241.ガイド飛騨国分寺 七重塔と乳銀杏
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
******
高山城を出て。
おや?お延さんが時サンに耳打ちしてる。すると。
「みんな、予定にないけどここ高山でもう一か所寄って行かないかな?
宿もここで取ろう」
一同、止まる。
「時サンがって事は」
「きっといいとこよ?」
「あ、アレかも」
ランが指さす先には…さっき見た七重塔?
「違うだろあっちだ!」
スーが指さすのは、南の山上に見える、小さい天守。
「御名答」
「「「おお~!」」」
あれは、金森長近が高山に築いたもう一つの城、松倉城。
剪定された山上に数段の石垣と杮葺きの下見板塀や多門櫓、例によって御殿と合体した天守が見える。
「「「城泊だー!!!」」」
思わず喜んでしまう私達に、お延さん達は笑っていた。
******
時が止った街、高山。
あちこちに、何だか2階建てくらいの高さの蔵がある。
「これはデスね、来月、毎年4月に行われる、春の山王祭に使われる豪華絢爛な山車をしまう、山車蔵デース!
高山の街では、春の山王祭、秋には八幡祭が行われて、10を超える山車が街中を練り歩いて、神社に奉納しマース!」
中には、扉を開いている蔵があった。
黒漆塗りの車輪、柱や梁に金銅金具を打ち付け、平安貴族の牛車も驚く足回り。
その周囲は極彩色の透かし彫りで飾られている。
中段は真紅の地に西陣織で彩られた時代絵巻の絵。さらにその上に朱塗りの高欄が巡り、からくり人形が置かれた四脚の望楼。
「スゴイデスネー…」
これガイドじゃなくて、素だな。
「こんな豪華な山車が、沢山集まって言わる春と秋。グレイト…」
次グラがバババーっと液タブに筆を走らせていた。
******
「ウヒョ~」
高山名物、酒蔵巡り。
「時様、行きますよ?」
「待ってよお延さん!あーそっちの深山菊の純米吟醸のしぼりたて生を一升と4合!」
今は時サンに味方したいな。
「私も4合を宅配便で!」
お父さんに送ろう。
「はあ。こういう風情に、台湾の人も大陸の連中も、憧れてるんだなあ…」
「スーちゃん。日本人にだって中華風の華々しさとかに憧れて二千年過ごしてきた歴史があるんだぞ?」
スーとお次さんが、この古い町並みを眺めつつ話している。
「お次さんは大陸行ったことあるんですか?」
「時サンに何度も連れてってもらったよ。それでもまだまだ行き足りない感じかな。
大陸は桁が違うよ。豪華さじゃ日本なんて足元にも及ばないさ」
人口と耕作面積、資源の差も桁違いだしね。
「それで何で私らや叔母さん達は豊かになれなかったんだろうなあ…」
「豊かな奴も桁違いだよ。人数は少なく、富は多く。
そうじゃない市民がこんな暮らしできる日本が、よっぽど変なんだろうね」
何だろうか、ちょっと切ない。
「よーし次は「氷室」買おうか!」
「いい加減になされませ!」
あ、怒られた。
******
ランの熱望で、駅前の飛騨国分寺に参拝。
民宿が建ち並ぶ市街地に、突如天平の伽藍が現れる、なんとも不思議な感覚。
南大門の前の駐車場にバスコンを停めて下車。
「飛騨国分寺は奈良時代の8世紀半ば、聖武天皇の命令で日本全国に建立された、東大寺を総本山とする68の国分寺の一つです!」
ガイドの予定が無かったのにランがスラスラと熱く語る!
「しかし僅か半世紀後に火災、その後再興と火災を繰り返します。
16世紀にも、この地を治めていた三木氏と金森氏の戦いで炎上し、後に金森氏が再興しましたが、それも江戸末期の暴風雨で損壊してしまいます。
そこを高山城代を中心に寺域を発掘調査し、かつての伽藍を掘り起こして天平伽藍を復元したのが今に残る飛騨国分寺です!」
南大門の中、中門とそこから中心部を囲む回廊。
赤い柱に灰色の瓦、青い空に盆地を囲む白い山並。
内陣には金堂…の前に巨大な銀杏が?!
隣にある七重塔程じゃないけど、結構高さはあるよ?
これが飛騨国分寺の「乳銀杏」か。
「全国の国分寺には聖武天皇の命で七重塔を建てる事になりました。
しかしここ飛騨では棟梁の一人が誤って柱を短く切ってしまいました。
それを聞いた棟梁の娘、八重菊さんが『短くなった部分の上に組み物を乗せれば見栄えも良くなるのでは?』とアドバイスしました。
結果、塔は見栄えが良く工事も進み、棟梁の評価も上がりました。
しかし棟梁は自分の失敗を隠すため八重菊を人柱として殺してしまいました。
信心深い八重菊は、自分の命で寺を守り、世の女達の願いを聞き入れるよう祈って死を受け入れました。
八重菊の埋められた場所に銀杏が植えられました。
この木が育つと、枝から根が垂れ下がり、人々はこれを乳に見立て、この銀杏に祈ると乳の出が良くなり子供がよく育つと崇められる様になりました」
そう、悲劇と健気さの伝説が生きている木だ。
ただ、この樹は雄の木なので実は生らないんだけど、それは言わんとこう。
******
銀杏の後ろ、朱塗りの柱が眩しい金堂。
その中にはご本尊、釈迦如来像。デカい。人の背丈の数倍はありそう。
金色に輝く釈迦如来を前に、ランは泣きながら
「永平寺には行けなかったけど、歴史ある国分寺を見られて嬉しいー!
やっぱり仏様は大切にするべきなのよー!!」と興奮。
「コラ、ガイドどこ行った!」
聞こえてない。スーがまたまた美貌の笑顔に変身してガイドを替わる。
「え~。本来国分寺の本尊は釈迦如来でしたが、幾多の戦火で焼かれるうち、武蔵国分寺やここ飛騨国分寺等では焼かれずに済んだ薬師如来が本尊とされました。
この釈迦如来像は、高さ4m超の大型の仏像で、幕府城代によって天平伽藍が復元された際に再興されたものです。
なお、それまで本尊として人々を見守っていた薬師如来像は、金堂の北、講堂の中央に移され、第二の本尊として変わらぬ信仰を集めています」
更に金堂の後ろ、講堂…を模した方丈の中央には、それまで本尊とされていた、創建時から残っていたとされる薬師如来像。
「仏様は大切だ~」
「だからガイドに戻れて」素に戻ったスーの声も届いていない様だ。
金堂の東に、七重塔が建つ。
「この塔は、金森氏が復興した五重塔が倒壊した後、その材木を再利用して七重の規模に改められて元の礎石の位置に復元された物です。
元は白木の塔でしたが、伽藍の復元に伴い、弁柄と白壁の天平様式で再興されました」
「こないだ見た越後の国分寺は、廃寺だったなあ…」と、見上げつつスーがこぼす。
「こうして元の伽藍が蘇った国分寺って、幸福だよネ」
「どうなのやら」私は時サンをチラと見る。
「大事なのは祈りの場として今に伝えられている事だよ」
さいでっか。
「昔、諸国国分寺巡り行ったなあ…」
「イッタネー」
グラ玉がボソっと懐かしそうに言った。
何それkwsk!
******
※高山は飲兵衛7蔵巡りなんて観光企画がありまして、今回出てきたのはその内の下記2蔵です。
https://www.funasaka-shuzo.co.jp/
http://niki-sake.com/
7蔵巡り…これだけで1日かかりそう。
※実際の飛騨国分寺は、室町時代の本堂を中心に、18世紀末再建の三重塔、高山城遺構の鐘楼門等が残り、劇中に登場する薬師如来をご本尊として天平の祈りを今に伝えています。
この物語では天平伽藍復元と言っていますが、発掘調査の結果、現存の金堂とほど同一の場所に金堂の基壇や礎石は確認されましたが、天平伽藍の寺域や伽藍配置等は調査されていません。
七重塔心礎が金堂のすぐ右隣にありますが、これも現在では不明となった元の位置から移された物です。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。




