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215/251

215.ガイド白石城 小さなお城は残った

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 国鉄の立派な電車が走り去る隣を、小さな蒸気機関車がシュシュポポのんびり走る。

 更にはその隣の高架線を新幹線が走り去る。

 沿線にはカメラを持った鉄道マニアが写真を撮っている。

 他人の家の敷地に入った不心得者が警察に逮捕され…あ、逃げた、あ、撃たれた。

 警察から逃げたら下手すりゃ射殺されても文句言えないのにね。


「予報だと晴れって言ってたけど、町は曇ってるね」

 もしかして遠刈田温泉、雪降ってない?降ってないみたいだね。

 じゃあ太平洋岸から風でも吹いたかな?

「お?雨かな?」

 パラパラ雨が降った。


「アレ、天守?」

 時々チラホラ見える、小高い丘の上の三層櫓をミキが指さす。

「ん。小さいけど、綺麗な城だなあ」


 東北の小さい城下町の真ん中に見える、小さいお城。

 三層櫓と白壁、楼門と二層櫓の連なる姿。

 東北の雄伊達藩を支え続けた忠臣、片倉家の町、白石だ。

 小雨の中汽車は駅に着き、駅から出る頃には雨も止んだ。


******


 駅から観光用のマイクロバスが三の丸の水堀と東口を越えて二の丸大手門前へ。

 城は丘の上の本丸と下段に細く囲む帯曲輪状の二の丸、その北と東をL字型に囲う三の丸と、それらの更に南以外を守る惣構えからなる。

 水堀は東は三重、北は二重の上城下最北端には土塁が築かれていたけど、土塁は分断されて今や微かに散見される程度だ。


 バスは二の丸北側の厩口門前が終点。そこから厩口門の小さい楼門と、そこから鍵の手に進む厩曲輪を進み、更に小さい楼門の坂口門を入る。


 その正面に、白石のシンボル、三層の大櫓が聳える。


 今回の当番はミキだ。ガンバレー!

「皆さ~ん!この白石城は、かの戦国最後の英雄伊達政宗を守る支城として、彼の忠実な部下、片倉小十郎、景綱が築いたものです。

 小十郎はドラマとかでも政宗の忠臣として活躍して人気の武将ですよネー!

 一部の腐女子では超人気者ですよネっ!」


 その情報は要らんと思うネー!

「現在のお城は何十回も修理されて維持されて、最近になって迎賓館として外国大使を招いて日本文化のセレモニーなんかしてマス!

 そして今城泊を一般に公開するため準備中デース!一泊100万円近いからガンバってお金を貯めましょうネー!

 じゃあ、片倉家の奮闘を説明している本丸御殿に行きましょー!」


 お?ちゃんと本丸御殿の展示物の説明につなげているネー?


******


 大櫓の東側、本丸の石垣はスロープ状になっていて本丸大手を成している。

 高麗門と楼門を潜ると、その右手には東西に長い、杮葺きの表御殿が。


 大手門のすぐ左には切妻の玄関があり、その更に左手には門があって、その向こうには唐破風の御成式台、片倉家にとって主人である仙台藩主、伊達家専用の玄関がある。


「本丸御殿、表向きは現在片倉家顕彰館となっています。

 小十郎サマの御主人、伊達政宗公との熱い忠義と、その後仙台を襲った…


 てか自業自得なんすけどネ。

 伊達家三代、四代で起きた伊達騒動からお家断絶を防ぎ切った家臣の一人、三代影長公もなかなかに活躍されたお方でした。

 政宗公の孫達がヘタレでスケベで、小十郎の孫がしっかりしてた辺り、やっぱ人って一人では生きていけないものですネェ~」


「そう来たか、ま、そうだよなあ」

「伊達騒動は中々ショッキングな話題だからネ」


 そういや三大御家騒動の一つ、黒田騒動は福岡城を訪れたとき微塵も話題にしなかったなあ。

 出石騒動に至っては出石城に行ってないし。

 伊達騒動を描いたドラマもあったけど、小さい頃だったし番組始めの能面が怖くて見てなかった。

 歴史を語るなら大河ドラマみるべきだな。

 フィクションも多いけど、誰が何したって理解するとっかかりになるし。


「伊達騒動ってよぐ解らねーんだでも、ナンがどなったんだ?」

 うわ!地元の人がランに質問した。金とるぞオッサン!って訳にはいかないよね。


「オジサーン、いい質問だヨー!」

「おー、そっがー」おっさん、ミキの笑顔でメロメロだ。

「この白石の殿様、片倉家の本家は政宗公の伊達仙台藩だよネ!」

「んだ」


「その三代綱宗が放蕩者で、江戸の花魁を高値で買ったと思ったら逆さ吊りにして斬り殺しちゃったり、あんまり酷くて幕府から藩主をクビにされたのよね」


「花魁、かわいそーだなー」

 オッサンの言う通りだ。

「そんな騒ぎの後、二歳で四代となった綱村を巡って、家臣で政宗公の孫宗重が好き勝手する様になったのネ」


「政宗公の後釜碌なもんでねーな」

 オッサンの言う通りだ。

「これも幕閣にまで問題視されてね、江戸城の目の前酒井家江戸屋敷でお裁きになったのヨ。

 そしたらその最中、色々のらりくらり逃げてた宗重をネ、告発した原田甲斐って人が斬殺し、チャンバラが起きちゃったのよ!」

「ありまー!」

「江戸の真ん中で死傷者多数って大事件になったのよネ。

 その間、三代小十郎の片倉影長は、あたふたする仙台藩を落ち着かせて、その働きが幕府に認められて、伊達藩取り潰しにならなかったノネ。

 初代小十郎サマのお孫さんは、立派な方だったのヨ!」


「オー!片倉様は偉いなー!」

「ネー!」


 オッサンと盛り上がるラン。いい説明だったよ。

 ただ、周囲の反応は…微妙だ。

 多くの人が仙台から来た人だったからかな?


「こりゃ政宗公と小十郎サマの忠義を表に出した方がいいかもなー」

「伊達騒動はちとマニアックかもね」

 スーとランの言う通りかも知れない。

 いい解説だったけど、初代推しの方がいいかもって助言しないとね。


******


 天守代わりの大櫓に向かう。櫓台より一回り櫓が小さく、空いた二方は白壁が巡っている。

 もっと大きな天守を築く予定でもあったのかな?

 でも主家仙台藩が天守を築かなかったから、遠慮したのかも。

 雲が晴れて、陽が出てきてる。


 最上層は高欄が巡らされ、華頭窓が開かれている。

「オー!あれ見て!」


 小さな城下町に、虹が掛かっている。

 高い場所から陽を背に見ているので、綺麗に半円の虹が東側の城下に掛かって見える。


「お?あれ?あれ、凄いぞ!」

 スーが携帯で写真を撮る。

「ほー!」

 虹が二重に見える。綺麗な二重の虹だ。

「こんなの見たことないネー!」


 他の観光客?地元の人?皆が東を見つめる。


「二重じゃないヨ!三重だよ!!」

「え?どこ?」

「ホラ、外側に、ちょっと薄いけど!」

「「「おー!!!」」」


 小さなお城の三層大櫓から、城下を見る。

 そこには、雨上がりの町に、三重の虹が光っている。

 こんな景色、見たことが無い。


「綺麗ネー」

「初めて見たよ」

「夢みたい…」


 飴ズがうっとりと乙女チックな表情で感想を漏らす。

 ちょっと面白いかも。


「司ンなんとか言えよ」

「ええ。多分。忘れられないかも」

「そだな…」

 暫くすると、外側から虹は消えていった。


 でも、あの景色は。ずっと心に残った。


******


 さあ、次は名城、仙台城だ!

 とその前に、私達は城下の酒造、蔵王酒造に伺って日本酒を補給したのであった。

 そしてお昼に名物、白石温麺を頂いたんだが。


「歯応えないネ」

「あったら駄目だろ、病人食だし」

「う~ん。微妙」

「やっぱそだよね」

 親孝行な息子が病気の親のため考えて作った、油を使わない面は…微妙だった。

 そらそうだよ。病人食だもん。


******


※実際の歴史では仙台藩の支城ながら幕末まで存続を許された白石城の、本丸復元模型(と御殿の平面図)と全体の縄張り図は下記サイトで参照できます。

https://zyousai.sakura.ne.jp/mysite1/siroisi/siroisi.html


※伊達騒動。NHKの大河ドラマ「樅の木は残った」で有名な…って有名じゃねえ!

 でも江戸時代には歌舞伎の演目にもなった有名な話です。


※大櫓から見た三重の虹は、実は作者の実体験です。

 美女達と眺めて感動した…のではなく、一人でしたけどね、ええ。


※温麺の食感は個人の感想です。さっぱりして油を使った麺より美味しいという感想もあります。

 ハッ!今の自分が食べたら…。


※2023年も本日が最後です。拙作をお読み頂き誠に有難うございます。

 皆さま、良いお年をお迎え下さい。


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