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249.ガイド南亜 仏教寺院廃墟 テロリストとの会話

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 人質事件が起きた国へ到着。

 その国の大使、レッドスクールの奴が偉そうに居やがる。


「おま」

 こっちから先に切り出そう。

「渡航禁止は宣言しましたか?出しましたよね?」

「一部の事件での渡航禁止などする訳ないだろうが!」

 社会経験が皆無なレッドスクールだけあって、礼儀がなってない。


「今すぐ禁止させなさい!」

「お前は人質候補だ!偉そうな口をきくな!」

「人質?私の使命は解放交渉じゃないのか?!

 はは~ん。やっぱり、外務省のリンチだったって訳か」


 このチンピラ大使が何か言う前に私が言う。

「これ以上日本国民で人質になる人が出たらどうするつもりだ!お前は日本国民がどうなっても全く与り知らない、敵のスパイか?それとも馬鹿なのか?」

「馬鹿とは何だ!」

 馬鹿の方に意識が持って行かれている。本当の馬鹿だな。


「10人が死傷し、3人も人質が取られたんだ。

 馬鹿じゃないよ、犯罪者だぞお前は!

 それに3人の人質ために、唯の民間人の私がこんな危険地帯に来てるんだ!

 このまま日本人が続々やって来て片っ端から殺されて人質にされたらどうするつもりだ?

 お前みたいな糞一匹が腹斬っても間尺に合わないぞ?!」


「ジャップがジャップを助けるため足掻くのが当たり前だろうがー!」

 コイツ、大使とかのポストに就いてる癖して、日本人にジャップとか言いやがった。

 お里が知れたな。


「は~ん?日本人を人質に差し出す。それが貴様の狙いか?」

 さらにビビる大使。コイツ、本当に敵の走狛だな。


「犬畜生にも劣る下郎が!

 日本人を人質に差し出すアカの奴隷が!

 それがレッドスクールの大使様って奴かあ?!」

 この糞垂れには全力で喧嘩売ってやる。


「クソ女め!そいつもあの方々のところ連れて行け!」


 全部私の隠しカメラを経由して動画で国際中継されてるってのにこの馬鹿は。

 てか隠しカメラくらいチェックしろよド素人。

 日本大使館がゲリラへ人質を提供して日本政府を恐喝している組織の末端だって自白しやがった。


 実はこの時、既に日本政府内は利敵派斬首の決定的証拠を掴んで動いていた。

 しかし、この愚昧な現地レッドスクール大使達はそんな事を想像する頭脳すら持ち合わせていなかった。


******


 廃墟と化した仏教寺院の世界遺産に、日本の有名自動車メーカーのロゴを荷台に記したランドクルーザーに、銃座を無理やりくっつけた即席戦車?が並ぶ。

 こんな所で日本の自動車の優秀さを実感しようとは。


 私はその奥に連れて行かれ、裸にはされなかったものの、持ち物や隠しカメラを引きはがされ、ゲリラいや、テロリストの隊長に引き合わされた。


『お前が追加の人質か!

 ここで泣け!叫べ!命乞いをしろ!』

 流石悪の軍団だ。テンプレ過ぎて思わず噴いた。


『何がおかしい?!USやEUの連中は泣いて叫んだ!「ナケ!サケベ!イノチゴイヲシロ」!』

 可笑しくて笑ってしまった。

『何故だ!日本人は助けを請わない?!あの3人もそうだ!これがサムライなのか?!』


『私は農民の子孫ですよ?』

 現地語で話した私を、テロ隊長は不思議そうな目でみる。

 私、色々勉強しました。


『じゃあ何で怖くない?』

『一番怖いのは天災。その後、仲間を助けなければ生きていけない。

 だから、私は仲間を助ける。

 侍だったら、仲間もろとも貴方達を斬り殺すでしょう』


 テロ隊長は、怒るよりも私の言っていることが理解できない様だった。


『泣き叫んだ人達も、そうしなければ他の人質を殺すって脅したんでしょう?

 人間の尊厳を踏みにじる、神が許さない卑怯な方法ですねえ』


『黙れ!神が許さないのはこの国を貪る欧米日の悪魔だ!』


『その悪魔と、貴方達の飢餓を救いに来た若者は関係ありません。

 何も罪もない、貴方達を救いに来た若者達を開放して下さい。

 もし外交で戦いたいなら、私の方が、この人達より知名度は高い。

 人質の価値があります』


 テロ隊長は私を凝視している。

 暫くの沈黙の後、彼は溜息を吐いて言った。


『駄目だ、貴女は死を覚悟している。

 我々が欲しいのは、恐怖だ。

 日本社会を破壊する、恐れと不安だ。

 貴女を処刑しても、日本は覚悟を決めて我々に復讐するだろう。

 貴女は帰りなさい』


 理性的な隊長だ。面倒だな。


『それなら話は早いですね。

 彼らが解放されるまで私はここにいます。

 私がここに乗り込んだ時点で、貴方達は日本の復讐の対象になったのですよ?』


 テロ隊長は考えた。

『解放の条件は何だ?』

『ありません。日本はテロを許しません。人質の即時無条件解放を要求します』

『日本の外務省は、日本人は同胞の解放のためなら、金に糸目はつけないと言った』


 やっぱり共犯か。あいつら地獄へ叩っ込んでやる!


『日本の外務省は共産圏のスパイです。日本政府は彼らを斬首するでしょう』

 テロ隊長が怯んだ。


『で、では、テロと関係ない要求、人道支援。社会支援の要請ならば答えてくれるのか?

 日本は有り余る富を私達から貪って、今まで私達に何も返してくれなかった!その詫びを払うべきだ!』

 怯みながらも隊長は言う。中々な論客だな。だが。


『その社会支援を無報酬で申し出た人達を、貴方達は殺し、捕えました。

 多くの若者の未来を奪った殺人者!そして誘拐犯です』


 対象は、自責の念があるのか、言葉を受け入れた、そんな気がした。


『そもそも、日本は貴方達から何を貪りました?

 東南アジアの各地との貿易の損益は17世紀以降全てインターネットで閲覧できますよ?子供でも数字は計算できるでしょう。

 何を以て貪ったというのですか?』


『私達はそう教わった!』

『その真偽を確認するのは、貴方達一人ひとりの義務です!

 義務から逃げるな!』


 東南アジアの教育は共産圏のプロパガンダそのものだ。

 奴らの間違った教育に付き合う程私はヒマじゃない。


『それに、私達の心は決まっています』


『では、貴女も、彼らも、ここで死ぬ。それでよいか』

『私はそれでよい。しかし彼を傷つける事は許しません』


 万一の時に、BGの赤石さんは私に人質救出の手はずを教えてくれた。

 その時間稼ぎの時間の5分はもう経った。

 日本軍の部隊はもう配置に着いただろう。

 後は私が撃たれれば、この情勢不安な地に人道支援を志した若い人達は救助される。

 私の命一つで、三つの命が、上手くいけば他の人質の命が救われる。

 後は私が撃たれるだけだ。


(お父さん、お母さん、御免なさい)


******


 沈黙の時間が流れた。

 撃たれるんだったら、早く撃って欲しいんですけど。


 テロ隊長は部下を呼んで相談した。

 現地語の訛りがきつくて聞き取れない。

 そうすると暫くしてテロ隊長が言った。


『私は貴女に敬意を表し、改めて要求を伝える。

 今は貴女を解放する』


 続けて隊長は言った。

『我々も守っている集落があり、養う人がいる。

 武器は求めない。食料と医薬品を求める。それでいいか』

 ここらが彼らの最大の妥協点だろう。だが。


『即答は出来ない。食料が売られて武器になるなら、結局テロに負けたのと同じだ。

 どこの地域の、どこの人達に食糧と医薬品を配布するか、監視する事になる』

 するとテロ隊長は大きく天を仰いだ。そして。


『先ずは貴女の希望通り、日本人3人を解放する。

 他国の連中は食料と医療品と交換する。

 他の条件は各村落の長たちに任せる。

 破談したら、また白人達を狩る。日本人は害さない。

 早く帰れ。そして我々の困窮と決意を日本に伝えろ』


 そして。

『我が国に必要なのは、ミスツカサン。貴方の様な人だ』

 テロ隊長の目には、何か理解できる温かみを感じた。

 しかし私は言わなければいけない。


『解放条件を受けて、食料品と医療品の提供を約束します。

 しかし、貴方の言う事は少し違います』


 テロ隊長は私の言葉の続きを待った。

『私は日本では普通の女です』


 隊長?そこで何ですっごく驚いた様な、呆れた様な、変な顔すんのよ?

 後周りの人達も同じ顔してるし!

 だが私は負けない!


『貴方達に必要なのは、私みたいな女でも普通に仕事をして、自由に学んで考えて、働ける、それを男たちが見守る。

 寛容さ、柔軟な考え方なんです』


『それは難しい。私達は、受け継がれた戒律の中で生きている。

 それにミスツカサンは…』

 アァ?

『ツカサンは…例外だ』

 さいでっか。


『だが…』

 隊長は言った。

 困った様な、微妙な笑顔を向けてくれた。

 誰これ、イケメンじゃん!


『私が生きている間に、そういう我が国を見てみたい』

『私もその時には、また来ます。暴力ではなく、労働で未来を勝ち取って下さい』


…この場は勝った。

 勝ったよ!

 私、凄いじゃん!誰か褒めてよ!


******


 しかし。

 隣国の日本軍待機場所に入るまでは油断できない。

「油断しないで。何か起きたら倒れて頭を抱えて」

 解放された3人に。私は小声で伝えた。

 私達は一列に並び、狙撃部隊の邪魔にならない様に、廃墟から出た。


 その時。

『神は異教徒を殺せと命じた!』

 誰かが叫んだ。そいつは銃を構えた。

 声に向かって私は走った。

『伏せて!』


 私は声を放った男に体当たりした。

 銃声が響き、体が焼ける様な痛みを感じた。


******


 私は撃たれたのかな?全身が痺れて、痛みを感じない。

 でも鼻の奥を殴られた様な苦みを感じる。


 ボランティアの人達は?

 全員伏せている。陸軍部隊がアジトに突入している。

 交渉失敗。戦いになった。

 何百年前から残された仏塔が爆発して消えてしまう。


 と、体が焼かれる様な熱を感じた。

 目の前が見えなくなって。閉じた目がチカチカして。


******


 その時、私は見た…そんな気がした。


 数多くの人の命が、苦しみと悔しさの中で焼き殺される。

 数多くの人が、未来に夢を持てずに人生を流離う。

 数多くの人達が、小さい子供ですら、手足を抑えられ、首を斬られる。

 街そのものが、炎で焼かれ、多くの人達が皮を焼かれて、水を求めて彷徨う。

 子供も、女も、赤ちゃんも、赤黒く焼けただれて、腐っていく。

 そんな地獄の後ろで、数多くの文化財が、炎の中に焼かれて消える。

 城も、御殿も、寺も、仏像も、神社も。


 それでも、生き残ったみんなが頑張る。

 死体を穴に放り投げて、埋めて、手を合わせて。

 焼け残った柱や板を組み上げて家を作って。

 今より楽しいものを作ろうと、歌を聞いて、歌って、頑張る。

 今より良い物を作ろうと小間物を作って、酒を飲んで、頑張る。

 楽しい時を求めて、楽しい事を探して。

 無くしたものを甦らそうとして。新しい命を産んで、育てて。

 ひたすら努力する姿を。


 我かが、私の上に覆いかぶさっている温もりも感じた。

 他にも、誰かが私を守ってくれている、そんな気がした。


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