「そうでした」


 そして御殿の裏に廻るとさっき見えていた御三階櫓が…

 あれ?

 櫓?蔵?何だか私が知ってる城の櫓と違くない??


「うわーヘンなのー!」

「これお玉ちゃん本当の事言わないの!」

「石垣が無いよー!」

 そう。地べたの上にスポーンと建っているのだ、一層がムチャクチャ高い三層櫓が。

 そして、一層の下半分、蔵みたいな海鼠壁。石垣の替り??

 そういや一層、二層の庇にも破風も何も飾りが無い。


「なんつうか、ドーン、おわり、以上!って感じの建物だねえ」

「窓もなんか倉庫みたいだね」

 そう。他の城の櫓や天守みたいな引き戸はついた窓が開いているのではなく、真ん中に開き戸、その両脇に格子窓というこれまた蔵!って感じの窓。

「遠くから見た時は堂々と見えたんだけどなー」

「こりゃ珍風景な天守もあったもんだねえ」

 スーも半分あきれ顔で言う。


「いや。これは何か『来る』な」

「お、お次さん?!」

 お次さんが液タブに向かって必死に手を動かし始めつつ言った。


「定評のある美しか認めようとしない人を私は軽蔑する。

 これ確かアンドレ・ジードでしたっけ?」

「何だか難しい事言ってるよお次さんや?」


「破風も天守台すらも無く地べたに直接建っている海鼠壁の天守、そういう様な物を見ても美しいと感じる新鮮な心を持たなくてはいけないぞ」

「お次さん…水戸城の御三階櫓はカラスの糞がかかってるお地蔵さんと同じか?」

 時サンが意味不明なツッコミを入れた。


 それはさておき、この御三階櫓、結構大きい。20mはあるかな?無いかな?

 それに内部はもしかして五重かも。

 これ天守代用っていうか、天守だ。デザインはヘンテコだけど。


 海鼠壁の一重目は…土間だ。四方に通気口みたいな窓が足元に開いているだけで天井も低い。

 二重目はあちこちに窓がある。

 三重目は、周り全部が連格子窓だ。

「これってのぺっと高すぎる一層目に変化を持たせるためかな?」

「そうかもね。私も子供の頃古写真で見てたまげたもんだよ」

「子供の頃に古写真って…」

「そう。水戸城の建物は幕末に全焼。御三階櫓も空襲で焼失してしまった」

「いや、時サンの子供時代って方がピンと来ないよ」

 後ろでお延さんが珍しく噴いた。


 最上層。

「あれ?天井に穴開いてない?」

 天井の真ん中に穴が。

 よく見ると穴から見える天井裏が神棚みたいになってる。てか神棚だ。

「あー、小田原城で摩利支天を祀ってたみたいな物?」

「そう。あそこに鹿島神社と吉田神社ともう一つ、忘れたけど三社を祀ってるんだ」

「ん~勉強不足だな私」

「いやいや、そこまで紹介しているガイド参考書も少ないって」


 窓の外は北に那珂川、南に千波湖、何か水に浮いているみたいだ。

 南側の眼下は国鉄の駅だけど、湖に挟まれて、手狭だなあ。

 駅前直ぐに国道も通っていて、何と言うかせわしない。

 そしてこれから向かう東にある本丸は。


******


「何にも無いよー」

「運動場だねー」

 お玉ちゃん、あんたは正しい。


 どう見ても空き地をグラウンドにしました、って感じ。

 その通りで、本丸は江戸時代を通じて長屋二棟以外何もなかった。


 「忍城とか川越城もそうだったけど、関東の本丸って空にする流行とかあるんかな?」

 スーのツッコミが激しい。

「あ、将軍を迎える御殿の用地を確保してる、とかはあるかも知れないな。

 後は戦時に本丸に籠るとか」

「正確な事は解らないもんだね」

 スー先生、厳しい。


 尚本丸の東、東二之丸も何もなく、学校の校舎になってる。


******


 三之丸前のラーメン屋でお昼。何でも水戸黄門が日本で初めて食べたと言われる、でも実はその200年前に食べた人がいた事が判明して今残念な事になってるラーメンを頂く。


 そしてバスが出発する。

 三之丸を発ち、那珂川沿いを東へ。

 と、そこから南下して国道へ、更に西へ。

 時サンがお城の周りを一周してくれた。


 土塁、というかあれは天然の丘なんだな。高い丘の上を縁取る白壁と、点々と建つ二層の櫓。

 そしてその向こうに見える、あのユニークな天守。


「こうして城外から見ると、中々格好いいね」

「でもなんかマスコット的な愛嬌はあるかもネー」

「それも美だよ」

 まあなんだ。日本の城の奥深さに触れた気がするよ。


******


※御三家の巨城…巨城なのか微妙な水戸城の中心地、二之丸の復元図は下記の通りです。

https://minkara.carview.co.jp/image.aspx?src=https%3a%2f%2fcdn.snsimg.carview.co.jp%2fminkara%2fphoto%2f000%2f004%2f882%2f161%2f4882161%2fp7.jpg%3fct%3d5070ac3b9f36


 近年二之丸大手門と二之丸角櫓が復元され、城跡らしさを感じさせる様になりました。

 城の顔となるべき二之丸角櫓が、駅の高架から見ると…三之丸ホテルの裏に隠れてチョロっとしか見えないのがひたすら残念ですが。


※大日本史は史実では飢饉も氾濫も無視して続けられ、20世紀に入って漸く完成しています。


※みんなが言葉を失った水戸城御三階櫓の雄姿は下記の通りです。人工着色です。

 周りの木々の所為か、こじんまりして見えますが、手前の人と比べると最低でも15m以上はありそうです。

https://k6k6.hateblo.jp/entry/2022/09/25/180056


※名言製造機アンドレ・ジード(ジッド)の下りは久々の特撮ネタ。

 特撮マニア皆が注視した「題名のない音楽会」で黛敏郎さんが語った恩師の思い出でした。ジャンピング阿部恵子が印象的な放送でした。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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