201.ガイド徳島城 お姫様を探せ!
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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陽が朱に染まりつつある高松駅を、特急うずしおが発車する。目指すは徳島。
『勇敢なソルジャーズ、高松城はどうかな?』
『イエスマム!面白い恰好でした!海から見たら綺麗でした!』
連手さんが私と一緒にチビッ子達の相手をしてくれている。助かるわ~。
『ワウ!列車が、斜めに!斜めにー!』
四国名物、急カーブ対応車両「振子車」なんだけど…今まで気づかなかったのかな?
松山から丸亀の間もウィンウィン言いながら角度変えてたんだけど。
『さっきまで、景色に夢中でした!』
私の向かい席でおねむしてたもんね。
『四国はね。真直ぐな道が少ないの。
鉄道は曲がりくねった道を無理やり通して作られて、曲り道が多いのよ。
そこを早く進むために、遠心力で振り回されて脱線しない様に、曲道に入ると客車が傾いて、遠心力を抑える様右に左に揺れる、振子車が作られたのおおお、っとっと』
言っている先からカーブに入って車両が傾く。
『そんでおおおっとっと』さらに反対側に傾く。
『マム、やっぱり〇ィズニーより楽しいです!!』
『『『たのしー!!!』』』
ようこそなんとかパークかよ。のけものはいないよ。
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徳島駅に着く。駅ビルと線路の向こう、寺島川の対岸に徳島城がある。
駅を出て国道を東に進み川を渡ると、堅固な三層櫓と多門櫓が、しかも普通軒端で白壁になるところを全面下見板張りにした無骨な建築が私たちを迎えてくれた。
対岸の下見板張りの壁は随所がくの字型に張り出しており、横矢掛りの腑射装置となっている。篠山城とかと同じだ。
『16世紀後半、豊臣秀吉が四国を征服した際、阿波の国は腹心の蜂須賀小六に譲られました。しかし彼は高齢のため息子の家政に領地を任せました。
徳島城は蜂須賀家政が築いた城です。
しかし実際は四国で降伏した長曾我部氏、岡山の小早川氏にも命じて大急ぎで築かせたのでした。
こうして豊臣家は、天下統一を世間に印象付けさせたのです。
そして蜂須賀家は、徳川家へ権力が移る中でも存続し、19世紀の近代化まで存続しました』
『立派な城が、地方を鎮圧した権力者のシンボルになっているんだな』
グランパが言う。
『豊臣政権は分かりやすい道具に金を使いました。高く聳える天守の軒丸瓦と、最上層にそびえる鯱に、金箔を貼ったのです』
と答えたものの。
『しかしこの徳島城では金箔瓦は使われませんでした。余程慌てて築いたのでしょうかね』
と補足しておいた。
『この櫓が天守、という訳ではないのだね』
とアーメッド氏。
『はい。山麓の天守ともいえる太鼓櫓と、それに大手の枡形、そして東端に高欄を巡らせた月見櫓、それらをつなぐ多門櫓。
城の正面を華麗に演出しています』
大きな三層の太鼓櫓は最上層が高欄で華頭窓が設けられ、月見櫓は初層が連格子窓で二層目が高欄となっている。どちらも装飾性の高い櫓だ。
『天守を攻めるぞー!』
『イェスマム!』
あ、チビッ子達が御殿をすり抜けて天守の方へ行ってしまった。
『追いかけましょう!』
私は言った。
『まあいいんじゃないか?あの子たちも随分仲良くなったし』
と、のんびりフーバーマン氏が答える。
だが、ここは敢えて言わなければ。
『いえ、城は観光地じゃありません、戦いの施設です。
危険な場所もあります。子供だけで遊ばせたら迷子になるし、転落する恐れだってあります!』
『私が追います。時尾さん、皆さんをお願いします』と連手さんがダッシュした。
『その…迷惑を掛けてしまったね』
フーバーマン氏がすまなさそうにする。
『まずは彼女に任せましょう。大人がついていれば大丈夫でしょう』
私たちは博物館になっている御殿に入った。
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博物館を見学した私たちは天守へ。
『あの、中腹にあるのが天守なのかな?』
『はい。創築当初は山上の本丸にありましたが、後に山の中腹、城下町から見え易い位置に移されました』
その見え易い場所、東二の丸。
石垣は下見板壁に囲まれ、その内側に立つ天守は一見四層にも見える。
東二の丸に入ると、天守台の石垣は一段、天守はほぼ地面に建っている様だった。
天守は望楼式、一層の大櫓、大入母屋の上に二層の櫓が載る形で、妻側の二層目は出窓と唐破風で装飾されている。
すると天守の中から連手さんが。
『刀利ちゃんがいません!』
迷子になったかー?!
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レイチェルちゃん以下三人がバツの悪そうな顔をしている。
『刀利ちゃんを見なかった?』
『わかんない。お姫様いなくなっちゃった』
泣きそうな顔で答えるレイチェルちゃん。
いつもなら手をつないでいたのに。
『ミスツカサン。私達も探すよ。娘達が悪かった』
フーバーマン氏が申し出た。
『時間を決めた方がいい。30分後に天守入り口集合でいいでしょうか?』
アーメッド氏も言ってくれた。
『いえ、皆さんはお客様です。探すのは主催者側の私達の責任で…』
『ウチのバカ娘が調子に乗り過ぎたんです!ごめんなさい、ミスター楠見』
マムが頭を老夫婦に下げる。
『いえ、子供のする事です。どうか、レイチェルさんをあまり叱らないで下さい』
楠見さんが申し訳なさげに頭を下げ返した。
連手さんは城の事務所に電話している。
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結局天守の中にはいなかった。陽は沈んでいる。
一同は天守入り口に集まって、困った顔を見合わせた。
天守にいないければどこを探すか。あ。
『レイチェルちゃんは天守に行くって言ったよね』
頷くレイチェルちゃん。
『もしかして本丸、山の一番上に天守があると思って…』
『私、本丸に行ってきます!
時尾さんは皆様をホテルまで案内していただけますか?』
『わかりました。では皆さん…』
『トーリちゃんも、私達の大切な旅の仲間だ。
ここに残しては行けません』
と、アーメッド氏。
『せめて、待たせてもらえないだろうか?子供一人置いていくのもねえ』
と、アラン氏。
『アラン、優しいわぁ!私もあの子が返ってくるのを待ちたいわ』
アンヌさんも言ってくれた、
『皆さん、孫のために済みません!』
楠見夫婦はまたも頭を下げた。
お客さんの皆さん、優しいなあ…
いかん、他人事じゃない、刀利ちゃんに何かあれば私の責任でもある。
暗い中森の中に入って万一転落でもしたら…
あの時直ぐに追いかけていれば、止まる様声をかけていれば、そう思うと刀利ちゃんと楠見さんに申し訳なく思う。
でも今は役割を果たそう。
『では皆さん。大手前で待ちましょう。連手さん、刀利ちゃんを頼みます』
私は一行を連れて大手前へ。
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ホテルの送迎バスに待機してもらって、会社に一報を入れて二人を待つと…
あ!来た!
連手さんが刀利ちゃんを抱っこして門から出てきた。
『『『オー!!!』』』
一同に笑顔が戻る。
楠見さんが皆に一例して、刀利ちゃんの元へ走る。
『よかった。やはり皆揃ってホテルへ行かないと』
とアーメッド氏が言う。
『みなさん、ご迷惑をお掛けしました。
レイ、皆さんにお詫びしなさい』
フーバーマン氏に言われ、立ち上がってレイチェルちゃんが頭を下げた。
『みんな、ごめんなさい』
半泣きだ。
『ごめんなさい』『ごめんなさい』
リチャード君も、ユセフ君も立ち上がって頭を下げた。
『君たちはまだ小さいよ。そんな気に病まないでね』
アンヌさんが優しく言った。
『皆様、お待たせしました、大変ご心配をおかけして申し訳ありませんでした』
連手さんが頭を下げたので私も一緒に下げた。
『みんなも揃ったし、最後の夜だ。乾杯しに行こうじゃないか!』
『そうね!みんな一緒が一番よ!』
アラン氏とアンヌさんがそう言ってくれた。
なんというか、救われた気がした。
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※現JR徳島駅は、かつて徳島城の西の堀の役をなしていた寺島川を埋め立てた跡に車両基地を含めて立ってます。この物語ではそのもう少し西に位置し、城の南端に向いて駅ビルが建っている様です。
かつての徳島城の盛観を描いた余湖くん様の復元図は下記の通りです。
http://mizuki.my.coocan.jp/sikoku/tokusima.htm
※山麓部分の復元模型は地元の高校生が作った模型で再現されています。
現在、三の丸御殿は模擬建築ですが御殿風の博物館が建てられています。
https://ameblo.jp/rocknrollwidow7007/image-12321023287-14052222381.html
※猪山の山頂ではなく、中腹の東二の丸にあった天守の復元模型は下記の通りです。
当初本丸西端に上げられ、それが解体され新築されたとも移築されたとも言われます。
https://ameblo.jp/etsuko61/image-12693402624-14989738272.html
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。