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221/251

221.お宿は満員 どうしよう

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 弘前城本丸の石垣を堪能し、一転して長閑な二の丸の土塁上の長壁、楼門、三層櫓を眺め。

「あ~、ここがこの旅の北限かあ~」

 私はちょっと残念だった。


「ま、退避行動も含め、いい演習になったさ」

 スーがなんとなくまとめ役としていい感じの事を言ってくれる。

 こういう相棒が居たら、いろんな仕事もやってけるだろうな。

 私は別の会社だ。ちょっと寂しい。


 そして宿、ビジホへ…

「「「何があった」」ネ~?」

 ホテルに人が押し寄せていた。

 急ぎ携帯で交通情報をチェックする私達、一斉に顔を見合わせた。


 札幌~函館で新幹線が立ち往生。

 弘前駅がパニック状態。


 それで駅前のホテルを求めて人々があふれてきている。


「早めに決断してよかったな」

…それでいいのか?

 見渡せば親子連れ、赤ちゃん連れの家族までいる。


「よせ司ン、気にしたらキリがない。全員が無事過ごせる訳なんてないぞ」

 スーは割り切りが早いな。

「補助ベット出してもらって私が床で寝れば一部屋空く。

 それで泊めて貰えるか話してみるよ」

「司ンが風邪ひいたら元も子もないだろ!」


 スーの言うことも正論だ。

 私達は復路の旅で色々学ぶ権利がある。

 でも。


(時サンだったらどうしただろうか?)


「赤の他人でも小さい子が風邪ひいたり寒空に晒されるよりマシだと思う。

 全員は無理でも、たとえ一人でも。

 私達はその想いで今を生かされているんじゃないかな」


 ?今ちょっと大それたこと言った?


「あんたって奴ぁ…」

「慈悲の心かあ」

「神の愛ネ」

 よせやい照れるじゃねえか。


******


 フロントに相談し、キャンセル料をまけてもらいつつギチギチの宿泊を選択。

 そこからホテルは宿泊客に「2部屋に分けて泊まっている人で部屋を開けてもらえないか」と個別に頼み込んで、数部屋を確保できた。

 まだ宿に着いていない予約者にも連絡し、キャンセル料ナシを伝えたところ更に数部屋が空いた。

 チェックインする人が館内に入り、ロビーの混雑は解消した。

 様子を見にランとミキが降りてきた。


「焼け石に水かもしれないけど、確実に泊まれる人はいる。

 やらない偽善よりやる偽善って奴よね」

 とスーに言ったところ


「案内士になろう!社の時尾様ですね?」

 と声を掛けられた。


 え?と思うと、身なりのいい人がカウンターから出てきた。

「この旅は非常事態に譲歩して頂き有難うございます!

 私は当ホテルの支配人、爪呂と申します。

 お陰様で宿を求めに来られた方を何とかお迎えする事が出来ました!

 ご協力に感謝します!」


 もう土下座せんばかりの勢いで頭を下げられた。


 と、そこに誰かロビーに入って来て…

「すみません予約していないのですが空きはありますか?!」

 小さい子供を3人連れた女性が。


 あちゃ~。

 支配人さんと顔を見合わせた。

 気分はアレだ、弟が昔読んでた世紀末の漫画で核シェルターの空きが後一人って奴。


******


 支配人さんがもう一部屋キャンセルが出ないか予約者に連絡を取っているが厳しい様だ。


「お困りの様だね」

 また私に声をかける人が。え?

「ぎゃあああああ!」

「酷い歓迎だねえ」

「てかなんでここに時サンが?!」

 また付いてきやがったよこの暇なオッサン!!ストーカーかよ?!


「いやあミキさんがグラシアに携帯で色々話してくれててね。

 世紀末救世主の英断に感涙してたとこなんだよ」

 やってくれたなミキ。ニヤニヤ笑ってんじゃないよ!

 スーが後ろ向いて肩震わせてる?さてはグルだなテメー。

 そしてホテルの入り口前に見慣れたバスコン、四姉妹が手を振ってニコニコしてるし。


 こうなればやる事は一つ。

「支配人さん、私達部屋を譲ります!」


******


 バスコンは弘前の町を抜け、弘松自動車トンネルに向かう。

「はっはっはーいいタイミングだったでしょー」

 助けて貰ったとはいえ、手のひらで転がされてた様なモヤモヤが残る。

 そうだ。この人時間も空間も思いのまま、つまり私達がこうなる事もわかっていやがったな。


 何だか真面目に腹立てるのも馬鹿らしく思えてきた。

「いや~助けて貰ってホンット有難うございました!カンパーイ!」

 せめて運転席の隣で酒飲んで嫌がらせしてやる!

「いい事した後の日本酒はサイッコー!」

「…やる様になったじゃない」

 と悔しそうな時サン。やったぜ!


 バスコンは北に向かって走る。

「北海道行くの?」と助手席から時サンに聞く。

「松前から南は、明日の往路も含めて大丈夫。

 ちょっと函館は残念だけどね」

「この季節だから…オットット。プハー。

 ある程度Uターンは想定してましたけどね。うま~!」

 チビチビやりながら時サンを煽る。


「…あと2時間はかかるから奥でのんびり休んできなさいって」

「そ~しま~す!」

 よし次はストーキングを許した飴ズをとっちめねば。


「うわ~司ンが鬼の表情でこっち来たー!助けてお延さ~ん!」

 スーがニタニタしながらお延さんに抱き着いた。

「あらあら。お手柔らかにお願いしますね?」

 お延さん相手に無茶できないしなあ。


「ビジホ1室に4人ギュウギュウにならなくてよかったじゃないか」

 とお次さん。

「そりゃそうだけどさあ」


「司ンは小さな子供に部屋を譲ったエロイナ(ヒロイン)ネ!」

「かっこいー!」グラ玉まで煽る煽る。だが。

「そ、そう?エヘヘヘ」この二人の純真な笑顔には負けるなあ。


 モヤモヤした気持ちも徐々に晴れて、インターチェンジのループトンネルを出た頃にはすっかり陽は落ちていた。

 初北海道、真っ暗旅の巻。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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