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235.ガイド高岡城 隠居城その2

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


『懐かしい路面電車から、一気に高速鉄道か。日本と言う国は新旧ごちゃまぜで面白いな』

 とキャプテン。いえいえ、英国面に比べたら…。


『だから私達が多くのお客様をご案内できるのですよ、伯爵』

 と善姐姐。


『その通りだ…お?もう着いたか。』

『え~?宴会しないのかよ?!』流石毘姐姐である。


 一行は富山駅から高岡駅まで僅か10分程度を北陸新幹線で旅した。


「あっ!〇ラえもん!」

 駅前には、人気漫画のキャラクターたちのブロンズ像が建ち並んでいる。

 有名な漫画やアニメには政府から助成金が出て、その作家の出身地の振興に一役買っているとの事。故郷に錦を飾るって奴かな?

 刀利ちゃんが丸いロボットの頭をなでなでしている。


 駅からまたまた路面電車、高岡軌道線で移動。

 キャプテン達英国組は岡山や広島で路面電車を楽しんでいるので、今回もニコニコ。

 周りの乗客たちは…地域ニュースで一行を知っているのか、そちらもニコニコ。

 会話するでもない、ホンワカした空気を乗せて、路面電車は城へと進む。


******


 一行は3つめの停車場で下車。そして大手門へ…

『これが高岡大仏か!』

 大手門の手前に、大仏様が鎮座おわしましている。

 ひょろ~ん、っと高く上に延びた大仏殿の中に。


「司ン!仏様を大切にするのよ!」なんかランが異常に興奮してる。

 ここの解説、やりたかったんだろうなあ。


『え~、では。

 この高岡大仏は、ここ高岡の町から少し離れた山の中腹に、13世紀に源義勝なる人物が京の都の争乱を避けて建立したとされていますが、この人物や建立の年代の伝承には謎があり、正確な情報はありません。


 先ほど訪れた富山城を築いた前田藩二代当主利長がこの地を終焉の地とすべく開拓し、その際この大仏を移築し、大手門前に大佛寺を開山しました。


 江戸時代を通じ幾度か火災の危険にさらされながら、雨天井を改良した地鯱、つまり散水砲に守られていました。

 20世紀に入り老朽化が激しくなり、高岡の銅器産業の宣伝も兼ね、有志の寄進によって現在の金銅仏が鋳造され、更に大仏殿が建てられ、現在の大手前に威容を誇る大仏寺が完成しました』


『ちゃっかり仏様を宣伝に使ってるねえ、地元産業』

 と持姐姐、鋭い。

『ん~?仏様を寄進するのは素晴らしい。でも宣伝?う~ん』

 悩むラン。

『地元産業の発展を祈り、得意の鋳造技術とはいえ7mもの仏様を寄進する事は、並大抵の努力ではなかったと思うよ?』

『そうかー!発起された人達にもご利益があったでしょうね!』

『え~、残念なことに発起人は完成を見ることなく他界しました』

 ランは無意識に合掌した。


******


 江戸時代よりも立派になった伽藍を後にし、その先、北側に向かう。

 時折チラチラとランが大仏の方を振り返る。敬虔だなあ。


 そこには、石垣の上、隅に二層櫓、そして塁上は多門櫓、それも海鼠壁でビシっと固めた堅固な城が聳えていた。


『こりゃ久ッ々にご立派な城だなー!』何だか毘姐姐が、謎のヤル気に満たされている。

 何をやる気なんだろうねえこの人!


 二層櫓と単層櫓に左右を固められた大手門を入る。

『高田城は、富山城に続いて前田利長が築いた隠居城その2、です。

 単に別荘気分で建てたわけではなく、広大な前田家の領地の要所要所を抑える拠点の一つとして築いた、そう思わせる巨大な城です。


 しかし利長死後、富山城が越中国支配の中心となり、この強固な高岡城は幕府の支城として前田領の真ん中に敵を置くという皮肉な結果となりました』

『オウ!…世の中は皮肉だなあ!』キャプテンが天を仰ぐ。


『しかし災害や凶作の際の領民救済の拠点として活躍しましたので、利長公の意図は実現したのではないでしょうか』ちょっと補足しておく。


 城の南隅、小さい方形の鍛冶丸は曲輪そのものが枡形の様な造りで、西に続く二の丸へは大きくUターンする形で進む必要がある。

 そのルートの先、内堀で守られた本丸南隅にも二層櫓。


『高岡城は富山城と似ていて、方形の本丸を二の丸、三の丸が馬出の様に囲い防御しています。そしてこの二の丸と、先ほど通過した大手門がある鍛冶丸の二つの曲輪が、城の南側を守っていました。

 では、本丸へ行きましょう!』


 その本丸大手も、両脇を二層櫓、枡形を二層多門で囲まれたスーパーキルゾーンだったりする。


 そしてその内部は、白壁で囲まれた巨大な御殿。その玄関部が、大手内側の先に現れている。

 御殿は、富山城に準じた物だった。


『戦国末期の日本ってのは、こんな大きな御殿をバカスカよくも建てまくったもんだね』

と持姐姐。

『15世紀から革命的に発展した農業による生活の質的向上、人口増加、そして鉱山開発に海外貿易。まさにアゲアゲな時代だったのです。

 そして、その後に来るであろう停滞の時代に、どう上手く抑え込むか。

 東日本出身の徳川家の、派手さを抑えた家風。

 そして継続される南蛮貿易と、国内の金銀流出を抑えるための産業振興。


 17世紀初頭にしろ、19世紀初頭にしろ、旧政権が新政権へ権力の維持に拘らず、日本を最善な状態にするため知恵を凝らして穏やかに変化させた。

 天下人すら国の前に謙虚になって席を降りた。

 その偉業こそが日本の発展の礎になったのでは。

 浅学ながら私はそう思っています』


 キャプテン一行も、徐姉妹も深く頷いた。


『ま、どこかの誰かがこのバランスを上手~く取って、発展期から停滞期に上手~く橋渡しする様工作したんじゃないかとも、勝手ながらそう思いますよ~』


 私は時サンをジトーっと見た。

 時サンは明後日の方向を見ていた。彼に寄り添っていたお延さんがニコニコ笑っていた。


******


 本丸御殿の大広間から、五層天守を見上げる。

 海鼠壁に飾られた初層の軒が高く、初層と同じ規模の二層が窓一つ分の高さ。

 その上に大入母屋。それが三層、四層と交差し、最上層の高欄。

 そして、大入母屋には銅板を張った唐破風を乗せた出窓。

 富山城三階櫓の下に二層の下駄を履かせた様な、華麗で大きな天守だった。


『高岡城の天守は本家の金沢城に準じた巨大建築です。

 その意匠の華麗さは天下人の城を除けば、日本国内でも上位に位置する物です』

 と言う前に、毘姐姐はダッシュ。刀利ちゃんは善姐姐がホールド。

 しばらくすると最上層から「ヤホー」と毘姐姐。

 文化財の中走るなてアラ還様。


******


 本丸の北東には木橋が架かっている。

『こちらが本丸と三の丸、本丸の北東部を守る竹藪と言われる一画を結ぶ貫土橋です。

 土橋と言っていますが、実際は有事に橋を切断できる引橋です』


 本丸の外から見た本丸北部は、天守を中心に三層櫓を従え、更にその手前に二層櫓。

 高石垣の上にそれらが聳え、更にその間を海鼠壁の多門櫓が巡るという、江戸城か大坂城かというレベルの、正に天下人の城の様な豪壮な風景だった。


『この地方都市ですらこんな巨大な城を築いた前田家というのは、どれほどの力があったのだろう。

 次の金沢城が楽しみだ!』


 しまったー!一行の期待値、すなわちガイドのハードルを爆上げしちゃったよ!


******


※北陸新幹線は実際は高岡市内より離れた新高岡に駅があります。在来線利用方式で高岡駅を通過する計画がフル規格新幹線となり新駅が必要となり…今に至ります。

 この物語では江戸時代の17世紀から、高速鉄道を念頭に置いて全国鉄道網が計画されたチート状態なので、各城にとっては利便性の高い立地になっています。


※〇ラえもんのモニュメント。藤本先生の故郷なので、駅前に小さな像達が元気に並んでいます。鳥取県境市の〇ゲゲの鬼太郎と仲間の妖怪達とか、福島県須賀川市のウルトラ兄弟と怪獣とか、微笑ましい限りです。

 尚、路面電車高岡軌道線は、現在第三セクター万葉線として運行されています。


※高岡大仏。日本三大大仏の座を色々と競っている様ですが。

 劇中と違って、実際の高岡大仏は2度火災で焼けています。

 現在の三代目青銅大仏は、薬屋を営んでいた松木宗左衛門が家屋敷を売り払って資金を集めたものです。

 当初木造再建を計画していたのですが、青銅仏に変更し4倍の費用がかかったとか。

 松木氏亡き後、漁業や倉庫業を営んだ荻布宗四郎が寄進し、ようやく完成したとか。

 劇中のヒョロっとした大仏殿は、資金不足で実現しなかった松木案です。

http://www.takaokadaibutsu.xyz/


※未完成で廃城となるも、その構造が今なお残されている高岡城。

 劇中では総石垣の城として描いていますが、その様な計画があったのか、或いは富山城の様に主要部のみ石垣とする計画だったのかはイマイチ判然としません。


 土塁の城であったと想定する復元図、香川元太郎先生の絵は下記の通り。

https://rekishi.kagawa5.jp/204-%E9%AB%98%E5%B2%A1%E5%9F%8E/%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E7%9C%8C/


 総石垣で、天守まで上げられていたら、という夢モリモリの想像復元模型が下記の通り。個人で作られた模型だとか、脱帽。

 現在の城跡で石垣があるのは、本丸と二の丸を繋ぐ土橋の一か所だけです。

http://kojyopark.sblo.jp/article/181735711.html


※劇中の五層天守は…まあ、夢。です。

 この部分、絵図では材木蔵となっていて、天守建築の計画の名残を伝えていて、なんと言うか無常を感じさせます。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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