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229.お宿はブラックキャッスル それぞれの思い出

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


「チアーズ!」「ボダラー!」「カンパーイ!」

 本日二度目の、いや新発田城御殿も入れれば三度目か。

 乾杯は、何度やってもいいものです。


 前のホワイトキャッスルは家族用、4~5世帯用の豪華なラウンジとホールを備えていた。

 このブラックキャッスルは、倍以上のお客さんを収容できるラウンジとバンケットがある。さしづめ浮かぶ宮殿の様な船だ。

 もうヨットじゃなくて豪華客船なんじゃないかな?

 あ、まだ豪華客船という程の、数百という収容人数は無いのか。


 夜になると柱とかシャンデリアとか、金細工が眩く輝く。


******


『私はね、この素晴らしい日本の城や寺院、神社、そして温泉に風景。

 東洋で輝きを失わない文化の塊をより多くのヨーロッパの人々に知って欲しい。

 日本だけではなく、東南アジアの文化も、人々の暮らしも。

 そのために新会社を立ち上げたのです』


『これは心強くも手強いライバルが出来てしまったものですわ!

 どこかで休戦ラインでも儲けましょうかしら?』

 応じる善姐姐。おお、ビジネス合戦が始まった!


『当方は欧州のお客様をアジアへ案内する方針ですので、お客様の棲み分けは出来ているかと思います。

 現地の輸送や歓迎、グレード区分、そして案内地…』

 サム子爵が語り、バージニア夫人が補佐する。

 サム子爵、ビジネスの場では頼もしい方であったかー!


『ジョ・ツーリズムでもヨーロッパ志向の富裕層は既存の取引先ではカバーしきれていません。現地に台湾語やタイ語の堪能なスタッフがいれば大変心強く…』

 持姐姐がこれに応じる。

「いやー!歩き回った後の酒は美味いなー!」「イエス!マム!」

 毘姐姐は相変わらずだ。刀利ちゃん、懐いてしまっているー!


『日本国内の案内士の提供や、お客様の嗜好に合わせたプラン立案であれば当社にご相談頂ければ最適な旅行をご案内致します』

 雅姐姐も食い込む食い込む。


 まーそーだよね。英国からアジアまで航路を持つピーコック社、台湾、香港を拠点に東南アジアを網羅する徐海運、日本国内の富裕層向け旅行企画のエース、案内士になろう!社。

 そこに幾多の人材を輩出する護児学院の時サンと来たもんだ。

 ビジネスの嵐が巻き起こらない筈も無く…


「なんで私みたいな学生バイト上がりがいるんだろ?」

「まあまあ!台風の目が何を仰っているのでしょうね!」

 呆れた様な驚いた様な、初めて見るお延さんの顔が目の前に。

「お延姉…こんな顔久ッ々に見た…ある意味すげぇな司ン」

 とお次さん。


「ここにいる皆様、貴方がお呼びになったのではないですか!」

 何とも言えない表情でお延さんが言う。


…そうだったー!


******


 宴も酣でございます。まだまだご歓談は続きます。


『ミセス善見。ミセス花持。ミセス毘秀…はあっちか。

 私は、貴方達には一生返せぬ恩を受けた。

 今、こうして娘と、娘を友と迎えてくれた妻、そして共に…無謀な賭けに命を懸けてくれた友と一緒に居られるのは、貴方達のお陰だ。

 個人としても、ビジネスであっても、その恩を返し続ける事を改めて誓う』


 徐姉妹に跪くキャプテンとバージニア夫人、そしてサム子爵。

 苦々しく見るメアリ夫人。


 善姐姐が優しく答える。

『英国貴族が跪礼する相手は女王陛下か他国の貴賓だけでしょう。

 私達の様な海賊崩れにはお言葉だけで充分ですよ伯爵』

 今海賊崩れって言わなかった?


『それにさ。私達だって貴方達だけのため、って訳じゃない。

 私達が受けた恩を誰かに返したかったのが半分。

 後は私達を故郷から追い出した奴等の勝手にさせたくなかったのが半分さ』


『護児学園、ですか』とキャプテン。

 一同は時サンを見る。

 毘姐姐に迫られて平手で頬を制しつつシャンパーニュ飲んでる時サン…何気に珍妙な光景だな。

 この人達にとっては珍しくもないのかな?


『あの人がいなきゃ今頃私達は東シナ海の鮫の餌さ。

 あの人が根無し草の私達に出資して学を付けてくれて、会社を興す支援までしてくれた。

 だから革命とかに浮かれる人殺し共から、見殺しにしちゃあならない人達を運んだり、戦わなきゃいけない人達にコッソリ色々なブツを運んだもんだ。

 今日私達を迎えてくれた軍人さん達も、大体解ってんだろうね』


『日本軍は沈黙し、幾多の民間有志が動いた、か。

 ここにはいないミセス増幸の御主人や、ミスター楠見達の様な勇気ある人達が。

 彼らを動かしたミスター亘。あの人は底が知れない』

 キャプテンが厳しい眼差しで時サンを見つめる。


『案外先の事を知ってるだけで、底はそんなに深くなくて単純かもね。あとスケベ』

『これ持!先生に何て事を!』

『いや、男は女に惹かれてこそ男だ。それ程に貴女達姉妹は魅力的だって事だ。

 昔も、今もね』

『あらやだボンボンも言うじゃないか!』


…年寄達の過去の話を、ついでに惚気話を、私はズーっと聞いてしまった。

 村上で買った日本の地酒人気NO.1の「〆張鶴」を頂こうと思ったら、場所的にハマってしまったのだ。抜けられない場所に。


 生きた心地しねえ!


 隣でスーも青い顔してるし。

「叔母さん達やべえやべえと思ってたけど、亡命とか武器密輸とかヤベェどころじゃないよ、マジ海賊じゃん!」


『君たちも』

「「ヒェエッ!!」」

 聞いてた事バレテーラ!!


『正しいと思ったことを、思い切ってやる度胸が…

 いや、それは君たち若い人が判断する事だ』

『しっしかし!その決断があって、今…

 こんなに皆さんが楽しそうに集まっています。

 時サンはちょっと特殊で真似できませんが、私も他人の役に立てる働きが出来れば。

 そんな風に思います』


 何だか小学生みたいな事言ってしまった。


『やはり君の心は真直ぐだ』

 と、キャプテンは言ってくれた。

『青臭いけどね』余計だぞメアリィ~!


 お、時サンがこっち来た。しがみついてる毘姐姐を引きずって。

 毘姐姐をヒョイっと善姐姐に引き渡すとキャプテンに挨拶し、〆張鶴の入ったぐい呑みグラスを掲げる。

『大変ご無沙汰しております、伯爵、子爵、そしてご夫人方』

『相変わらずお変わりなく、ミスター亘』ドン・ペリニヨンのフルートグラスを掲げるキャプテン。


 まあ、バージニア様救出作戦を巡って色々面識もあったんだろうなあ。

『いかがでした、私の愛弟子、ミス時尾のガイド旅行は』

『素晴らしかった!楽しかったよ!ついまた来てしまった!

 やはり先生のご指導の賜物でしょう!』

 やだ、キャプテンの時サン評、高過ぎ!


『彼女をユイ・マリナーズに迎えられなかったのは残念です』

『やはり大学出たての日本人に地球の反対側での就職はハードルが高いかと思いますわ』

 雅姐姐が談笑?に加わる。

『是非ミス・ツカサンのお知恵とお力を当社にもお貸し願いたいものです、ミス・ヤーティン』

 ピーコック社にも名が知れ渡っているのかヤーティン!!

『若き才媛を、大切にしてあげて下さい』

『ええ。この子達には、新しい時代の旗手になって欲しいと思っています』

 すると摩耶姐姐も。

『ピーコック卿、貴方は新しいアジアの明日を夢見ていました。

 同じ様に、亘様も、叔…姐姐達に未来を見ていたのではと思います。

 新しい、より良い明日。それを邪魔する者との闘い。

 私達は皆さんの想いを継ぎに託す使命がある。そう考えています』


 暖かく、固い気持ちを、ここに感じる。

 みんな必死で生きて、それだけじゃない、未来を掴むため、過去を越えるため頑張ってきたんだ。

 幸せな今を生きてきた私に、それまでの事が出来るだろうか?


『良い人達に出会えたね、ミスツカサン』

 キャプテンが、慈父の様に微笑んだ。

 バージニア様も、メアリ夫人も、この微笑みに守られて今があるんだろうなあ。

『微力ながら、尽くします』

 そう返すのが、精いっぱいだった。


「ホラ、あんた達もだよ!」

 素に戻った?摩耶姐姐に背中を叩かれて、スー達も来た。

『は、伯爵!わた、私達も』


 摩耶姐姐がスーの肩に手を置く。

 すると、彼女は落ち着いて。

『観光案内は、文化交流の最前線です。経済交流の最前線でもあります。

 良好な関係は平和の架け橋にもなります。

 私達の力は小さいですが、それが集まれば小さな波を起こせる、そう考えます。

 私達東洋と、伯爵様の文化が交わる一助になればと思い、尽力します』


 ランもミキも頭を下げた。


『素晴らしい考えです。

 いつか、一緒に働きましょう。宜しいですね?ミセス・マヤ、ミス・ヤーティン』

『この子達は高くつきますよ?』

『ははは!厳しいね!』二人は握手し、そして雅姐姐、私、飴ズとも固く握手を交わした。


******


 私達の部屋…なぜかお延さん達4姉妹もいる。人口密度高いなー。

「ありがとうね、司さん」

 お延さんが何故かお礼を言う。言いつつ、〆張鶴を注いでくれる。


「まだわかってねーな司ン」

「あんたがあのスゴイお歴々を一同に集めたって事だぞ」

 似た口調でお次さんとスーが言う。


「わかってんじゃん」「わかってないのはコイツだけです」「そだな!」

「「はっはっはー!」」仲良しさんだな。


「司ンってセレブだったんだー」貧乏学生だよミキ!

「仏の加護を受けし者!有難やー!」拝むなラン!


「ツカサン、皆がダイスキネ!セラマード(愛される人)!」

「そうでもないよ、伯爵夫人は私の事嫌いだし」

「え~?あの人、絶対司ンの事大好きだよ!」

「何でよお玉ちゃん?いつも意地悪く突っかかってくるんだよ?」

「嫌いだったら声なんて掛けないし、伯爵夫人とっても楽しそうだったよ?」

 え?周りを見ると…みんな頷いてる?


「それは無いでしょ~?」

 みんな首を横に振ってる!ナジェディスカ~?!


「メアリ様ならアジア援助基金を脱退してな、職業開発基金に参加したんだぞ?

 表面的で一方的、押し売り支援は終わり。キッチリ働ける人材を確実に育成する支援に切り替えたんだ。現場では鬼婆扱いだそうだぞ?」

 それはそうだろうねえ…あの人の本気は怖そうだ。

「バージニア様を守るため、意地の悪い貴族子女に相当な事をされたみたいですよ?」

 何それ?!初めて聞いたよ!

 てかお延さんもお次さんもよく知ってるなあ?!

「時サンが助ける人達って、いい人達ばっかりだよ?」

 笑顔でお玉ちゃんが言う。

 本当にその通りなんだろうな。

「利用するだけの人もいるけどな、剥げ鼠とかな」

…本当にその通りなんだろうけど。


 その後、怒涛の女子会になだれ込んだ。

 明日のガイドもある。そろそろお開きにしないと。


「寝てしまうのがもったいないですね!」

 お延さんが眩い笑顔で言った。


******


※前話で一行がちょっと寄り道した先、それが今話登場の「〆張鶴」です。説明不要!飲むべし!

https://www.shimeharitsuru.co.jp/


 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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