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196.ガイド今治城 大雁塔みたいな五層天守

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 予讃線を松山から今治へ。

『これがね、私のお友達が描いたお城だよ。江戸のお城がこれだよ』

『わー!すごーい!』

『ホテルから見たのと同じ!』


 もう私が指定席を買い足して一行の方に行く事にした。

 移動の間、次グラ画伯ズが描いたお城の絵を見せた。


『マム!これから行くお城の絵はありますか?』

『あるけど…着いてからのお楽しみ、にした方が良くない?』

『イェスマム!解りました』


 レイチェルちゃん、元気だけど…


 苦笑いしている本当のマムに聞いてみた。

『ミスレイチェルは、軍人に憧れているんですか?』

『グランパに遊んでもらった癖よ。グランパのせいだからね!』

 なんと!女の子相手に軍隊ゴッコはよくないなあ。

『むうう…こんな大きくなっても軍隊ゴッコが治らないとは。

 思いもしなかったよスーザン』

 済まなさそうにしょげるハロルド氏。


『まあ、礼儀正しく、素直な子になる分にはいいのでは?』と私はお茶を濁した。


******


 今治駅着。

 今治城は三重の方形の堀に囲まれているが、北東は海なんでここだけ二重って感じ。

 何となく、ピーコック卿達と言った三原城を思い出すなあ。


 駅前ターミナルは外堀のすぐ外、元武家屋敷、時代が下って駐屯地化した一帯の南西にあった。

 正面通路の先に北の門がある。

 ここにも、観光用のミニトレインがある。

『乗車―!』『『ヤー!』』「やー」キッズが乗り込み、大人も苦笑しながら続く。

 私はレイチェルちゃんと刀利ちゃんに手を引っ張られて、子供達の車両に乗り込む。


 しゅしゅぽぽとスピーカーから出る音と共にミニトレインは北の門へ。


  北の門の先は、内堀に囲まれた内郭。破風飾りも無い、層塔式?二層の白亜突上げ窓の櫓が出迎える。

 凄く幅が広い内堀には、水面上の低い石垣と平地、その内側に高石垣が聳える。

 その奥に、白い五層の天守。破風等の飾りが最上層の入母屋の軒唐破風以外無い、日本初の層塔式天守と言われる今治城天守だ。


 トレインは内郭の海側、御鉄門を守る馬出の北側、新門をしゅしゅぽぽと潜る。

 歩いて入るのと違って、子供達は嬉しそうだ。何より何より。

 

 すると土橋の両側を壁で守られた先にコの字型の多門櫓で固められた三之丸御鉄門。


 北側の武具櫓、南側の御金櫓、いずれも破風の無い不愛想ながらスマートな印象の櫓に守られ、その中央に五層天守の上部が見える。

『シネスコの迫力だなあ』とグランパ。流石表現が古い。

 トレインは広い内堀を渡り、御鉄門の内側で下車。


「でんしゃ、たのしかったねー」と、刀利ちゃんがニコニコとレイチェルちゃんに言う。

「ベリーファン!タノシー!」意を汲んだのか、レイチェルちゃんもニコニコ答える。


******


『今治は、宇和島城を築いた藤堂高虎に、徳川家康が新たに与えた領地です。ここに彼は海に面した今治城を築きました。

 向こうに見える五層の天守は、彼が考案した日本最初の層塔式天守、と言われています』


『天守の方が近そうだよ!』と子供達はレイチェルちゃんを先頭に本丸へ行ってしまった。

『すみません、順番が逆になりました』とアーメッド氏がユセフ君を追いかける。

『あの冴えたお方も、お子さんには勝てませんね』と英語で楠見さんが言って、お孫さんを追いかける。

「こりゃ順路変更ですね」と私も追いかける。

「では、先に天守へ行きましょう!」と苦笑しつつ連手さんがフーバーマン家とフレンチカップルを引率する。


 L字の長大な多門櫓の下に開いた本丸御門を入り、城内唯一千鳥破風を持つ大櫓に見下ろされて本丸に入ると、何もない本丸の真ん真ん中に、ドーンとこれまた破風の無い不愛想ながらシャープな五層天守が聳える。


『マム!何だかロケットみたいなテンシュです!』

 ロケット…そんな例えもあるかあ。


 アーメッド氏がしげしげ眺め、『長安の大雁塔みたいですね』とこれまたイカした事を言う。


『今治城天守は下層から上層まで規則正しく小さくなる層塔式天守で、破風等の飾りが無い、津山城天守や佐賀城天守の兄弟の様な天守です。

 また、大坂城の豊臣秀頼を包囲するため丹波亀山城の築城を命じられた藤堂高虎がこの今橋の天守を解体して移築しようとしたところ、徳川家康からそれには及ばずと止められ、同じ設計の天守が上げられたという逸話もあります』


『凄いゴマスリだなあ』アーメッド氏、容赦ない。


『で、何故藤堂高虎は築城の名手なのかな?宇和島城と大洲城の時も彼の名が出て生きた。

 江戸城や名古屋城に行った時も聞いた。彼にはプロフェッショナルな技術があったのかな?』


 こういう鋭い問題は私の担当だ。


『まず、彼が築いた城の多さが理由の一つです。特に、豊臣政権や徳川幕府の命令に従い、軍事拠点を抑える築城に応え続けたのは天下人にとって褒め称えるに値するでしょう』

『他の大名は?』

『やはり、加藤清正です。自分の居城である熊本城や、名古屋城。フィリピンや台湾にも幾つも日本の城を残し、さらに治水工事や開拓にも土木技師団を派遣し、日本各地で神の様に信仰されています』

『日本は民と支配者、おまけに神の距離が近いなあ!』

 グランパが感心した様に言った。


『この今治城でも、海沿いの湿った土地に高い石垣を建てるため、水面に近い低い石垣で土地を固め、その内側に高石垣を積み上げる、犬走という工法を使っています。

 後に移封された津城でも、徳川氏の命で築いた篠山城でも犬走を使って立派な石垣を築き上げています』


 皆さん頻りに感心していらっしゃる。

「でも立派な天守がなきゃねえ」とかどっかの超人姉妹みたいな事は言わない。

 それにここには立派な天守があるしね。


『マム!頂上を征服します!』

『走っちゃ駄目だよ』『『『イエスマム!』』』「まむ」

 刀利ちゃんもレイチェルちゃんに手を引かれて天守へ向かった。


「勉強になります!」

 まあね、お城の事ばっかり勉強する訳にも行かないでしょうし。

 私も交通とかグルメポイントやショッピング、お得な交通割引チケットなんかも抑えた案内が出来ないとまだまだ一人前の案内士じゃないんでしよ。


 時サン譲りの城と歴史に特価した知識は頑張って提供しないと。


******


『この今治城天守は、地面から最上部の梁までを支える心柱を必要とせず、各フロアまでしか柱が無く、それが積み重なる構造を取っています。

 当時日本では多くの城が築かれ、天守が上げられていました。

 これに応えるため、また天守建築の高層化、技術の発展という背景の中で、藤堂高虎は層塔式天守を実現させました。

 この構造が進化して、各階の柱が上の階まで伸び、二階建ての箱を一階づつ重ね合った様に進化し、江戸城や大坂城の様な巨大で耐震性のある構造に進化していったのです』


『五重塔と言い、日本は古代から地震と戦いながら高層建築を残して来たんだなあ…』

 東大寺の七重塔とか怪物クラスのものもありますしね。


『日本人は強い。巨大なのに脆弱な中国とは違う強さと怖さがあるな。

 全面的に戦っていたら双方の潰し合いになっていたかもしれないな、ハハハ』

 いえ、もしWW2で日本がUSと戦争してたら、完璧に潰されたのは日本ですよ。


 最上層だけには、装飾めいた高欄と軒唐破風が設けられている。

 外はすぐ海だ。

『海です!島も一杯!』

『瀬戸内海は島が多くて700以上の島があるんだよ』

『なんでそんな島があるの?』


 ん~。地理はちょっと苦手だけど、聞いた話を…

 と、連手さんが目で合図する。よし、ここからは先輩にお任せします。

 連手さんは子供だけじゃなくて、親御さんにも案内するため、皆の方を見て話す。


『昔、瀬戸内海は陸地、山でした。

 それは氷河期の頃です。

 そして地球が温まって氷が解け、海水が増えて山が沈み、瀬戸内海が出来ました。

 今の島は、沈んだ山の頂上なのです』


『日本は小さい国土に色々な物語が詰まっているね』

 アーメッド氏が感心した様に言う。


『世界のどの国にも、同じように魅力的で面白い物語があると思います。

 大変な歴史も、文化の興亡も。

 私達が知っているお話を、皆さんに楽しんで頂ければ幸いです』


 連手さんは深くお辞儀した。

 先輩の風格!ベテランの風格!やっぱこうならなくちゃ!


******


 本丸を出ると、トレインが待っている。

『では、海の上からお城を見ましょう!』


 皆でトレインに乗って南東の大手門を出ると、遊覧船乗り場があった。

 そこから船で城を海から眺める。

『素敵ー!』

 フレンチカップルのアンヌさんがカレシに抱き着いて感動している。


 洋上には、土手の向こうの石垣に、二層櫓と白壁が連なって輝く。

 その奥には内郭の石垣と櫓群、そして天守。

『海に浮かんだピラミッドみたーい!』

 どっかの水族館かよ?

 大雁塔とかピラミッドとか色々言われた今治城天守。でも、周囲の櫓のスマートさと相まって…

『美しいわ…』

 うん。レイチェルちゃんの言う通りだ。


「この景色を忘れないで」

 と思わず口にしてしまった。


「ほんと、そうですね」

 連手さんが聞いていた。恥ずかしい!

「時尾さんと一緒だったら、忘れないかもしれませんね」

 なんか悲しそうな顔してるし。

 何か嫌な事でもあったんだろうか。


******


※マイナーながらも見応えがある、でも肝心の天守が台無しな、築城の名手藤堂高虎の魅力あふれる、でも天守で台無しな今治城。

 史実では天守は解体され丹波亀山城に移築されたため、江戸期を通じて天守の無い城でした。

 その時代の復元図は、下記ページの真ん中位にあります。

https://krdayji1988.blogspot.com/2019/01/minecraft_7.html


 縄張図は下記の通りで、今は内堀の中だけが残っています。

 劇中の海岸線など戦後には失われています。

https://sekimeitiko-osiro.hateblo.jp/entry/imabarijo-ehimekenn


※現在城址に居座っている模擬の天守モドキのコンクリ建築、どう見ても木造建築の常識では存在し得ないヒョロヒョロのモニュメントです。

「新たに発見された古図に基づき」と言いつつあんな有り得ない姿になっていますが、その古図というのがどう見ても小学生の夏休みの絵日記みたいなシロモノ。

 折角木造で幕末の写真に忠実に復元された櫓や門を台無しにするかの如く醜悪な存在です。


…それでも長らく建っていると、そこに住む人達にとって、また訪れる人達にとって、思い出の姿になるのでしょうね。


 劇中では丹波亀山城天守と同一の姿をイメージして書いていますが、それもまた確たる裏付けの無い話ではあります。


 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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