202.お宿は徳島眉山 旅のおわり
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
『では、全員揃ったところで、乾杯!』
アラン氏が陽気に乾杯の音頭をとる。
『皆さん、ご心配を掛けました』
『どうもすみません』
『連手さん、孫を見つけてくれてありがとうございます』
保護者一同が口々に詫びる。
私と連手さんも立って頭を下げる。
『もういいじゃない。お姫様も無事救い出したんだし。麗しの勇者様がね』
と笑うアンヌさん。
刀利ちゃんは連手さんの隣にくっついている。
『楽しい4日間だったね』『そうね』とフレンチカップルはイチャイチャ。
でもこの2人になんとなく救われた。
「時尾さんもすみません、本当ならお客様の引率には関係ない立場なのに」
「いえいえ、同行している以上私も注意する必要がありました」
『これ以上お詫びは無用よ。レイチェルちゃんもリチャードちゃんも、旅行楽しかったわよね!』
頷く二人。
『じゃあ笑顔でいなくちゃ!最後の夜も楽しく過ごしましょう!』
また頷く二人。
『返事は元気よく!』『『イエス!マム!』』
あ、二人に笑顔が戻った。
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『色々勉強になったよ、ありがとうミスツカサン』
いつの間にか苗字呼びが名前呼びになってンが付いてるし。
アーメッド氏が機嫌よく話しかけてきた。
『この小さい島にも日本全国の歴史の影響があって、立派な城が幾つも築かれてる事に驚いた。
他の日本の都市を訪れる事があれば、また城や大名の歴史を調べて勉強するよ』
『本当に時間を旅した気分だったよ』とフーバーマン氏。
『大都会の中に木造の城と御殿、不思議な体験だった』と続ける。
『日本は面白いだろ?』と得意げなグランパ。
『親父が惚れ込むのも解るよ。また来ような』
『『イエッサー!』』
『今度は勝手に飛び出さないのよ!』
親子で仲良しだ。
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展望風呂でビバノンノン。市内、眉山の山頂にあるホテルなので徳島の町が星空みたいに光って見渡せる。
一同で入浴。刀利ちゃんはまだ連手さんにくっついてる。
でももうじきお休みかな?コックリコックリしている。
「時尾さん、今回は本当に助かりました。色々教わっただけじゃなく、最後はお客さんまで任せてしまって」
「いえいえ。連手さんも最後の方は堂に入ってたじゃないですか」
「教えて貰ったからですよ」
「私も、偉い先生に教わったからですよ」
「へっぷし!」
なんか男湯の方ででっかいくしゃみが聞こえた。
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部屋に帰った。
「私、本当に迷ってました」
私と連手さんは会社への報告を終えて市内の酒「御殿桜」を頂いていた。
最初のころは、もうおしまいだあ~みたいに悲壮な顔してたもんねえ。
「でも、何故でしょうね。
今回の案内は、本当に、とっても、素敵に感じたんです。
最後に刀利ちゃんを迷子にさせちゃったんで、評価は厳しくなると思いますけど…」
こういうのは下手すりゃ賠償とか訴訟とかに発展しかねないからね。
「それでも、子供たちと触れ合って、お客さん同士が仲良くなって、うれ…」
あれ?声が震えてる?
「嬉しかった。お客さんに楽しんでもらえる旅をして貰えた」
涙を流しながら、連手さんは微笑んだ。
「一緒に勉強しましょ。提携企業同士なんだから」
「時尾さんは、先生みたいですね!」
「先生はイヤですよ、ブラックだし」
いい加減ブラック企業は法律で罰してほしいもんだ。
「それに、今回はお客さん達に恵まれましたね」
「本当にそうね。皆さん、とてもいい方達でした。
お別れするのが残念な様な…」
そういわれて、私は時サン達との初めての旅、徐姉妹、ピーコック卿、いやキャプテン達とのお別れを思い出した。
「そう思うと、次の出会いもまた待ち遠しくなるのかな?」
「やっぱり、時尾さんは素敵なガイドさんですよ」
眼下に広がる徳島の町を眺めながら、私達は最後の夜をまったり楽しんで、更に温泉を楽しんだ。
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翌朝、みんなは朝から乾杯した。ガイジンサン、サケツヨイ。
私も連手さんも遠慮したが、どうしてもという事で一杯だけ頂いた。
『マム…寂しいです』『日本の女の人とのお別れは、悲しいよ』
リチャード君、君はピンカートンかよ?
子供たちは旅の終わりが寂しいのか、私と連手さんに群がる。
『東京まで迷子にならないでね』
『旅の思い出を忘れないでね』
『お父さんとお母さんの言うことをよく聞くのよ』
などなど、声をかける。
そして、一行はバスで徳島駅へ、あるいは東九フェリー乗り場へ、送迎バスで旅立つ。
『大変世話になったね!また日本に来たら宜しく!』
『グッバイマム!』『綺麗なマム!』『こっちも綺麗なマムだよ!』
マムがリチャード君をどついた。
フーバーマン一家が笑顔で去っていく。
『とても勉強になりました。なかなか日本には来れないので、次にはユセフが大人になっているかもしれないね』
なんか恥ずかしそうにお父さんにしがみつくユセフ君を抱きかかえ、アーメッド一家も去っていく。
『次は新婚旅行かな?』『もうアランったら!』
フレンチのラブラブカップルも。
『昨日はご迷惑をお掛けしました』
『聞いていた通り、とても素敵なガイドさんでした』
『おねえちゃんバイバイ』
楠見さんたちも。
後に残った私達二人。
「みんな行っちゃいましたねー」
今回はフツーな旅、だった筈だけど。
チビッ子パワーに最後まで振り回され、楽しませて貰ったかも。
「こんな寂しい気持ち、久々です」
その気持ち、大切だよね。
そして連手さんも。
「私はこれから大坂に戻ります。時尾さんはこの後ご自由だそうで」
「はい、行ったことない淡路島にでも寄ろうかと」
「では、ここで失礼します。
私、もっと頑張って、ミストキオみたいに愛される旅のパートナーになりますね!」
私そんな大したもんじゃないよ、まだ学生だよ?
そんな私にとびっきりの笑顔を残して、連手さんは去っていった。
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※眉山の山頂にあるお宿は、下記のホテルがモデルですが、現在改装休業中とか。
私が徳島に行ったときは行き当たりばったりだったんでこんないい宿を知らず、市内の、それこそ襖一枚向こうは他人の部屋なんて安宿に3000円くらいで泊まったものでした。
https://bizan-kaigetsu.com/
※司ンが部屋で飲んでたお酒「御殿桜」は、市内の斎藤酒造所のお酒です。
https://www.gotensakura.com/
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。