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205.四国旅行のその後で

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 飴ズさん達は頑張って、平常心を保ちつつツアーを終えた。

 彼女達研修生を引率した先輩の女性が。


『皆様、三泊四日の旅行をお楽しみ頂けましたでしょうか?

 またアジアにお越しの際は、是非、当徐商会のツアーに御声掛け願います』

 と、美しい笑顔で顧客を見送って。


『あんたら乙~、学生にしちゃ、まあまあだったね』

 彼女たちを労った。ぞんざい過ぎる。

 一同は項垂れた。


 飴ズさん達は知らないが、実はこの女性、徐ファミリーの血縁だ。

 と言っても、司さんが案内した四天王の、ではない。

 あの姉妹、なんと他にも8人も姉妹がいる。

 12人で揃って大陸から逃げてきたのだ。

 どの人もモーレツな、まさにモーレツな個性をお持ちでいらっしゃる。


 その一人、旧姓徐善耶、今では楠見善美さんの娘さんだ。

 そう、司さんにくっついていて最後は連手さんになついていた刀利ちゃんの母親だ。

 そして、人を滅多に褒めないお方である。


******


 後日、徐商会で飴ズさん達のツアーの評定が行われ、これが高評価だった。

 指導員である刀利ちゃんのお母さんがドスの効いた声で言った。

『奴等、相手の顔色伺うどころかどの客にも淡々と事実ばっかり語りやがった!

 これからは。欧米の客を狙うなら、そーゆー…何だ。

 流されないって姿勢が顧客にアピールするんだろーなって。

 ったく!私も可愛い刀利ちゃんと敵情視察に行きたかったぜ!』


『摩耶さん。そちらは私が分析に回しました。

 満足度向上のため何をすべきか。

 今言った通り、プロパガンダ臭とか、歴史被害者ビジネスを押し出せば嫌悪されるでしょう。

 淡々と、というのが最適解なのかも知れませんね。

 これからの案内士やツアーコンダクターをどうすべきか、考えましょうね』


『そっちはどうだったんだい母さん?』

『私は本部長ですよ摩耶さん。

 楽しかったですよ。例の子は案内士にしておくのが勿体無い位。

 いっそ外交官とか歴史学者にでもなればと思いました』

『そんなにか!』

『こっちで確保出来たミストキオのご学友の活躍も、分析が楽しみです』

 楠見夫人は穏やかにほほ笑んだ。

 でも、きっとそれだけじゃあ無いんだろうなあ、と私は思った。


******

******


 時サンハーレムと合流した私は、観光にグルメにとすっかりお世話になり、翌日埼玉に戻った。

 旅のあれこれを両親に話し、労って貰った。


 そして更に翌日、会社に報告へ。


「お客さんにも提携先にもバッチリ好評頂いたわよ~!

 やっぱ貴女は色々持ってるねー!」

「え?でも迷子を出しちゃったり…」

「先方からも『親切に対応してもらい、はぐれた孫を探してもらって感謝します』って来たわよ」

 ありがたや!私は安心したよ。


「他にも、全体的に雰囲気よかったとか、同行した家族同士仲良くなれたとかの意見も頂けたよ」

 うん。最後の方、お客さん同士の会話も増えていて、一緒にいて嬉しかった。


「ま、あんたが先制攻撃咬ましたのが効いたのかもね」

 ??先制攻撃?


「行きの船、風呂で奥さんと子供に注意したでしょ?そこがよかったんだよ」

「いや、あれ下手したらクレームとかに…」

「今回はそうならなかったじゃない。

 まあどっちに転ぶかは先方次第だったけどね。

 あんたは賭けに勝ったのよ。


 アメリカンマムとキッズがあんたのファンになって、インドの英才があんたのファンになって、流れを掴んだんだよ。

 一歩間違えればサイテーな旅になってたかもね」


 う~ん、これは反省すべき点なのかも。


「面白いケースだし、分析すべきポイントかもね。

 ツレテク社さんからも同行して貰ったって感謝が来てる。

 色々整理出来たら細かい話も聞かせてもらうわよ。

 まずは、清算とか済ましてらっしゃい!」


******


「「「お疲れー!」」」

 飴ズと合流した私は、上野のビヤホールで寛永寺と東照宮を見下ろしながら乾杯した。

「いや~シルバーウィーク疲れたねー!」

「でも結構稼がせてもらったネ!ママに仕送りしたヨ!」

「摩耶叔母さん厳しかったよー!司ンはどーだった?」

「こっちも大変よ。ツアー前のフェリーの大浴場でお客さんと会っちゃったりね」

 壮大な愚痴り合いが始まった。

 ジョッキが次々と消えていく。


 そんな話をしつつも私は思った。

「でも、楽しかったなあ…」

「「「え"え"~?」」」

「あれ、そっちは違うの?」


 しばらく迷ってスーが答えた。

「ま、色々質問に答えるのは手ごたえがあったかな」

「最後はお客さんみんな感謝してくれたしネ」

「でも大変だったよ、疲れたよ~」

 飴ズはそうだったのか。


「これからずっとこの仕事をしてくんだから。

 もっと楽しんで貰わないとね。

 小さい子供の相手の仕方とか、相手によって変えていかなきゃって思ったりね」

「前向きだなあ、司ンは…」

「ツアコンならそういう資格とか経験も必要かもネ。

 でも私達、案内士やツアー企画をするんダヨネ?」


 などとグダグダ飲んでいて、ミキが言った。

「それよりサー、卒業旅行いかないカナ?」


 一同は呆気にとられてミキを見つめた。


「私達の仕事のそもそもの切っ掛けって、考えてみたら年末の関東巡りだったじゃないカナ?

 あ~ゆ~のをサ、今度は自分たちでやってみよ~ヨ!」


 ミキが思わぬ提案をしてきた。


「あの時は結局オジサマ軍団に負んぶに抱っこだったけど、自分たちで運転したり電車を調べたりして道を感じて、食べるお店も選んでサ。

 それなら失敗しても仕事の時ここはダメだって役に立つよネ?」


「そだなー。これから色んな旅を企画するんだし。

 自分たちで予行演習的にやってみるのもいいかもね!

 司ンはもう夏にご両親相手にやったんだろ?自主企画を」

「お、おう。」


「来年卒業が確定した後、2月から3月頃、どうかな?」

 ちょっと待て、2月に東北だと?

「でもそれだと道とか雪とか大変じゃない?下手したら八甲田山だよ?」

 子供のころテレビで見たすごく怖い映画で、みんな雪の中で死ぬ奴だ。

「トラブル対応の練習も兼ねてネ」

 う~ん。天に我は見放されたくないなあ。


「色々気象条件や交通停止なんかの事例を考えよう。

 下手したら駅に着いても城まで積雪2mとかなってたら悲惨だし」


「そんな事あるのかな?」

「いやいや、なんでも最悪を想定しなきゃ」

「さすが世紀末覇王案内士」

 人を死神か何かみたいに言うなー!


 私達、学生時代最後の旅がスタートした。


******


※今回で、四国旅行編は終了です。お楽しみ頂けましたでしょうか?

 長曾我部氏の近世城郭、16世紀半ばの城が浦戸城しか紹介できず、シルバーウィークという短期を駆け足で過ごしたかなと思います。

 一宮城とか甘崎城とかに時間が割けたら…もう2泊必要かな?

 他にも瀬戸内の水軍城も近代まで生きていた、大型の軍艦も停泊できる様改修されていた、何て話ができれば、英国伯爵がまた来てくれるかもしれません。


※次回から最終章、東北旅行が始まります(予定)。

 当初予定では、南蛮征伐で台湾やフィリピンに築かれた和城(倭城はこの世界では存在しません)を、蔚山城や西生浦城、順天城等をモデルに描く構想もあったのですが…

 設定を考えきれなかったので(そもそも16世紀後半のポルトガル・スペインの要衝はどの港だったのか、ってレベルでして)断念しました。

 前回チラっと出た和城がその名残です。


 そろそろ次回作も考えなければ。

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