248.ガイド南蛮和城…を途中でキャンセル
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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観光大使、日亜うんちゃら金豚ワンパン事件。
この一件はテレビや新聞では全く話題にならなかった。
しかし世界では話題になっていた。
西側諸国は、日本が左傾化する事を懸念していた。
現内閣は日亜新時代と称して、安価な資源、安価な労働力による経済改革を訴えている。
でもそれは国産資源の放棄、日本人の解雇による経営者と国民の分断をそのまんま意味している。
USリベラルはこれを歓迎して日本に圧力をかけている様で、現政権も資金援助と選挙工作で保守派を圧倒して成立している。
これを西側諸国は危惧したんだそうな。
「日本外交の左傾化にジャブ?!」
「東側アジア侵略に強烈なパンチ!交流パーティーで椿事!」
「201X年の日本サミットは他国開催に変更!日本は招待しない方向へ」
「共産圏外交の刺客『金豚』にスマッシュヒット!謎の美人案内士とは?」
国営放送ではしっかり海外ニュースで日本の左傾化と、それへの抵抗事件として取り上げられていた。
サラっと書いてあるサミット変更って、国辱モノじゃね?
そしてネットの世界では。
「ミセスツカサンの事かー!」
「馬鹿者まだミスだぞ」
地味に心を抉るな!
「世紀末覇王は21世紀でも健在だー!学園祭救世主復活!」
「東の工作員なんて指先一つでダウンだー!」
いい加減10年間の事忘れろ!
「ワンパンツカサン誕生!」
「ワンターンキル司ン!アニメ化希望!」
ヤメテー!ヘンな同人誌書いたら訴えてやる!
「俺、ボーナス出たらツカサンの案内で城巡りするんだ!」
「バカ野郎!ボーナス前に会社が倒産するみたいなフラグ建てんな!」
毎度ありー。会社倒産させないでね。
「司、大人気ねえ」
母、お気楽極楽。
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メールも来たよ。
「よくやった。でも程々にしなさい」
「プロレスラーかパンクバンドにでも転向したら?」
これはキャプテン夫婦だな。んで、メアリィ~!!
「日本には生意気な奴をビール瓶で黙らせるという伝統芸がありまして」
…ドクターアーメッド!イカれた伝統芸だな!いやそれ間違ってるから!
「ミスツカサン。貴女のお陰で西側諸国はアジアの赤化侵略を拒絶する事が出来た。
これは大いなる敵失であり、貴女を褒章すべき重大な事件だ」
「ミスツカサン。貴方は平和の美名を悪用した東の悪魔を追い払った女神だ。
我が国の貴族に迎えたい」
お断りします、各国の貴族様、セレブ様達。
私は言うべき事を言った、一人の平凡な市民ですので。
でも、お褒め頂き有難うございます。また日本に来て頂いた時のため、楽しんで頂けるコースを企画しなければ。
「「「軍神!!!做得好!」」」
…徐姉妹さぁ。何だよ軍神って。楽しんでるだろ。
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「めっちゃ楽しんでるぞ」
と、久々に会ったスー。
「あれから『お前もあんくらいやれやー!』ってバシバシ叩かれてさ。
こっちゃ客のセクハラにもそれなりに耐えてんのによ」
スー。こないだ職場とセクハラの問題で講演会してなかったか?
耐えるどころか積極的に逮捕して、観光協会から感謝状貰ってなかったか?
「司ンは東亜文化の菩薩様みたいな人。
その司ンを罪人呼ばわりする奴は死ぬべきなんだー!」
流石、客でも社寺仏閣にラクガキする様な奴を警察に引き渡して、文化財への防犯カメラを義務化する法を建白したラン。
こないだなんか警視庁から表彰されてたな。
「今度ハズバンが案内士になろう!で社員旅行申し込むって言ってたよ!」
もう日本の会社社長と結婚して仕事を辞めたミキ。
「オメー母国の振興はどーしたよ?」そうだそうだもっと言えスー。自分だけ幸せになりやがってー。
「ハズバンと地元に声かけたヨ。
でも男達は良い給料貰ったら、契約違反や薬物使用、その上未成年少女を妊娠させたりしてネェ。
もう諦めたヨ…」
死んだ目をしてミキが答えた。
「ガンバル女の子だけ、ハズバンの会社で働いてるヨ。
デモ、国への仕送りは禁止させてるヨ。
折角あの娘達が稼いだ給料、ドブに捨てるのと同じだしネ」
うわあ~予想以上に酷いな。そうするしかないかあ~。
「で、アレ。誰?」
スーが後ろ方向に視線を向けて言う。流石徐の女は鋭い。
BGの赤石さんだ。
「あの人だけじゃないよ。例の一件で私を狙う奴が送られてきて、それでガードしてくれてるんだと思うよ」
「そっか。国も色々考えてくれてるんだな」
完全に羽目を外せる状況じゃなくなったな。みんなゴメン。
「ま、私達も昔みたいに羽目を外せるわけじゃないさ。
そろそろ終電。ダンナが心配するから、お勘定かあ」
「私も。夫を寂しがらせては不義の道を開かせ、法の道を外すのと同じ」
ランも、スーも結婚して子供もいるし。
徐海運系列。結婚率高いし、出産後の離職率低い。流石あの女傑のカンパニー。
あれだ、え~と。
〇カイダイバーそれはナントカ海底部隊…じゃない!
〇クランブルシティー計画発動…じゃない!
お父さんがヘンなビデオ見てるんで訳わかんなくなったよ。
あ!ダイバーシティーって奴だ。
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怪しすぎる日亜新時代。レッドスクール外務省がテロや内戦も終わっていない国々、日本を敵視する国を続々と渡航解除した。
しかし案内士になろう!社ではそれらの国でのツアーは一切組まなかった。
「南蛮征伐の戦地へ行きたい」
「南シナ海最大の城が復元されたので行きたい」
そんな要望もあったけど、「外務省は国民に責任を負わないと宣言しています」と拒否している。
それに復元じゃなくて模擬だ。記録にあるのと全然違う中華風の望楼が貴重な城跡に建てられて石垣を破壊しているみたいだ。
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そんな中、それは起きた。
「昨年国交を回復した地域に、外務省が派遣したボランティアが現地ゲリラ勢力に拉致され、10人が死傷、3人が捕虜となりました」
「過去、日本の融和政策に同調した欧米のボランティアも既に5人が捕虜となっている事が外電で確認されましたが、これについて外務省は確認中との事でした」
「首相と外務次官はボランティアに対し、捕虜となったのは自己責任と発言しました」
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その時私は、西側圏で和城ガイドをしていた。
出発前、両親に呼び出された。最初に、父に言われた。
「もう、危険な仕事は辞めなさい」
優しい父に言わせてしまった。好きな事をしろと言ってくれた父に。
「私達は、司に、幸せになって欲しい!その為に、好きな事をして欲しい。
そう思っていた。
でも今は違う。敵はお前を狙っている。
お前が死んだら、お前の未来がなくなっちまうんだ!
もう東南アジアは危険になった。
危険な仕事には行かないでくれ。
父さんにとって、お前の命が、俺の命なんかより、ずっと大事なんだ!」
母は、私を見つめているだけ。言っちゃ悪いが、饒舌な父より辛い。
「有難う、お父さん、お母さん。
私がここまで育ったのも二人のお陰。
そして私には仕事がある。
私は、私がやらなきゃならない事をするだけよ」
この時は直接命に危険が迫るとは思わなかったけど、その時が来た。
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案内していた国の大使館に呼び出された。
「お前に人質解放の折衝役を務めてくれ、これ命令だから」
今の外務次官、レッドスクールの次席みたいな奴になって、信頼と実績のあった各国大使が全員更迭され、その後釜で入った…社会人経験の無さそうな奴だ。
普通ならあり得ない招集に何かを感じたのか、私に付いてきてくれたお客さん達が動画を撮ってネットで中継している。
私は続けて言う。
「危険地帯を無理やり解除したのは外務省の責任です。
民間人である私にその後始末を命令するなら、まず外務大臣、次官、現地大使、そして依頼してきた貴方、その4人が文字通り切腹してからにしなさい」
啖呵を切った私は10徳ナイフの刃を引っ張り出して差し出した。
チンケな大使がビビって仰け反った。
「こちらの国の前任の大使は、両国の国交樹立のために死を覚悟して職に臨むとおっしゃりました。
折衝役、私がやりましょう。
先ず、大使。民間人である私に依頼した貴方が切腹して下さい」
「何だよ切腹って!江戸時代じゃあるまいしぃ」情けなく大使が言う。
「今の方が難しい国際社会の中!旧共産圏に臨む責任は重大です。
大使は、自分の責任を放棄して民間人に命がけの命令を下したんです。
責任を取って早く切腹して下さい!」
挙動不審で汗だくになった小物がキレた。
「こっこっこれは!内関老師の命令だぞ!」
はい、証言頂きました。コイツ破滅したな。
「わかりました。外務省はあの『金豚』の下僕という事ですね」
言ってしまった事の重大さに今更気付いて青くなる赤い大使。
私は会社に連絡を取り、交代の案内士さんに後事を任せて折衝役に応じた。
出発前、お父さんとお母さんが私に話したのは、虫の知らせでもあったんだろうか?
もう、生きて帰れるかわからない。でも、ボランティアさん達を助けなきゃ。
時サン達と関わって、お延さん達4姉妹がどんな地獄の中から救い出されたのか、それを聞いた時から、私には何かあるかもって漠然と思っていた。
ここで命を張るのも、それも運命だ。
「待って下さい司ンさん!」
司ンさんって何だ?
「これってこないだのワンパン事件の、外務省からの報復なんじゃないですか?
貴女が自由意志で行って殺されても自己責任って事にして。
それがあの金豚の狙いなんじゃないですか?」
中継してくれているお客さんが私を止めた。
「危険です!行っちゃ駄目です!
貴女はタダの案内士じゃないですか、真っ赤な外務省なんかの言う事聞く事なんてないでしょう?
貴方は日本にとって、いや世界からも愛されてる、大切な人なんですよ!」
このお客さんは、涙を流しながら訴えてくれた。
「有難うございます。私、お客さんに恵まれましたね」
嬉しい。
「でも、このまま外務省があのボランティアさん達を見捨てたら、あの人達の未来が断たれます。
それは許されません、日本政府のキャンペーンで送り出したボランティアに自己責任と言うのは国家詐欺です、国家犯罪です。
今、外務省が日本人の義務から逃げるなら、日本人である誰かが彼らを助けなければ。私は行きますよ」
私は、お客さんのカメラに向かって、笑顔で応えた。
それに、どうせ後ろで見てる人が居るんだ。
その人達が止めに入らないんだし、やってやる。
日本を地獄に変えようとしているあの金豚みたいな奴を、その後ろにいる奴を!
私みたいなちっぽけな日本人一人ひとりが許さないって事を、思い知らせてやる!
たとえ、私が死んでも。それが日本の悲劇を救う一手になるなら。




