表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

247/251

247.観光大使の罠をブン殴れ!

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


「私を観光大使に?」


 外務省からの唐突なオファー。

 もうすっかりアラフォーになってしまった筈、なんだが…相変わらずの美貌を放つ雅姐姐が言う。流石徐姉妹の血筋だ。

「最近東南アジアの共産圏国との国交が出来始めているだろ?

 日亜新時代って奴だ」


 確かに向こう側はソビエト崩壊と共に先細りして、軍事独裁しようにも。

 肝心の武器がWW2時代のまんまだ。今時鋳造砲塔の戦車ってどうよ?

 で?向こうが日本に何かいいことしてくれた?向こうが勝手に日本人を拿捕して、領海侵犯を繰り返した挙句、勝手に食い詰めて、日本にすり寄ってきて、新時代?アヤシサ大爆発だよ。


「そこで、和城観光を国交強化の武器に、って外務省の意向って訳」

 いつの時代も日本の外交の足を引っ張ってきた外務省か。


「しかし東側にあった和城って破壊されてて観光どころじゃないし、それに宗教ゲリラとかもいて渡航危険地域じゃないですか」

「観光客が多くなればゲリラも鳴りを潜めるだろって、外務省はそう言ってる」

「バカじゃないですか?逆にゲリラに人質を送り込むみたいなもんじゃないですか。

 私は反対です!」


「まあ、奴等レッドスクールの魂胆は知ってる人は知っている。

 でもマスコミや野党はアジア交流とかお題目を並べて報道しまくって結構な支持率を稼いじまってる。

 与党でも左寄り派閥が経済界に取り入ろうとしてるしね」


 レッドスクール。

 共産国家の外交官の中で賄賂や美人局で弱みを握られた裏切り者を中心に、最近アジア外交を推進してきた一派だ。


「交流会って名の政治資金稼ぎパーティーに招待が来てる。

 いっそ一発ぶちかまして奴等の鼻ッ柱を粉砕してくるのもアリかな?」

「嫌ですよそんな面倒に関わるの。下手したら暗殺対象とかにされかねませんし!」

 奴等は執念い。

「大丈夫、ちゃんと頼れるボディガード雇ってるから」

 何だろそれ?まさか徐姉妹の手の者、とか?


******


 アジア文化交流パーティー当日。


「時尾司様、お迎えに上がりました」

 と、リムジンで狭い道の我が家に迎えに来てくれたのは、なんと渋いイケメン。

「え~…」

「内務省の赤石と申します。本日のご案内を務めさせて頂きます」

「は、はい」

 白馬の王子様ならぬ、黒リムジンの役人様に一瞬時めいてしまった。

 待て待て!これは孔明の罠だ!

 もしかしたら東側の逆美人局かも知れない!


 車内でその役人氏がパーティーでの注意事項を簡潔に説明してくれた。

「誰かとの握手はお辞め下さい。貴女が『敵国』の政権と連携したと、恰好の宣伝材料にされるでしょう」

…この人が、雅姐姐の言っていたボディーガード、BGか。

「観光大使をお受けになるか、お断りするかは貴女の判断が第一です。

 しかし強要があった場合は、一旦保留の上お知らせ下さい。ロクな事にはならないでしょう。強要であれば裁判に持っていく手もあります」

 まあ、そうなんでしょうね。

「解りました。しかし、もし敵に楔を打ち込む隙であったら、好機ではないでしょうか?」


 するとBG氏は、呆気にとられた顔をした。

「無茶はしないで下さい。貴女の身を案じている人は、沢山いるのです」

 この仕事を通じて、キャプテンや徐姉妹を始め、色々な国の色々な方々。王室とか軍人から亡命者や傭兵さんとかまで、色々な人と知り合えた。

 身に余る光栄という他無いよ。


「その方々に感謝します」

「私も、貴方を尊敬して身を案じる一人です」

 トゥンク…何この告白!BG氏の真剣な眼差しに、時めいてしまった三十路ですよ。


******


 参加者は見事に元東側の人達。まっかだなー。

 それに交じって文科系のインテリな人々も多くいる。敵と味方の識別完了してない方々だろうかな?

 文系は政治オンチか、左寄りが多いからなー。

 後、財界。旧共産圏の安い労働量を引き入れて、人件費の安い日本人の賃金を下げようって魂胆だろうな。

 まさに亡国の輩だ。誰のおかげで贅沢出来てると思ってんだ。


「では、日本文化の宣伝に活躍して頂いた観光業界の超新星、時尾司さんにご挨拶を頂きましょう!」

 出番かあ。え?なんかオッサンがいるんだけど?


「日亜新時代に臨み~、うんたらかんたらで、ほにゃららへにゃらら」

 あれ?

 私じゃなくて、誰だか知らんオッサン、何か聞いたら外務大臣の挨拶が続く。

 しかし奥歯になんか挟まった感じで何言ってんだかわからん、のらりくらりした挨拶だった。


 オッサン、まばらな拍手の中去った。では…

「次にアジア国際交流機関の内関凱雄様のお言葉を頂きます。皆様拍手でお迎え下さい」

 私の番、まだ?


 何だか、会場が異常な熱気の籠った拍手に包まれると、太った油ギッシュなオッサンが

壇上に現れた。さっきの外務大臣との温度差、何?


「日亜新時代の幕開けの今こそ、日本は禊を受ける時です!」

 何言ってだコイツ?うわ!また拍手が!参加者の中には困惑してる人もいるよ。


「日本はアジアの困難を無視し、アジアを搾取し、一人だけ繁栄を続けました。

 今こそ門戸を開き、アジアと交流し、その富を分け与えて一つになる時です!」

 再び異常な熱を帯びた拍手。搾取?門戸?詐欺臭ぇ。


「アナタは、日本人の罪を背負って、アジアに成功を案内する使命を負っています。

 貴女の先祖が、父母が負った罪を!」

 今、何て言った?


「観光大使として、貴方はアジアに謝罪を尽くすために働…」


 ビシっ!

 手が出た。

「親不孝者!!」


 目の前の脂の塊を殴り飛ばしていた。

 しかし、息は落ち着いている。目の前に転がっている醜い脂の塊に言うべき事がまとまっている。

「日本人の罪と言ったな。搾取と言ったな。私の親の罪と、言ったなあ!!

 全て、嘘だ!!

 日本人は、罪を犯さない様、搾取をしない様、親たちが、ご先祖様たちが!

 考えて考え抜いて、余計なことをしない道を選んだんだ!」


 こいつを、私は許さない。


「もし日本人が侵略や搾取を行っていたら!今の日本なんか存在しないんだ!

 激しい戦争で日本中が焼き尽くされ、何百万の人達が苦しみぬいて死んでいた!


 貴様如き裏切り者が!


 軽々しく祖先の英断を侮辱する事は許さない!

 私の父母を罪人呼ばわりしたことを、私は決して許さない!

 出ていけ!日本の大地から出ていけー!」


 会場から何か聞こえる。何を言ってるかわからない。

 あ、引っ張られている。目の前にBG氏がいる。

 よくわからないまま、私は会場を後にした。というかBG氏達に連れ出された。


******


「え~。私、何か…やっちゃいましたねえ」

「お見事でした」え?


「いやいや、普通に傷害罪でしょう?」

 私も嫁入り前に豚箱入りかあ。だが、後悔はしていない。

 あんな歪んだ考えは、思いっきり否定してやらなければ、殴りつけてやらなければ。

 私は奴の考えを受け入れた、そう宣伝する事になってしまう。


「いえ、裁判にはなりますが戦えますよ」

「なんで?」

「あの金豚は貴方に意に沿わない命令を強要しました。立場を利用してね」

 そう言われて見ればそうかな?ん?金豚?


「なのであの場で意思を明確にするための手段を選んだ、でしょ?

 女性であれば多少の狼藉も許されるでしょう」

 それって男女平等に反するのでは?


「まさかブン殴るとは思っても見ませんでしたけどね!はははっ!愉快だ!流石世紀末救世主」

 運転席や助手席も笑ってるし!

「うわ~!私何かやっちゃったー!!」


******


 結局、観光大使の話は立ち消えとなったよ。


 更に、私のパンチは不起訴になった。

「金豚」と言われた脂の塊は何だかメディアと組んで「暴漢時尾司!」「日本ナチズムの誕生!」とかキャンペーンを張ったんだけど。


 そんなのよりずっと早く、ってかリアルタイムで動画配信が世界同時に話題になって各国から「金豚」への誹謗と日本大使館への抗議が即日速攻であった。

 とどめはやんごとなき筋から

「各国から称賛を受けている我が国の若き才媛を守るべし」

 との御沙汰があって起訴される前に不起訴が決まったとか。


「何かどころじゃない事、やっちまったねー!うわははは!」

 ヤーティン、こうなる事解ってたな?

「解ってるも何も。

 最初は私に声がかかったんだけど、私が徐一族って解ったんだろね。

 突如無かった事になったんだ。で、司ンへ御指名だろ?時サンと相談してな」


 それで赤石さん登場?

「彼もね、護児学院の教え子なんだよ」

 世の中狭いなあ。


「あんたが何か言って攻撃された事を想定して、BGを申し出たそうだけど。

 まさかブン殴るとは思っても見なかったって呆れてたよ。笑いながらさ!」

 黒リムジンの王子様に笑われたー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ