86.ガイド輪王寺・二荒山神社・大猷院 信仰とは何ぞや?
本日は都合で時間を繰り上げて投稿します。
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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東照宮を後にして中門まで降りる。途中何度も陽明門を振り返って。
そして西側の鳥居をくぐってゆるい坂道へ、その先に赤い巨大なお堂。
「ここは輪王寺三仏堂。8世紀、天平の時代からこの地にあった四本龍寺、のちに満願寺に名を改め、そして東照宮造営を期に朝廷から輪王寺の名を賜って、この巨大な三仏堂が建てられました。
東西34m、この間見た甲斐善光寺金堂以上の大きさを誇る東日本最大級の寺院建築です」
中に入ると、10m近い大きな仏像が三つ。
「三仏堂とは、日光の女体山、男体山。太郎山の三山を阿弥陀如来、千手観音、馬頭観音に
なぞらえて祀っています」
「ん~」それまで必死に仏様に祈っていたランが頭を上げて唸った。
「この辺がよく解らないナー」
「はいラン君」
「司センセー」ノリがいいな。
「何で日本人は山を神様扱いして、しかも仏様に例えて祈るンデショーカ?」
「日本は山に囲まれた平地に人々は住んでいます。
山は樹々、獣、そして川の水を齎す命の起源で、古来から修験者が山で霊の力を得るとまで考えられました。
更に古代に仏教が入って来ると、須弥山になぞらえられたり、極楽へ繋がる道とも考えられました。
その結果、神道、仏教と山岳信仰が融合し、現代まで自然に人々に親しまれています」
「う~ん。チベットとかで無い訳じゃないけど、こんな世界の大国で科学の国日本で今でも山を崇めてるって、ピンと来ないナー」
「エウロパだと、ピレネー超えてルルドにマリア様が現れた、って信仰アリマスヨ。山に祈る分けジャナイけど、山は何かエスピリトアル(スピリチュアル)カモ」
「それは兎も角、そこに人間だった徳川家康が神様に加わって…カオスだー」
「アクセプター(同意)」スーだけじゃなくてグラシアも一緒に頭を抱えだした。
なお、時サンは三仏堂向かいの、お供えに積み上げられた日本酒の酒樽をしげしげと物欲しそうに眺めていた。
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三仏堂の隣は二荒山神社の拝殿。三仏堂と同じ、赤い建物。
「こちらが二荒山神社の拝殿で、東照宮より遥か昔からこの地の信仰の中心でした。
先ほどお話した四本龍寺を興した道勝上人が男体山を観音菩薩が降臨する補陀洛山に例え、二荒山と呼び、それを音読みにしたのがニコウ、日光になったと言われています」
「「「ヘー」」」
拝殿の脇から裏の「神苑」に入る。
拝殿の裏には、透塀に囲まれた本殿。静かな世界だ。赤い東照宮みたいだ。
その先、坂道を登ると、木々の中、ちょっとした広場で行き止まり。
「ここが遥拝所で、日光三山を眺め祈る場所、この神社の中心です」
「あの赤い建物じゃなくて、ここが中心かあ!」
「長野の諏訪大社もそうだと聞くけど、日本の信仰の中心には無がある」
海外だと随分と宗教に対する考え方が違うなあ。スーは兎に角。
途中、湧き水が出るところにあずまやカフェがあって一休み。
湧き水を頂きホットコーヒーでちょっと暖まる。
「日本のディープなスポットを見たヨ」
「未来と昔がごちゃ混ぜネ」
「そこがハポンのステキなトコデース」
「デース」
ガイジン組に交じってお玉ちゃんも笑ってる。微笑ましい。
「確かに20世紀も私達の頃も、参拝客で賑わう場所は変わらないですね」
やっぱりお延さんが言うと、何か心が落ち着くわ。
「叡山は欲にまみれて焼かれましたが」
やっぱりコワイ。
「私の頃は随分マトモになってたよ?」とお次さん。
「太閤様の睨みにひれ伏したのでしょう」
「鼠も役に立つもんだ」
お次さんもコワイ。
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神社を降りると、今度は輪王寺の、やっぱり赤い伽藍が並ぶ。
その西、石段の上に門がある。
「ここから先が、三代将軍家光公を祀った霊廟、大猷院です。
家光は徳川幕府が安定するか敵対勢力によって弱体化するかの瀬戸際を守り切り、200年に亘る幕府の安定を確保した功労者でした。
江戸城や大坂城の完成、島原の乱での勝利、スペイン・ポルトガルの排除、そして東照宮造営等を成し遂げ、自らもこの地に祀られる事で幕府の安泰を祈念しました」
「更に新しい神様が!」「カオスー!」「マラビョーソ!」
最後のグラ、とりあえず乗って見ただけだな?
最初に見えた仁王門を潜り、鈎の手に曲がると、石段の上に、赤い陽明門?
柱は赤い弁柄、でも初層の組物は黒漆に輝き、隅部が金で飾られている。黒と金の行列。
二層の高欄は弁柄に金の細工、組物は赤、青、緑に金の極彩色。屋根裏の垂木はまた黒漆塗りに金細工。
門の両脇は緑と赤の仏像?
「持国天と増長天。四天王の二天だね。だから二天門」
「うわ!」
時サン、私が解らない物にぶち当たるとそこに居る。心読んでるのか?
「にしてもカラフルだよね~」顔が赤と緑、鎧は青をベースに金の模様、凄くカラフルだ。
最近修理があったから綺麗になったもんだよ。
「こりゃまたカラフルな」「ゴージャスねー」「陽明門は有名だけど、二天門かあ」
そしてその先、更なる石段アンド石段!
「「「ヒィ~」」」
昇った先は、これまたゴージャスな鐘楼と鼓楼を左右に控えさせたその奥、一段上に、今度は夜叉門。これも赤い柱に金の装飾とカラフルに塗られた彫刻。
その中にあるのが、金の唐門を中央に、左右を透壁で囲った拝殿。
東照宮の拝殿同様の、金の世界。
格天井には青い丸の中に様々な白い龍が描かれている。権威の象徴だ。
「大猷院は三代家光公の遺言『死後は家康公に仕えたい』との下に、彼の腹心、川越藩主酒井忠勝が『東照宮より豪華にならぬ様に』と造営しました。
けどさあ、どう思う?」
「ある意味白を基調とした東照宮より、派手?」
「さっきの二天門と陽明門のミニチュア売ってたら二天門買うかな~?」
「デスヨネー」
家光、恐ろしい子。
「川越城ショボかったの、ここに金全部使っちゃったからカナ?」
「それは無いでしょ」
さらにその奥、東照宮奥社同様にある皇嘉門を眺め、「竜宮城みたいー」とはしゃぐもその奥の宝塔は非公開だった。
ここまで似た造りにしたのも、家光公の家康公への憧れの表れと言うべきかもね。
「そういやグラシアさんとお次さん、スケッチしないの?」
スーのツッコミにお次さんが醒めた顔で。
「諦めた」
「え?」
「こんな装飾だらけの建物書いてたら、別名『日暮門』の通り日が暮れる」
「え~!見せて貰った江戸の御三家御殿、凄く綺麗だったじゃない?」
「あれで懲りたよ」「モー限界デース!」
「昔一度真面目に描いたけど、描き込みと省略のバランスにかなり悩んで書き直した」
「ネー」
「「それ見てみたい!」」
「今は持って来てないなあ」
「来年のガクエンサイでお見せシマス!」
「「「キャー!」」」
何故一緒に喜ぶかお玉ちゃん?
「何でガクエンサイ?フェスティバル・エスコラとかじゃないの?」
「ハポンのガクエンサイ、アニメみたいで楽しカッタヨ!」
「国際的固有名詞なのか、ガクエンサイ…」
「またツカサが悪を倒しマース!」「キサマはスデに、死んでいルー!」
「やーめーてー!」
境内の平穏を破る、迷惑な観光客である私達。
スミマセン家光公。
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※輪王寺本堂である三仏堂は、現在東照宮の南、参道の端にありますが、これは明治の廃仏毀釈の結果解体され移築されたためであり、この世界では元の位置、二荒山神社の隣に建っています。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。




