233.お宿はブラックキャッスル もしもの世界
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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「チアーズ!」「ボダラー!」「カンパーイ!」
また豪華な宴会が始まる。
昼に続いて、カニやら牡蠣やら豪華な海の幸満載だ。
しかし、そこには少しの寂しさが漂っていた。
『数日とはいえ、久しぶりに会えてうれしかったよ、ミスツカサン』
キャプテンが言ってくれた。
『まあ、せいぜい足掻く事ね』
こいつイヤミだなあ。
「サァ~ンクス、メアリィ~ェ」
こっちも負けずに嫌ァ~な笑顔で返してやった。
『例の件、宜しくお願いします。貴女の事を頼りにしているわ。大切な、日本のお友達』
『恐縮です。全力で取り組みます!』
かつて思いをぶつけ合ったバージニア様と抱き合う。
これからもユイ・マリナーズとは情報や企画の提携で関係が続くだろう。
相互の利益だけでなく、両国の理解に繋がって欲しい…いや、繋げなければ。
『妻も心強い友人が出来て何よりだ。次に君に会うのは、ビジネスか、或いは…』
サム子爵の言う或いは、とは。
山陽山陰クルーズでご一緒だった若いカップル、アランさんとサンドラさんの事だろうか?もうそんな事になってんの?
『どちらにしろ、ポプキス卿ともまたお会いしたく存じます』
『そうか!彼も喜ぶと思うよ。その時は是非ミスター亘の美しきご夫人達ともお会い出来れば、より驚くだろうなあ』
日本の城大好き騎士爵、ポプキス騎士爵もお元気だろうか。城の絵を描き続けてる次グラコンビに会ったら喜ぶだろうなあ。
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「明日は貴女の案内かしら?」
「チャープランと私の順番です」
「みんな色々個性的になって嬉しいわ。よいお手本が近くにいたお陰ね」
「そんな、皆の努力ですよ。見ていてホント楽しく思います」
楠見夫人からお褒めの言葉を頂いた。
四国ツアーではお客さんだと思ってたけど、今では旅行案内やら海運やらの大御所のお言葉。この気持ちを裏切らない様にしないと!
「明日まで見てるぞ、手ぇ抜くなよ?」
とは摩耶姐姐。こちらも大先輩のお言葉だ。
「アイツ等ギャフンと言わせてやんなよ!てかもう軍隊の送迎付きって勝負は決まってるか!アッハッハー!」
「抜かせこのヒヨっ子の行き遅れ!」
「一言余計だババア!」
ヤーティンェ…
持姐姐と毘姐姐は、時サンにベッタリだった。
お延さん達が、テキトーにブロックしてる。スゲェ…。
あ、キャプテンが時サンに挨拶に行った。
それを持姐姐がブロックし、更にお延さんが持姐姐を尻で跳ね飛ばし…
なんだかこの世の果てを見た気がした。コエェ…。
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『そもそもミスツカサンはなんで案内士になろうと思ったんだい?しかも城ツアー特化型ってのも面白いし』
酔いが回って来た時、今さらながらキャプテンが聞いてきた。
『ハオ、なんか知ってる?』
摩耶姐姐がスーに聞いた。
『いんにゃ。3年の学園祭の時に、イキナリ凄い展示を始めてさ。面食らったよ』
スーの発言にランもミキも頷く。
『あ~あの左翼工作員ブチのめした世紀末伝説の』
それ忘れてー!
でも、いいのかな。色々言っちゃって。
「いいですよ、司さん」
私の心を見透かした様に時サンが言う。いいの?言っちゃうよ?
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私が時サンから聞いた、私の知らない歴史。
それは酷かった。
いや、ある意味まともで普通の歴史だった。
織田が明智に滅ぼされ、豊臣が天下を取り、繁栄の果てに暴虐を行い、得る物が無かった外征を行い、徳川に滅ぼされた。
その後、260年の平和の後、少ないとはいえ苛烈な内紛の後、西洋の近代化に遅れて日本は近代化し、大国と戦って世界の強国となった。
その戦いの中で、日本は歪になり、奢った。
そしてレイシズムとジェノサイドを仕掛けた敵の罠を見抜けず自ら飛び込んで行き、国土を焼かれ国民の一割を犠牲にして、独立国として幕を下ろした。
それでもジェノサイドを免れた国民は再び国を蘇らせたが、対立する敵国が手名付けた傀儡同士が政府を牛耳り国内で争う形となり、詐欺師が政府を乗っ取り経済破綻を起こして、最後は五公五民の没落国家みたいな重税にあえぎ、国民は夢も希望も失った。
『私達の歴史は、とても成功したものだと思います。
しかし歴史に学ぶというのは成功を学ぶだけでは足りません。
もし、愚かな選択をして、破滅を招いていたら。
どれだけの人が命を奪われ、今の幸福がどこまで削ぎ落されてしまっていた事か。
歴史を学ぶというのは。
失敗した可能性をも学ぶ必要もあるのでは、その失敗によって引き起こされたかも知れない悲劇を予測し、これからの未来にその失敗を許さない。
失敗した可能性を検証し、その被害を想定し、失敗の芽を摘む。
そうしてこそ初めて、歴史を学んだ。そう言えるのではないかな。そう思います』
皆、私の話を聞いてくれている。
時サンも、お延さん達も。
『私が皆さんに案内させて頂いた、日本の城、寺。
古い物好きな父の影響もありますが。
城は権力の象徴です。
江戸東京にある江戸城や御三家の屋敷、寛永寺に増上寺、東照宮。
京都にはもっと華美な建築もあった筈です。
しかし、16世紀以前の物は多くが失われています。
巨大な建築、それは権力の衰退と共に消滅する運命にありました。
でも今それらは残っています。
後日復元されたものもあります、東大寺や平泉の様に。
それは膨大な労力と費用を費やされて、大切に残されています。
今では防衛にも、貴族となった大名の権威にも、世間的には何も役に立っていない、無用の長物です。
観光資源というのは、その残滓に過ぎないと思います。
でも、そんな華やかであり儚い存在が、今でも残されている。
残してくれた人たちがいる。
もし、そんな決意がなければ。
敗北した権威を否定する業火に焼き滅ぼされて、記録も残されていなければ。
豪壮な天守があったのか無かったのか、その姿の記録も焼け失せて。
人の命も、巨大な建築も奪われて消えて。
これからの歴史で、今ある遺産も、私達の命もどうなるかわかりません。
でも、歴史に親しみ、想像の幅を広げ、悲劇を避けるには、命を守るにはどうしたらいいのか。
そう考え続け、そういう情報に接し続ける事。
それが、とても大事な事の様に感じたのです』
いつの間にか、私はお延さん、お次さん、グラシア、お玉ちゃんを見て話していた。
お延さんが、私を抱きしめてくれた。
何故だか、涙が出た。私も年を取ったかな?二十歳そこそこなんだけど。
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『あんた。偉いねえ』
ボソっと、持姐姐が言った。
『ウチの国だとそんな立派な考えを持った奴ぁ真っ先に殺されちまうからね。
いや、殺されちまったなあ。みんな、全員…』
被せる様に毘姐姐が言った。
『私は。祖国の栄光を疑ったことは無かったよ…』
キャプテンが言った。
『どうすれば大英帝国の栄光を維持し続ける事が出来たか、なんてのは馬鹿々々しい妄想だ。
植民地経営の破綻と独立。これは歴史の必然に過ぎない。
私は、海洋国家として世界を行き交う事こそが我が国の未来を拓くと信じ、努力した』
サム子爵が言葉を継ぐ。
『まあ、US独立を許したとか、ファシズムの台頭を許したとかの反省とかはあるが…
それもまた歴史の必然だったと思う。それまでだったなあ…
その結果、この子を、一人にしてしまった』
『私は一人じゃなかった!』
『もっと私達に、今ツカサンが言った様な知恵があれば。
それは今となっては虚しい。しかしこれからの教訓になる。
大事なのは、未来のために今一度過去を見つめ直す事だ、ツカサンの言う様にね。
成功の裏に隠れていた失敗の可能性と、危険性かあ。難しいな。
ジニー。今から一緒に勉強しようね』
サム子爵が、愛しい妻を暖かく抱く。
ちょっと重い、しかし少し暖かい空気がそこにあった。
『貴方達も責任重大よ?』
お?レイシストのメアリィ~がミキに言った。
『日本や台湾みたいな成功した国に頼ってるだけじゃ駄目。
故郷に錦を飾る、って言葉があるでしょ?
しっかり働く男を捕まえて、駄目男が生きていけない世の中にしちゃいなさいよ!』
何か凄く意地悪い笑顔してやがる。
『とっても難しい宿題デース!!私真面目な日本の男がいいデース!!』
『天は自ら助くる者を助く!自分の国で何とかしなさい!』
メアリィ何気に日本の諺知ってるなあ。
『ハハハ!無茶いいやがる!』
メアリィ~とミキのコントに毘姐姐が突っ込んだ!そういや私の知ってる徐5姉妹の旦那様、みんな日本人じゃん。
『皆さんが、これからどんな活躍をして、どんなご縁に恵まれるやら。
後20年位が元気でいないと見届けられませんねえ』
善姐姐が上手くフォローしてくれた!
すみません重くした空気を軽くして頂いて!
『20年か、いい線か…ゴブゥ!!』
お延さんが笑顔で時サンに肘鉄食らわしたア!
お次さん達がゲラゲラ笑いだした!
つられて、皆が笑いだした。
名残惜しい夜が、時計の針が、加速度的に過ぎて行ってしまう。
楽しい時間って、楽しくなればなる程、素早く過ぎ去ってしまう。
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そして日替り温泉へ水着で、しかも混浴で!男性陣は爺様ばっかりで!
ラウンジで、またはレストランで二次会に突入。
冬にしては穏やかな日本海から沿岸を眺めつつ。
何だか徐姉妹に小突かれたり抱きしめられたり、飴ズと男の価値について激論してたらお延さん達が面白そうに聴いていたり、飴ズが時サンに突っ込んで行って徐姉妹に跳ね飛ばされたり。
刀利ちゃんがグラシアと仲良くお絵かきしてたり。
私も誰かにもたれかかってちょっと寝入ったり。
目が覚めたら、飴ズと一緒に豪華な寝室で朝を迎えていた。




