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88.ガイド笠間城 山城頂上の天守

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 朝起きたら、外の風呂テントが片付いて、コンロとダイニングになっていた。

「お、おはよう司さん」といつもご機嫌そうな時サン。

「あ、時サン、昨日は眠れたの?」

 そうだよ、床下寝だったし。

「ちゃんと手足を伸ばしてグッスリ寝ましたよ」

「やっぱ色々スミマセン」

「それより上羽織ってトースト食べる?」


 外は寒そうだなあ。


「ん~おはよ、司ン」

「あー!卵焼いてるー!」「セヴェ・デリショーソ(おいしそう)!」

 このバスコンキャンピングカー、奥にトイレにシャワー、キッチンがあって、車体中央が大きなリビング兼ベッドスペースになる。なので基本巨大なベッドに雑魚寝、そして天井がポップアップして二段ベッドになる。

 キッチンは後ろのドアを全開にして、外向けにも出来るそうな。

 春秋は快適そうだなー今冬だけど。


 みんなモソモソと置き始める。

 あ、お延さんがシャワー浴びてる。

「みんなもシャワ~ど~ぞ~」お次さんが寝っ転がりながら勧める。

 トイレと同じ区画ながらシャワーがあるのは有難い。

「あの携帯風呂組めば風呂にもなるよ~」

 説明有難うお次さん。でも流石にそこまでは。

 寒さを感じない車中で、汗をザっと流す。

 こんだけ人がいたら湿度もあるしね。

 若い娘が8人ムンムン…時サンが床下に遠慮したのも何となくわかるわ。


 芋虫みたいにダウンを纏って寒い中食べるトーストやベーコンエッグサイコー。

 途中で時サンと替わって私達も調理に。

 単純だけど、寒い中みんなで作って食べる朝食サイコー。

 コーヒーの湯気が冬を感じさせますわー。


 朝食後、広いスペースをベッドにした魔法のシートをガチャガチャ変形させ、食後のお片付け。キャンプ場の流しだと手が凍るしね。

 みんな食後に汗を流し、ベッドもシートに戻し、二段ベッドになってた天井も引っ込めていざ出発。


******


 高速は宇都宮を西に迂回し北関道に乗り換え東へ向かう。

 何だかみんな微睡んでた。

 カーステは時サンが支配してガンガンとかズバババーンとかブロロローとか賑やかな歌を歌ってた。

 てかウルサイ。

 着いた先は山の麓、笠間城。山の中の駐車場だ。


「ふああ~。ここ笠間城はあ。小田原御在所を除けば関東唯一の近世山城です。

 また、天守と名乗る櫓を持つ数少ない城でもあります。

 秀吉の小田原征伐で宇都宮氏が追放された後釜の蒲生氏が近世城郭として、本丸始め山上をあの通り石垣で固めました」


 駐車場から先の山は、木が綺麗に刈られた、草に覆われた土塁、そして白壁の山だった。

「ほおー。山が城だね」

「安土城とかもこんな感じかねー」

「安土城はもっと石垣も建物も凄いよ。真ん中に大きな天守がドーンと聳えて」


 駐車場、千人溜といわれる曲輪から空堀を隔てた橋の向こうに大手門の楼門。

 廻りは石垣に固められていた。

 お?次グラのスケッチが復活した!


 そこからつづら折りに坂道を左へ右へ上った先に薬医門の中門。

 途中の帯曲輪、二の曲輪に建物は無い。

 帯郭から石垣に固められた、城らしい造りの天守曲輪が見え、その先に二層の天守が見える。

「あれ天守なんだー」

「ちっちゃいねー」

「関東だから」

 二の曲輪から見上げる本丸南端に、二層の穴ヶ崎櫓が聳える。

「あっちの方が立派かな~?」

 皆さんキビシイ。


******


 本丸正門の玄関門の先には、本丸という名の広場。そして、小さい住居建築。

 本丸御殿というには、規模が小さいし壁がゴツイなあ。

 そして一段高い土塁の上に八幡台櫓と、その左手に同じく二層の隅櫓が並ぶ。


 本丸御殿?は観光客、というより登山客のための休憩所に解放されている。

 靴を脱いで、畳の上でコーヒーを頂き一息。

 何気に御殿で飲食するって平戸城本丸御殿に泊った時以来?


「今日もダイエットだゼー」

 意気込むミキ。


「だから夜飲んで喰ったら元の木阿弥だって」

「モトノモクアミ?」

「あー、昔京の都の支配を企む筒井順敬って武士が死んだ時、部下たちが黙阿弥って平民を影武者に立てて、死後数日自分の影響力が急になくなる事を防いだんだよ。

 そして順敬の死が公表されて影武者もお役御免となった木阿弥は、元通り平民に戻ったって故事だよ」

「それでワタシのダイエットは?」

「運動してお腹へっこんでも夜飲んで喰ってデブって、元通りって事よ」

「ノオー!!」


 人のいない寒い冬の山城に、一人の女の嘆きが木霊した。


 本丸御殿で一服し、さっき見た穴ヶ崎櫓から、城下を見渡す。

 絶景かな。

 本丸の向こうには天守曲輪が聳える。


 反対側にある楼門、東櫓門へ。

 そこから橋を渡った先は石垣で固められた天守曲輪だ。

 階段状の石垣と白壁を超えた先に、白亜二層の天守が聳えていた。


「こうして見ると、結構威厳あるわね」

 スーが言う向こうでは、次グラが高速スケッチを。


 天守からの眺望は絶景だった。今まで登って来た千人溜から本丸までの階段状の縄張を見下ろせる。

 千人溜と道を挟んで反対側には寺があったのか、あ、案内板に「笠間百坊」って書いてある。まるで城の一郭みたいだ。

 城周辺の木々は伐採され、上からも曲輪の形がはっきり判る。

 城の中は、江戸時代に植えられた木でなければ基本伐採し、古い木でも剪定は必要だ。

 これもまた維持費がかかるんだろうなあ…


「城を降りたら、ダイエットになるヨネー!」

 まだスリムの夢を捨ててないのかミキ。

「それは、未練というものだ!」

「ミレン…!!」


******


※関東唯一の近世山城(小田原御在所を山城にカウントしなければ)の笠間城の復元図は、やはり余湖くん様のものが一番分かり易かったです。毎度使わせて頂いてすみません。

http://otakeya.in.coocan.jp/info02/kasamajou.htm


※作中では山の木は伐採されていますが、実際は樹々に覆われていています。

 なお、千人溜までの車道ですが、現実ではバスコンが通るのは無理、普通車でもすれ違い困難な道ですが、この世界では観光客が多いのと修繕用のトラックの出入りがあるせいか道路は拡張されている様です。


※実際の笠間城の建築は八幡台やグラが城下の真浄寺に移築・改造されていますが関東では数少ない現存櫓建築です。

 また天守は明治に解体された際天守台に築かれた佐志能神社の材木にされてしまいました。

 この神社も天守台も東日本震災で損傷を受けていますが修理されないまま放置され、2023年現在立入禁止となったままです。

 各建築の外見等は不明なままですので、劇中でも具体的な描写が出来ず、今回は短めになりました。ご理解下さい。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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